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アメリカのトップティアVCの概要|世界を発展させる会社を支えてきた存在の中身


そもそもVCとは

 ベンチャーキャピタル(以下VC)とは、リスクが高い初期段階の企業に投資し、その成長を支援することで利益を得る投資会社のことを指す。VCの収益モデルは、LP(投資家)から出資してもらったお金を元手に投資先企業の株式を購入(出資)し、その企業が成長して株価が上がった後に、高い価格で株式を売却することから成り立っている。このプロセスを「Exit(イグジット)」と呼びます。Exitには、企業の上場(IPO)や他社による買収(M&A)が含まれる。
    VCのビジネスモデルは高リスク・高リターンが特徴。多くのスタートアップは残念ながら成功せずに終わるため、VCは投資した企業のうちわずかな成功企業から得られる大きなリターンで、失敗した投資の損失を補う。成功した場合のリターンは非常に大きいため、高いリスクを取る価値があるとされている。

 ここでは簡単な説明しかしていないのでまだVCについて詳しくない人はこちらのサイト等からより深く知ることができる。

アメリカのトップティアVC

 ここからはアメリカのトップティアのVCの中から数社を個人的に選び、概要を取り上げていく。

Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)

  • 基本情報

    • 設立:1972年

    • 主要投資先

      • Exit済:Apple、Google、WhatsApp、Airbnb、Zoom、Instacart、DoorDash、YouTubeなど

      • Exit前:Stripe、Klarnaなど

    • 主要関連人物:Don Valentine(創設者)、Michael Moritz、Doug Leone、Jim Goetz、Roelof Botha(現マネージングパートナー)等

  セコイア・キャピタルは半世紀にわたって勝ち続けている稀有なVCである。上記の通り代表的な投資先はいまの私たちの生活に欠かせない会社ばかりである。現在もその実績は衰えることがなく、2023年は多くのVCがテックバブルの崩壊により苦しむなかで$10Bもの金額をLPに還元したと報道されている
 その実績も素晴らしいがセコイア・キャピタルは勝ち続けている立場でありながら業界の変化を捉え、新たな取り組みも実行している。例えば2013年にはBotha主導で初めてスカウトファンドを始めている。セコイア・キャピタルが投資先の創業者や投資先を発掘する関係者のネットワークに資本を提供するものである。この取り組みからUberへの投資に至っている。メガファンドであるSoftbank Vision Fund(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)が生まれた時には、それに対抗して$1Bを超えるGrowth Fund(グロースファンド)を組成した。2021年にはBothaのもと、公開株をより長く保有するためにファンドの構造を見直し、Evergreen Fundを組成している。このファンドの資産には、LPからのキャッシュ・コミットメント、株式公開を果たした投資先企業の株式、投資先企業の買収による収益などの資産が含まれている。このファンドは通常10年という運用期間を事実上無くし、シード・ファンドやベンチャー・ファンド等を含むセコイアのファンドの唯一のLPとして機能する。


Kleiner Perkins(クライナー・パーキンス)

  • 基本情報

    • 設立:1972年

    • 主要投資先

      • Exit済:Amazon、Google、X(旧Twitter)、Uber、Snap、Instacartなど

      • Exit前:Stripe、Rippling、Figmaなど

    • 主要人物:Eugene Kleiner(創設者)、Thomas Perkins(創設者)、John Doerr、Vinod Khosla、Mamoon Hamid(現パートナー)等

 クライナー・パーキンスもセコイア・キャピタルと同様に老舗の超名門VCである。Amazon等に代表されるインターネット企業に投資し、ドットコムバブルにおいて全盛を誇った。しかし、SNSへの初期投資を逃したことやDoerr主導のクリーンテック投資の失敗、次世代リーダーへの育成・継承失敗で輝きを失い、さらに元パートナーが起こした性的差別訴訟(最終的には勝訴)で評判が地に堕ちることとなる。
 このような状況でMamoon Hamidが移籍してクライナー・パーキンスに加入し、再建を始める。再建の一つとしてクライナー・パーキンスの強みであるアーリーステージへの投資に集中することにした。時代の変化に合わせる形でグロースファンドを組成していたものの、グロースファンドとベンチャーファンドのシナジーが薄れていることを認識したからである。グロースチームはスピンアウトする形で離脱し、Bondという新ファンドを設立することになる。
 現在クライナー・パーキンスは少しずつ評判を取り戻し、2022年には$1Bにもなる巨大なファンドも組成している。また、このAIブームに乗る形で8割のディールフローをAI関連のスタートアップに向けている


