2014/11/1 「秘境秋山郷・平家の谷」に巡りあった日

新潟県新潟市西区の内野駅前に面白い本屋さんがある。その名も「ツルハシブックス」。最近、全国放送でも取り上げられていたりしてご存じの方も多いのではないだろうか?

ツルハシブックス:http://tsuruhashi.skr.jp/

この本屋には地下室があり、「ハックツ」と呼ばれる古本の企画販売を行っており、それが目玉の一つになっている。仕組みとしては地域の人やその他ツルハシブックスのファンなどが、メッセージ付きで本を寄贈。古本を買いたい人が暗い地下室に懐中電灯を片手に降りていき、メッセージを読みながら好きな本を1日1冊だけ選んで買うことができるのだ。

このように寄贈者のメッセージが書かれている。

地下古本コーナ「ハックツ」は、20代までの若者しか入れない。どの本を選んでも中高生は100円、10代は200円、20代は300円。寄贈者は若者へ向けて、「この本を読んでもらいたい」と次世代に引き継ぎたい本を選んで寄贈するのだ。

本を通じることで、世代を超えたコミュニケーションが生まれる取り組みとして各種メディアに取り上げられている。

この日(2014年10月31日)も地元テレビ局の取材がきており、「ハックツ」をしに来た人に密着取材をしていた。その取材の関係で、僕はあまり「ハックツ」には興味が無いのだけれども、「とりあえずやってみろよ、20代ももう最後だろう」と店主に促され「それじゃあやってみるか」と今回はじめて地下に潜った。

そこで巡りあったのが「秘境秋山郷・平家の谷」だ。

秋山郷は長野県と新潟県の県境にある山岳部の集落で、平家落人伝説がある陸の孤島と呼ばれるような場所だ。縁あって2014年5月のゴールデンウィークに、まだ雪の残る秋山郷を散策したので思い出深かった。

そんな秋山郷の歴史を書いた本がたまたま地下に眠っていた。僕は最近、民俗学者「宮本常一」の書いた「忘れられた日本人」という本を読んで痛く感激している。小説にもビジネス書にもない独特の世界観。宮本常一のやさしい筆致。現代と近代の狭間に生きた人や農村の風景をありありと描いた内容は、せわしない現代社会を生きる僕に、忘れていた何かに気づかせてくれたような気がした。

「平家の谷」という本にも、どこかそういう民俗学的な匂いを感じたのだ。ツルハシブックスの地下古本コーナーハックツでは、本の受け取り手もメッセージを残すことになっている。僕は「集落が滅んでも、物語は滅びない」と残した。

僕の最近の関心の一つがそれなのだ。新潟県には、いや。日本の地方には限界集落がたくさんある。少子高齢化、人口減少で、滅ぶ集落はこれからどんどんと出てくるのは間違いない。すべてを残すことはできない。

集落をどう終わらせるのか?もう、現状はそこまで来ているのだと思う。

集落の歴史や文化を書き残すことは、集落を終わらせるのにとても重要なことだ。記録は生き続けるのだ。

かつて、ここに◯◯という村があった。いいじゃないかそれで。と。

こういう事を考えているタイミングで、「秘境秋山郷・平家の谷」という本に巡り会えたのは良かった。たぶん僕の生きているうちに秋山郷では無くなる集落が出てくるだろう。その時に、この本に記録された歴史を踏まえて、僕も何か書き残したいと思っている。

本屋について

さて、本屋についても書いておきたい。現在はAmazonを始めネットで簡単に本を買えるようになった。電子書籍など、紙でなくとも本が買える便利な時代になった。テクノロジーは素晴らしい。

しかし、ネットで本を買おうと思うと、「偶然の出会い」が起こる確率がリアルな本屋に比べて極めて低い。ネットはどうしても検索キーワードを予め持っているものとしか出会いにくいのだ。Amazonのレコメンドも関連書籍ばかりで、関心のある分野に深く潜っていく場合はいいのだろうが、全く別のジャンルに出会う確率は低い。

その点、本屋はただ歩くだけで、全く関心のなかった本との出会いに満ち満ちている。ネットに慣れているせいか、最近はあの膨大な料の情報の束を目の前にすると、情報洪水におぼれてしまいそうになり、混乱してしまうほどだ。

更に言うと、大型書店はジャンルごとに整理整頓されて本が立ち並ぶ。一方でツルハシブックスのような町の本屋は、狭いがゆえにジャンル分類がしにくい。故に旅行本の隣にビジネス書があったり、料理本の隣に自己啓発本があったりする。それは店主や店員の意図によるもので、人によって編集された情報である。ネット時代はある種「編集」をすっ飛ばし、情報の出し手と受け手がダイレクトに繋がることがいいことだという世界でもある。その中で、「店主が選んだ」という思い切りバイアスのかかった本棚は、逆に新鮮で気持ちがいいものだ。

結局人は、全て自由なものの中から選びとるよりも、誰かに決められた範囲の中で行動するほうが好きなんだと思う。自由になればなるほど不自由に感じるし、自由になればなるほど同じ範囲にとどまり続ける。そんな気がする。

2014年11月1日

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唐澤頼充

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