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進まぬ工事

実家から300mくらい歩いた所に今だに造成が終わらない場所がある。親父の話だともう15年以上そのままだと聞いた事がある。
そこは僕が卒業した中学への通学路の一つで、寂しい雑木林のある丘に無理矢理、舗装した道を付けたような場所だった。しかし、そこを通って登下校する子供はあまり見かけない。単純に横が雑木林で気味が悪いからだと思うが、二つほど噂話があった。

・雑木林の中に御堂とお地蔵さんに似た何かがあ
 る。それを見ると祟られる。
・顔が真っ黒な人がこっちを見ている。

この二つの噂話は、子供たちの間でだけ流行るような怪談話ではなかった。それらを笑って一蹴するような大人たちも話を信じていた。特に周辺の家の人たちは、その雑木林に人が入り込むのを嫌がり、私有地と言ったり、時には暴力も辞さない勢いでそこに人を入れたがらなかった。子供の頃に姉二人に連れられて通ったとき同級生が数名そこでこっ酷く入った事を咎められていた。だが怒っているというより、まるで注意しているようで、心配をしているような口ぶりだった気がする。一番上の姉が、ああまたかと言わんばかりの顔をしていた、二番目の姉は小声で「言わんこっちゃない」と何処か呆れていた。

そこで恐ろしい目に遭う日が、僕にもやって来た。小学校3年生の夏休みだった。隣町に住む同級生のE(女子)が雑木林の話を聞いて一緒に観に行こうと誘って来た。どうやら他の連中に逃げられて僕のところへ来たようだった。そのときだった上の姉が僕らを睨みつけ

「あんたたち!宿題も終わってないでしょ!」

普段、おっとりとしたタイプの上の姉が初めて僕を怒った。これで止めれば良かった。だけど僕もEもこう思った。

「やっぱり何か隠してる」

だから解散するふりをして僕らは昼過ぎに雑木林の側で落ち合うことにした。幸いにも上の姉は寝ていたから目を盗んで家をでた。
雑木林の側で落ち合った僕とEだったが、農家のお爺さんや近所の主婦がいたため様子見しながら、目を盗んで入り込んだ。何の変哲もない雑木林だった。だが木々が繁っているせいなのか真昼なのに薄暗く感じる。一通り見ても何もない。ただ雑木林の真ん中?あたりに御堂と何かがあった。お地蔵さんと聞いていたがそれは墓石だったんじゃないかと今になると思っている。そこで寒いものを感じた僕らは口を揃えて

「帰ろ...」

そう言って普段、繋ぐことのない手を強く握り合って早足で歩きだした。なぜだろう...あのときはそうしなくちゃいけない気がした。そんな時だった。背後で何かが聞こえたので振り返ろうとしたらEに凄い勢いで顔を前に向かされた。怒った顔で泣いている。訳が分からなかったが、良くない何かが後ろにいる...そう感じた。気がつけば雑木林を抜けて、舗装路に出ていた。泣いているEを慰めて、とにかく帰ろうとしたときだった。

「おい‼︎」

雑木林の中から誰かがこっちを見ていた。僕にはそれが真っ黒な顔の女の人に見えた。
僕とEは思わず走りだしていたが背後からはっきりと

「もう一回入ってくれば...」

そのあとどう走ったのか分からないが大通りに面するコンビニで放心状態だった。Eはこう語る。

「あのときね、Y(僕のこと)がお墓の石って言ったろ?そんで何となく、ああお墓...なんて思って御堂の上を見たんだよ。そしたら真っ黒な顔して歯が何本もないやつが私ら見てたんだよ。それで怖くなって...」

夏の暑い日が妙に寒く感じた。
兄が中学から帰って来て何となく雑木林の話を切り出してみた。兄はお化けの類は信じないから、きっとお化けなんていないと言うと思った。

「Y...お前さ、あそこの話はなぁ...。俺もあそこは気味悪くて近寄らない。けど、同級生が何人かがあそこで真っ黒焦げに焼けた顔の女を見たっていうのは聞いたことはある。それに一度、上の姉と何かが焼けるような臭いを嗅いや女の悲鳴みたいなの聞いた事があったよ。それにこの町の人たちはあの雑木林の話をよく思ってないからあまり聞くんじゃないぞ?」

それから13、4年経って雑木林を住宅地にしようと言う計画が立ったそうだ。多くの住民が大反対したそうだが結局、町の発展を考えた人たちが無理矢理、計画を推し進めたそうだ。御堂は碌な地鎮祭をされることもなく別の場所へ移されたそうだ。すると工事は壮絶な事故の嵐に見舞われたそうだ。

・重機の原因不明の暴走
・作業員の度重なる大怪我
・原因不明の交通事故

言い出せばキリがないくらいだそうだ。結局、工事は進まぬまま。
現在も、そこは手付かずのまま切り崩した状態でそのままである。このGWに見に行ったが、やはり何か気味の悪いものを感じる場所だった。

追伸
Eと逃げ出したあと「もう一回入ってくれば...」と聞こえたと書いた。けど、ずっとそのあと何かを言われた気がしていた。何となく何だがもしかしたらこう言われたんじゃないかと思っている。

「...もう此処へ来ては、いけないよ......」

思い過ごしかどうかは分からない。

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