Accel(アクセル)

  • 基本情報

    • 設立:1983年

    • 主要投資先

      • Exit済:Meta(旧Facebook)、Slack、Spotify、Dropbox、Etsyなど

      • Exit前:Miro、Discordなど

    • 主要人物:Arthur Patterson(創設者)、Andrew Braccia(現GP)など

 アクセルの投資哲学は特定の分野に絞って良質な事前準備を行うアプローチを示す「Prepared Mind」の一言で表すことができる。ベンチャー投資における投資資金が急増した1980年代に誕生したアクセルにとって、VC業界で生き抜くために得意領域を絞り、専門性を高めることで差別化を図る必要があったということがこの投資哲学の誕生の一因である。この哲学のもと内部では多様なテーマに対して仮説検証とその研究が行われている。
    さらにはアクセルのパートナーたちは「90%ルール」というものを持っている。起業家を理解し、起業家が投資家向け説明資料の文章作成を手伝うことで、スライドの中身を完全に把握し、起業家が話す内容の90%を予想しなければいけないというルールである。
 これらの投資哲学とルールによって本質を素早く理解することができ、迅速な意思決定に繋げている。また、起業家の計画を深く理解し、共感しやすくなるので起業家から選ばれるという意味でも役に立っている。アクセルはこの哲学により順調に実績を積み重ね、2023年12月には$650M規模の16番目のファンドを立ち上げている


Andreessen Horowitz (a16z)

  • 基本情報

    • 設立:2009年

    • 主要投資先

      • Exit済:Meta(旧Facebook)、Instagram、Airbnb、Coinbase、GitHub、Pinterestなど

      • Exit前:Stripe、Databricks、Figma、BeReal.など

    • 主要人物:Marc Lowell Andreessen(創設者)、Benjamin Abraham Horowitz(創設者)

 2023年10月にメンバーが来日しているアンドリーセン・ホロウィッツ(以下a16z)はこれまでのVCとは異なり、メディア化し、一つの事業会社のように進化したVCと言える。a16zはポッドキャストやニュースレター等の多くのメディアも定期的に更新しており、あらゆる種類のテーマに関する影響力のある情報を発信している。VCは通常数十人で運営するのだが、a16zは営業、マーケティング、採用などのあらゆる機能でスタートアップの創業者を支援するために多くのスタッフを雇い続け、現在では数百人規模にまで成長している。
 a16zは比較的若いVCであり、設立当時には既に多くの資本が集積していたため「お金は差別化にもならない」という考え方を設立時から持っており、お金(=資本)以外でのスタートアップの支援方法を考えてきた。その考えのもと多機能を保持し、積極的な支援ができるような体制を整えた結果、巨大化したということである。
   a16zは2023年の6月にSequoia CapitalのEvergreen Fundと同様の仕組みを持つ「a16z Perennial Venture Capital Fund」を設立したほか、ゲームチームやクリプトチームなど様々なチームを持つ中でその編成も環境に応じて変更する(2024年1月にはtoCチームの解散が発表されている)など、柔軟な取り組みを行なっている。
 余談にはなるが、a16zというのはAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)のAからzの間が16文字であるという理由でつけられた略称である。


Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)

