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タニノクロウ『ダークマスター2019TOYAMA』

 今年に入って見た舞台で、ダントツに強い印象を与えてくれた作品だ。
カウンターとテーブル席がいくつかある、きれいとは言えない食堂にこの店のマスターが座っている。テレビでは富山のローカルニュースが流れている。
 入り口から見える「営業中」の看板は、大通りから一本入った道でよく見かけたし、その向こうに見える錆びた閉まりっぱなしのシャッターは今地元でよく見る。
 マスターは富山でのオーディションで選ばれた六渡達郎。普段はコーヒー店を営んでいる。マスターは東京からやってきた若者(善雄善雄)に店のすべてを任せると2階に上がったっきり降りてこない。ど素人の若者には小型イヤホンを付けさせ、声だけで調理や接客などを指示をする。その声は各座席に設置された片耳だけのイヤホンで観客も聞くことができる。耳元で聞こえるマスターの独特の語り口に不思議なリアリティを感じた。
 マスターだけでなくほかの役者も富山でのオーディションで出演が決まったものがほとんどだ。若者役の善雄は劇団コジケン所属だが富山出身だ。富山弁が普通に飛び交う。学生時代は富山出身者が多くいる大学に通っていたし、今も富山県民の友人は何人かいるので、とても耳になじむ。出てくる料理はその場で作られる。音がするし、匂いもする。時折聞こえる電車の音は富山の市電らしい。演出助手の宇野津達也がツイッターで答えていた。

 大道具の制作はオーバードホールが公募したスタッフに寄るものだった。どこまでも富山製だった。映像もパンフレットを見ると富山の会社が携わっているようだ。映像や映像の挿入の仕方も、この作品の良いアクセントだったと思う。突然あらわれたソフトバンクのロボット「ペッパー君」も良い演技だった。   


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