見出し画像

読んでみた:レベッカ・ヤロス Fourth Wing (2023)

 今年4月に発売されるや、売れまくっている本書を読んでみました。すでに某社には、レジメとして提出して、同社では出さない判断が下されました(まあ、このレジメの内容から、当然の判断でしょう)ので、このレジメをフリー素材(?)として公開する次第です。(一応、せっかく書いたレジメなので、埋もれさせるのももったいない)
 とにかく、売れている本なので、人によっては、とても高い評価をするかもしれません。ただ、私には、合いませんでした。女性主人公が意中の人とはじめて臥し所を共にする場面(おそろしく長い濡れ場)で、主人公の超能力により、部屋のカーテンが燃え、激しい肉体のぶつかり合いで家具が壊れまくる、というのは、エロスよりもヴァイオレンスを感じてしまいました⋯⋯。

 Fourth Wing by Rebecca Yarros (Red Tower Books, 2023)

【梗概】
・YA&ロマンス小説作家であるレベッカ・ヤロスの初本格ファンタジー(2023年4月刊)
・発売以来、ずっとローカスなど各種ベストセラー・リスト入りを続けている
・邦訳枚数400字換算1,600枚~1,700枚 (185,000 words)
・Empyrean(蒼穹)シリーズの第1巻。第2巻であるIron Flameが2023年11月刊行予定。全5部作になるらしいが、3巻目以降の詳細は、まだ明らかにされていない。
・正直言って、いくらなんでもという無理な設定や展開が目立つため、何故ヒットしているのか、その謎を解こうとする読書になった。結果的に、その謎は解けなかった。
・凝った設定の異世界ファンタジー(ロマンス小説要素強し)という感じで、多分女子ウケしているのだとは思うのだが。後半、女性主人公が意中の男と結ばれるあたりが読んでてきつかった。濡れ場が長すぎるし、表現があからさますぎる。ゆえに、日本ならば読者対象は高校生以上が適当か、と。
・ほぼ全編女性主人公の一人称現在形の独白というナラティヴは、そのまま現在形で翻訳するとおそろしく読みにくくなるのは必至。

【物語の設定】
・魔法とドラゴンとグリフィンとワイバーンが存在する中世的世界
・作品世界は、地理的には、大陸というより大きな島程度の印象(四方を海に囲まれている。一応、「大陸」とは称されている)
・この大陸は、Navarreという王国と、Poromielという王国に二分されていて、ほかにThe Barrens(荒野)というどちらにも属さない地域がある。
・NavarreとPoromielは、山脈によって国境を隔てられており、つねに紛争(小競り合い)をつづけている。一応、停戦協定は結ばれているが。
・Navarreの最大戦力は、ドラゴンとそれを操るドラゴン・ライダー。Poromielの最大戦力は、グリフィンとそれを操るグリフィン・フライヤー。
・ドラゴンは(おそらくグリフィンも)、乗り手と絆を結ぶことによって(選択の主体はドラゴン側)、人間と結びつき、その結び付きからくる超能力(signet)を乗り手が顕現させて駆使することになる。
・ドラゴンとグリフィン以外にお伽噺(fable)上の存在として、vermin(蛇人間?)とverminが操るワイバーンがいる。verminは、ドラゴン・ライダーやグリフィン・フライヤーになれなかった人間が、嫉妬のあまり、狂い、ドラゴンやグリフィンからパワーを貰うのではなく、大地自体からパワーを抽出するようになり、ワイバーンを操る、強力な元人間とされる(verminひとりで、ライダーやフライヤー五人から十人分の破壊力を持つ感じ)。
・Navarre王国は、建国600年あまり。5年前に6つある王国構成のprovinceのひとつ、Tyrrishで、叛乱が起こり、叛乱は失敗し、指導者全員が処刑され、彼らの子ども(107人)は、処刑されるかわりに、Melgren将軍のドラゴンであるCodaghに"Rebellion Relics(叛乱の遺痕)"を体に刻まれ、全員強制的にドラゴン・ライダーになるべく、士官学校に送られることになった。その叛乱の指導者(処刑済み)を父親に持つXaden Riorsonが、士官学校の最上級生である3年生であり、本篇の主人公Violet Sorrengailの仇役(のちに恋人)。
・物語は、ほぼNavarre王国のBasgaith士官学校を舞台に展開される。この学校は、4つの学部(Scribe Quadrant, Riders Quadrant, Healers Quadrant, Infantry Quadrant)で構成されている。すなわち、文官/乗り手/癒し手/歩兵の四部門。ライダーズ・クァドラントは、4つのWing(飛行隊?)にわかれ、さらに3つのSection(班)、3つのSquad(分隊)にわかれている。
・主人公は、Violet Sorrengailという名の20歳の女性。母親は、軍の将軍で、ドラゴン・ライダーであるLilith Sorrengail。嵐のsignetを持つ。叛乱時に指導者たちを捉え、処刑させた責任者であり、士官学校にいる叛乱指導者の子どもたちからは、恨まれている。父親(名前は不明)は、物語の開始時点では、すでに亡くなっており、文官部門の幹部だった。Violetは、三人兄弟の末子。長男Brennanは、ドラゴン・ライダーで、Mender(修復師)のsignetを持っていたが、叛乱時にXaden Riorsonの父親であるFen Riorsonに弓で射抜かれて戦死したことになっている。Violetの6歳上の長女Miraも、ドラゴン・ライダーで(中尉)、Shield Extender(盾防御)のsignetの持ち主。

