AlasdairY

映画を観る文芸編集者です。

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逆説としての『アメリカン・ユートピア』

 デイビッド・バーンとトーキング・ヘッズのことはかろうじて知っているし(暇でやることがない待ち時間にデイビッド・バーンごっこをするくらいは親しみがある)、西洋の音階やリズムを超えて痙攣などしているところはおもしろくて、安心して聴くことができる。  でも自分は音楽の人間ではないので、ノリノリで観ていて超絶楽しいなこれ!、スタイリッシュさとダサさが混在しててすごいな!、と思いつつ、やはり観ながら頭のどこかで、これは私のために作られた映画ではない、と思う。 「こういうの観てると逆

    • 『ファーナス/訣別の朝』

       いいね、いいね、傑作です。  米国から派遣されたイラクで地獄に憑りつかれたせいで、帰国後にほとんど自滅に近く殺害された弟(イラクには繰り返し4回行った、という設定がまた壮絶)の仇を討つ兄の物語。  舞台はいわゆる近年「ラストベルト」と呼ばれるようになった鉄鋼の町。弟は、イラクより帰還後、町で唯一の労働を提供する「鉄工所だけでは働きたくない」、と主張し没落していく。なぜ鉄工所では働きたくなかったかと言えば、それは「父も兄も全員鉄工所で働いていた」からでもあり、父(=国家)

      • 『万引き家族』

        『万引き家族』が大傑作だった件。  是枝裕和がパルムドールを取るなんてこれまでの作品からいったらほぼあり得ないわけで。本作も毀誉褒貶渦巻いている気配があったので「それほどいい映画じゃないんだろうね」と、クサすつもり満載で観に行ったら、悔しいことに本当に素晴らしい映画だった。  映画の中盤あたりで「あれ?、ここまでクサすポイントないかも」と焦り始め頭を巡ったのは、 「これこのまま突き進めるわけがなく、カンヌで評価ってことは誰か死ぬくらいのカタストロフィが必要で、そのカオスを

        • 『あなたの名前を呼べたなら』

           美しいラブストーリー。メイドとして働きながら、鳥のような自由を夢見る女性ラトナの、運命が切り開かれる、ほんの数日を切り取る。  インド・ムンバイの美しい映像は、まるで都市を問い続けるアジアの映画監督、ロウ・イエやジャ・ジャンクーの撮る中国、ウォン・カーウァイの撮る香港のようだ。  その中にいる若い男女の浮遊と哀切は、インド社会の前近代的な雰囲気の中にあり、もどかしいくらい超保守的で、性的にもかなりナイーブな価値観の中にあるといえる。  古い因習と階級格差に縛られた若者たちは

        逆説としての『アメリカン・ユートピア』