  • 基本情報

    • 設立:2005年

    • 主要投資先

      • Exit済:Meta(旧Facebook)、Airbnb、Spotify、Yammer、Asanaなど

      • Exit前:SpaceX、Palantir Technologies、Stripe、Figma、OpenAIなど

    • 主要人物: Peter Thiel(創設者)、Luke Nosek(創設者)等

  PayPalの創業者であり、『ZERO to ONE』の著者でもあるPeter Thiel
が創設者の一人であるFounders Fund。このVCの投資スタイルはPeter Thielの投資スタイルを明確に表しており、それは「逆張り」であり、起業家ファーストである。『ZERO to ONE』で示されているように文字通りゼロから1を生み出すスタートアップ、つまり技術的なブレイクスルーをもとに市場を想像するスタートアップを投資対象にする。「逆張り」を目指すからこそ合意形成は行わないため、案件検討の定例ミーティングがない。そして起業家を抑圧しないようにするため、そして積極的な支援をすれば機会費用が発生してしまうために、基本的にハンズオフを貫いている。起業家から頼まれない限り、投資先の支援や干渉はしないようにしている。また、起業家の立場を尊重するため、 起業家をCEOのポストから外すような動き(外部からCEOを招聘する動き)はほとんどしないようにしている。
 ファンドのメンバーに対するルールもユニークなものになっている。まず、マネージングパートナーの要件として起業家経験をあげている。ゼロから1を生み出す企業に投資するためには、投資する側もゼロから1を生み出すリスクのある判断を取った経験が必要だと考えているからだ。もう一つユニークな点として、GPをやりながらも起業などの別の挑戦を行うことを容認している。これはファンドへの出資のうち大きな部分をGP自身が占めているという構造であり、利害対立が発生しないため可能になるのである。
 Founders Fundは自分たちでもインキュベーションを行なっており、AndurilVardaなどの新たなスタートアップ立ち上げに貢献している。
 


Benchmark(ベンチマーク)

  • 基本情報

    • 設立:1995年

    • 主要投資先

      • Exit済:X(旧Twitter)、Uber、Snap、Dropbox、Instagram、Asanaなど

      • Exit前:Discord、Airtable、DeepLなど

    • 主要人物:Peter Fenton、Bill Gurley等

  セコイア・キャピタルやa16zがファンドを巨大化させる中で、ベンチマークはファンド組成ペースとファンド規模を維持しており、$400Mから$500Mのファンドを2年から4年ごとに調達している。少数のパートナーによって比較的少数の新興企業に大規模な出資を行い、徹底的にコミットするようにしている。投資先企業の方向性に影響を与えることができるよう、投資する際には投資先企業の1回目または2回目の資金調達ラウンドにほぼ特化し、外部投資家の中で最大の出資比率と取締役会の議席を獲得することを好んでいる。スタートアップの始まりから終わりまで徹底的に伴走することにこだわるベンチマークは2023年、かなりの割合で会社設立時に投資を行なった。GPであるSarah Tavelは「創業者が旅に出ようとしているときに、最初の取締役になること、最初のパートナーになること、そして、そのアイデアのために調達する最初の資金を提供することに重点を置いている。」と述べている。
 ファンドは少数精鋭で運営されており、スカウト・プログラムを行ったり、将来のパートナー候補を見つけるためにアソシエイトを雇ったりすることはあまりない。ベンチマークは過去ヨーロッパで失敗して以来、グロースファンドを立ち上げたり、他の地域に展開したりするといった拡大を避けている。


終わりに

 今回は比較的有名なVCの概要について書いていきました。今後は不定期にはなりますが、それぞれのVCについての深掘りや、他のVCやスタートアップについても書いていく予定です。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


今回以下の書籍を参考にしています。

  • セバスチャン・マラビー『The Power Law(ザ・パワー・ロー) ベンチャーキャピタルが変える世界 上』(2023)日本経済新聞出版

  • セバスチャン・マラビー『The Power Law(ザ・パワー・ロー) ベンチャーキャピタルが変える世界 下』(2023)日本経済新聞出版

  • 後藤直義、フィル・ウィックハム『ベンチャー・キャピタリスト ー世界を動かす最強の「キングメーカー」たち』(2022)株式会社ニューズピックス

加えてOff Topicというポッドキャストにて話されていたものも含みます。より詳細が気になる方は聞いてみてください!

https://open.spotify.com/show/2vQEUz4VUnLcl7vuqSBgJp


注記:この記事は2024年2月10日時点での情報をもとに作成しております。情報の信憑性につきましては細心の注意を払っておりますが、個人的なリサーチであり、誤った情報を含む場合がありますのでご了承ください。もし誤りのご指摘や記事内容に対するご意見などございましたら、お手数ですがこちらのDMまでご連絡ください。


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