【あらすじ】
 兄と姉と異なり、体が小さく、力も弱いVioletは、父親にならって文官になるべく勉強してきたのだが、士官学校入試直前になり、母親である将軍から、ライダー・クァドラントを受験するよう強要される。
 他の3学部と異なり、ライダー・クァドラントの入試は、それこそ命がけのものだった。ドラゴンに乗るためのバランス感覚の良し悪しが問われるもので、士官学校の本館と宿舎部門をつなぐparapet(細い通路)をなんの補助具も使わず渡らねばならなかった。幅45センチ、高さ60メートルの細い不揃いの石敷きの一本道で、手すりは無い。転落すれば死は免れない。
 うしろから性格異常者の受験生であるJack Barlowe(強者だけがライダーになり、弱い者は殺してかまわないという信念の持ち主で、parapetで、自分の前にいる受験生を突き落としていく。その後もVioletを目の仇にする)に追いかけながら、Violetはこの試練をからくも乗り切る。今回のparapet試練で、200人あまりの受験生の15%が転落死した。
 Violetはなんとか受験に合格し、晴れてライダー・クァドラントの1年生になり、Fourth Wing(第4飛行隊)に配属される(本書の題名の由来)。1年生での目標は、半年後のThreshing(選別)の時に、ドラゴンに認められ、絆を結び、ドラゴン・ライダーになることだった。ドラゴンに認められなかった場合、1年を再履修することになる。また、1年終了までにsignetを顕現させる必要があった。
 合格はしたものの、ドラゴン・ライダーになるための訓練は厳しく、とくにVioletは、体が小さくひ弱なことと、叛乱者の子どもたちにとっては、親の仇の子どもであり、また弱者は殺してもかまわないという校風もあって、ひたすらターゲットにされる。とにかく、訓練生たちは、日常的にどんどん死んでいく(このあたりの設定の異常さが、本作の特色でもある。ライダーの選別のために、大量に受験生や新入生を殺してもかまわないというのは、王国の異常な体制を描きだすためかもしれないが、およそ共感を呼びにくい設定ではある)。
 なんとか工夫して(対人戦の対戦相手に毒を飲ませて弱らせるなど)、生き残りつづけるVioletだが、叛乱軍のリーダーの息子である三年生のXaden Riorsonは、ドラゴンのなかでも最強の雌ドラゴンSgaeylと絆を結んでおり、Sadow wielding(影操り)のsignetを持ち、190センチを超える屈強な体躯で、ライダー・クァドラントのもっとも優秀な乗り手であり、第4飛行隊の隊長でもあったが、Violetに敵意をあらわにしていた(実は、Violetを女性として気になっていただけなのが、後半あきらかになる)。父親の仇の娘である自分のことを当然、殺そうとしてくるのだ、とVioletは思い込みながらも、彼のことを男性として意識するのだった。
 Jackとその仲間たちに何度も殺されそうになりながら、どうにか死なずにすみ、仲間たちとの友情も築いていくViolet。やがて、Threshingで、雄の黒龍Tairnと幼い雌黄金龍Andarnaの二頭と絆を結ぶことになる。普通は、1頭としか絆は結べず、2頭というのは異例なことだった。
 ちなみに絆を結ぶと、龍とは念話を交わせるようになる(その会話があまりにも普通のやりとりであるところが、ファンタジーぽくないとは言える)。
 どう見たって、たいした身体能力のないVioletは、絆を結べなかった1年生たちの嫉妬の対象になり、龍との絆が深まらないうちに乗り手を殺せばあらたに自分が絆を結べるかもしれないと思いこんだ者たち6名が徒党を組み、ある夜、Violetは襲われる。寝ているところを襲うのは、士官学校でも禁忌なのに。
 多勢に無勢で殺されそうになった瞬間、幼龍Andarnaにもたらされた時間停止のsignetが顕現し、間一髪Violetは危機を逃れる。駆け付けたXadenは、一目見て状況を把握して、6名の襲撃者を影操りの技で処刑する。じつは、Xadenの龍SgaeylとVioletの黒龍Tairnは、番いであり、そのせいでXadenとVioletは特別な結び付きができ(3日以上そばを離れると、番い関係の龍が精神的におかしくなるので、ライダーたちも離れられなくなる)、また、龍が死ぬと乗り手も死んでしまうことから、XadenはいやでもVioletの命を守らねばならないのだった(実際は、彼女が好きだから命を守っているのだけど)。
