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日雇いバイト図鑑

学費を稼ぎながら大学に通う苦学生だった私はあらゆる日雇い労働を経験しました。
「単純労働」でありながらも、やってみないと分からない学びがたくさんあるわけで。幾つか面白かった気付き・学びを紹介したいと思います。
 
1.パン工場

学生バイトの定番、某大手製パン工場のライン作業。パン生地をトレーに載せたりコンベヤに移したり。集中力の限界を発揮して素早く移し替えても微妙に間に合わないような絶妙なスピードでパン生地が流れてくる。間に合わなかった生地はコンベアの先から廃棄箱へボトボトと落ちて「ああ・・・」となる。
熟練女性作業員の手つきすごい。「チョココロネ」の渦巻きは全て手作業で成型している。その正確さと速さが神業。なお、ライン手作業は女性の正確さがものをいう世界で、飽きっぽい男性には不可能、というのは工場関係者の常識です。

2.引越

定番第2。CMで目にする、個人向け引越、安さをウリにする会社の現場は例外なく人遣いが荒い。
段ボール箱を一個持って歩いていたりすると、蹴られる。段ボール箱は最低2個を縦に重ねて、走る。それが最低基準。
一番重い荷物って何だと思います?それは、本。なぜなら、本を詰め込んだ段ボール箱は理論的にその箱の大きさの木材ブロックと同じ重さになるから。(もしかすると木材よりも密度高い)
だから必ず引っ越しの現場では、書籍専用の小さめの箱が用意してあります。このことを知らず大きい箱に本を詰め込んでしまうお客さんがいて、引越屋としては「ゲーッ」となります。

3.会場設営

催事場やイベント会場など。業界特有の専門用語多し。かなづちを「ナグリ」と言ったり、ステージの床に並べる長方形の板を「サブロク」と言ったり。(3×6尺のサイズだから) 「サブロク持ってきて。」とか言われてマゴマゴしていると怒鳴られる。知らんつーの。舞台関係者は良くご存じかと。

4.製本工場

製本専用の機械がありまして、コンベヤ上を本が進んでいくとマガジンに積載された各ページがガチャン、ガチャンと順番に重ねられていきます。そのマガジンに自分の担当ページを供給する作業。後ろに同じページの印刷がパレット山積みになってまして、マガジンが減ってくるとパレット上の束のひもを切ってはマガジンにひたすら投入する作業です。こんなに単純な作業ですら自動化もなく、いまだに同じ方法でやってるんだろうなと。
「週刊文春」のような、中央二つ折りの週刊誌がありますね。背中が角ばってないやつ。必ず巻頭と巻末がカラーページになっていますが、それには理由があります。
連載等のレギュラー記事はザラ紙にモノクロで印刷・製本が済んでまして、カラーページと表紙が上がるのを待っています。なぜ待っているかというと、巻頭カラーは突然のスクープ記事が入ってくるからです。カラーページが上がってくると、外側に重ね綴じし、裁断して出荷。この作業がまことに肉体労働です。
山のように積み上げられたモノクロ製本済みをマガジンに供給していくわけですが、ほぼ完成本と同じ厚み・重量のため、マガジンの減りが速いこと。製本の山とマガジンの間を本の束を抱えて一日中全力疾走。マジで持久系スポーツ。今後店頭で週刊誌を手に取るときには、積み重ねた本を抱えて丸一日全力疾走している人がいることに思いを馳せてください。

5.ティッシュ配り

やってみると意外にノウハウの多いバイトの一つ。朝の位置取りが全て。
通勤時に駅前に立っているティッシュ配りが邪魔だ、と思うことありませんか?わざとそのように立っているのだから当たり前です。ティッシュが捌けるには、人の密度の高い流れの中に立つ必要があります。駅の改札を出た一つ目の角を曲がって出たすぐとか、狭い歩道に電柱があってさらに狭くなっているところにわざと立ったりする。
朝一番に各社のティッシュ配りが並ぶときに位置の争奪戦になるので、良いポイントを確保できなかったティッシュ配りは数が捌けずにずっと配り続ける羽目になります。
人通りがまばらになる時間帯が最難関です。1分に一人も通らないとき、ティッシュ配りは、100m先から渡す相手に狙いを定めています。ターゲットがどちらの手に荷物を持っているかを確認し、あらかじめ逆側に移動しておく。渡す気マンマンだと警戒されて避けられるので空を見上げてボケーッとするような仕草に見せながら横目でターゲットをロックオン。微妙な間合いに近づいたタイミングに突然踏み込んで近づき、ティッシュを目線の高さへ。この一連の動きを無意識に反復できるようになってから、繁華街のポン引きが全く同じ動きをしていることに気付きました。
ティッシュ配りの前を何度も往復してたくさんティッシュをゲットする人がたまにいますが、そんな意味の無いことはやめてほしい。普通に「10個ください。」と言ってください。ティッシュ配りは早く捌かせるのが仕事なので、喜んで10個差し出しますので。

6.国技館

両国国技館で相撲客をお席に案内するバイト。正午から18時過ぎまでの労働で当時一万円貰えたのでとても割の良いバイトでした。

とにかく客層が金持ちで余裕があり、席に案内しただけでティッシュに包んだ万札を下さったりする。でもバイトは受け取る権利が無く、古参案内員に上納する。
桝席が狭い。あんな四角に4人座るとかムリ。足腰がつらい方は自分用のクッション持参することを勧めます。桝席に座布団4枚並べてありますが、番狂わせの取り組みでお客様が座布団を投げるため、投げやすいように、当たってもケガしないようにペラペラの軽い座布団になってます。
砂かぶり、たまに力士が倒れ込んでくる最前列の椅子席は関係者の間で「たまり」と呼びますが、正式には「維持員席」と呼ぶ協会関係者の席で一般には販売していません。
国技館の地下は日本最大の焼き鳥工場となっていて、客に提供される「相撲焼き鳥」はその日に地下で作られた物です。先日新幹線に乗ったときに駅弁で売っていたので懐かしく思い買ってみましたが、包装紙の印刷デザインまで当時のままで、「働いていたのは30年前なんだけど何も変わってないなあ」としみじみ。

というわけで両国国技館のことは従業員裏通路から客の入れない地下まで、隅々知っていますが、未だに客として入ったことがありません。

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