俳優座劇場プロデュース『十二人の怒れる男たち』

    1954年に放映されたアメリカのテレビドラマが元となった作品である。同時期に他でも上演されていたので、そちらを見た人もいるかもしれない。長く上演されている作品なので過去に見た人もいるかもしれない。私は映画も舞台も見たことがなかった。
 
    一般的に主役と言われるのは陪審員8号である。だが、この俳優座プロデュース公演では8号が主役かと言われると首を傾げる。8号は満場一致で有罪となるだろうと思われたこの殺人事件の採決で、ただ一人無罪を主張した。有罪の根拠となる証拠は本当に正しいのかと。そこから証拠の検証が始まる。その流れを作ったのは8号だ。8号は提示された証拠や証言について常に「本当にそうのか」と問いかけた。「本当にそうなのか」を考えていくと十二人それぞれが見えてくる。生まれ育った環境や体験がバイヤスとなって少年の犯罪を捉える。そこには偏見や思い込みやこだわりが十二人という人数分あることが見えてくる。物語の舞台は1950年代、場所はアメリカ。でも、これが現在の日本が舞台だと言われても違和感がない。人は人種や時代は関係なく、ただ人であるのだ。
 
    舞台上のセットに時計があった。その時計が陪審員たちの審議が2時間10分であったことを示してくれる。公演時間は休憩なしの2時間10分。十二人の人となりを観察した2時間10分だった。十二人それぞれに共感し、同情し、批判しながら見ていた。ただ、ラストのシーンは3号以外の11人がそれぞれの人ではなく圧力の塊に見えた。少数派だった8号が根気良く話を進めた結果、多数派になった。多数派だった2号は最後に少数派になった。その少数派の3号に寄り添う人はいただろうか。最後のシーンは3号への圧力の強さが印象に残った。

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俳優座劇場プロデュース『十二人の怒れる男たち』

作:レジナルド・ローズ
翻訳:酒井洋子
演出:西川信廣
出演:塩山誠司、岸槌隆至、青木和宣、瀬戸口郁、渡辺聡、山本健翔、古川龍太、原康義、金内喜久夫、柴田義之、米山実、溝口敦士、田部圭祐

2018年10月5日(金)18:45開演(石川県野々市市文化会館フォルテ)
※金沢市民劇場例会

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