 襲撃者6名を指揮し、逃げていった者をVioletは目撃していた。その名をXadenに知らせる。
 翌日、ライダー・クァドラント全員を集めた場で、Xadenは、襲撃指揮官の名前を挙げ、糺弾する。指揮官は、第3飛行隊の隊長である女性Amber Mavisだった。「弱い者はこのクァドラントに必要ない」という信念から、Violetの排除を正当化しようとしたAmberだったが、Violetの黒龍Tairnが口から炎を吐き、一瞬で燃やされてしまう。
(ここまでで全体の半分)
 後半は、非道なことをしたJack BarloweをVioletがやむなく殺さざるをえなかったときに、Tairn経由のsignetであるLightning wielding(雷使い)が顕現すること、またはじめて人を殺した良心の呵責がきっかけで、Xadenと結ばれること(この濡れ場が、長くて、赤裸々)、そして昇級試験であるWar Game(ここでも死亡率が高い)のため、士官学校の外に遠征に出たおり、Xadenら叛乱軍の子どもたちが、ワイバーンの乗り手と通じていたことが判明すること(XadenたちがPoromiel王国側に武器を密輸していた)などが語られる。
 そこで明らかになるのがNavarre王国が歴史を歪曲していた事実。じつは、verminとワイバーンは実在しており、それを王国に侵入させないためのward(魔力による障壁のようなもの)を国境沿いに展開させていた。Poromiel王国はverminとワイバーンの襲撃に苦しんでおり、verminとワイバーンに唯一対抗できる手段が、wardにパワーを与えている物質(名前は明らかにされていない)で加工した剣だった。その剣を叛乱軍の子どもたちはPromiel側に与えていたのだ。Navarre王国は、Poromielを犠牲にして、自国民にはその事実を伏せたまま、みずからの安寧をはかっており、5年まえの叛乱は、その卑劣さを明らかにしようとしたものだった。
 国を裏切ったとXadenたちを非難するVioletを説き伏せようとするXaden。そんなおり、ワイバーンの襲撃が発生する。大量のverminとワイバーンに、少数のドラゴンとグリフィンで立ち向かうXadenとVioletたちだが、多勢に無勢で、仲間たちが次々と斃れていく。Violetも能力の高いverminに襲われ、毒のナイフで傷つけられ、瀕死状態になるが、最後に(これまで思うように駆使できなかった)lightningの力で、大量のワイバーンを駆使するverminを倒し、敵を追い払う(絆で繋がっているverminが死んだらワイバーンも死ぬのだった)。
 毒で死にかけていたVioletだったが、恢復して、目を覚ます。
「きみは、healerでは直せなかった。menderの力が必要だったんだ」と語るXaden。
 そこでドアをあけて入ってきたのが、死んだはずのVioletの兄Brennanだった、というところで、本書は終わる。(つまり、Brennanも叛乱軍に与していた、というわけ)

【感想/評価】
 大幅にはしょっていますが、ドラゴンがらみの細かい設定や、士官学校での主人公の生き残り方、Navarre王国が現在の状況に至った歴史的経緯といった細部をほぼ主人公のモノローグでしか明らかにしない書き方なので、この長さが必要だったのか、と思います。(大きなもので2回ある濡れ場は、不必要なくらい長いと思いました)
 これを冗長と受け取るか、女性主人公のリアリティのある饒舌さと受け取るかで、評価は左右されるでしょう。英米で大受けしているのは、後者の評価ゆえなのかもしれません。若い女性のモノローグを訳すのが上手な人だと、翻訳する価値はあるかも。
 個人的には、無理な設定が気になって(特に最初の迫力満載のparapet綱渡り場面は、本書序盤の1番の場面として作者は力を入れているものの)、それほど良い作品だとは思えませんでした。英米でバカ売れしているので、期待していたんですが。

以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?