33歳の現実~project K『僕らの未来』

(ネタバレがあります)

これは加藤和樹の楽曲『僕らの未来~3月4日~』からイメージを膨らませて作った作品である。3月4日は前日に高校の卒業式を終え、彼が愛知県から東京に出て来た日だ。曲の発表は2007年。彼が22歳のとき。

出演者のうち加藤和樹、鎌苅健太、河合龍之介はデビュー当時共演した3人だ。当時熱狂した者として、これほどテンションの上がる企画はない。場所は大阪ビジネスパーク円形ホール。500名ほどの小さなキャパシティだ。あのころのようにアニメから飛び出てきたようなキラキラとしたイケメンではなく、年月分の経験を重ねた3人がいた。

樹(いつき・加藤和樹)と健(たける・鎌苅健太)、陽介(河合龍之介)が10年ぶりにかつての行きつけの店に集まる。3人が一度に会うのは大学を卒業して以来だ。そこには当時と変わらないマスター(なだぎ武)と、18歳のシオン(吉高詩音)が働いていた。シオンは33歳の樹たちには理解できない行動をする今どきの若者だ。

樹は日本語教師として海外の主に発展途上の地域に赴任していた。どこか浮世離れしていて他の登場人物と感覚がずれている。そして声が大きい。小さな会場に彼の第一声は響き渡った。10年前の感性のままこの店に現れて、10年の歳を刻んだ仲間たちのどうかしたいけど動かしようがないと思っている葛藤に簡単に切り込んで行った。

健は映像作品のプロデューサーだ。10年前に樹に語っていたような作りたい作品をやりたいように作れる環境じゃない。仕事としてオファーに合った作品を作る健はどこか映像に対して冷めた気持ちを持っていた。そこに出産を控えた姉の代わりに父親の介護をせざるを得なくなる。映像作りをやめようとする健に樹は言うのだ。10年前とは作風は違うけど、今の作品も良いよと。

いちばん身近に感じたのが陽介だ。彼はデザイナーを目指していたが、入社した会社では営業に配属された。何度か転職を重ねるがいつも配属は営業職だ。陽介の妻は妊娠している。だから安定した営業職をこのまま続けることを決めているが、デザイナーの夢をあきらめ切れなくて営業しか出来ない自分を悲観している。

ステージは凸型で、ステージ全体を上手に使っていたと思う。特に健が樹に向かって強いセリフを言い放つときがとても良かった。
大学を卒業して10年。思い描いた未来と違う現実に諦めた気持ちを持つ人たちと、10年前と変わらない夢を見ているような樹との間には亀裂が生まれていた。そんな時、健は樹に対してイライラした様子で言葉を発する。観客は座る位置によって見える角度がまったく違う。真正面の客席からはきっと健の言葉にショックを受ける樹の表情がしっかり見えただろう。同時に健の背中をどう見ただろうか。二人の真横から見た私は健の表情も樹の表情も見える。逆側の真横から見た観客にはどう見えただろうか。

それぞれの葛藤にぐいぐい切り込んでいった樹に反発していた彼らだが、樹の死によってそれを受け入れそれぞれの未来に進む糧にした。その未来に樹も一緒に進むことは出来なかったのだろうか。10年後にまたこの店にひょっこり現れて、現実を生きるみんなに正論を押し付けて欲しかった。

3人の10年ぶりの共演は、実年齢と大差ない設定で彼らの年代が直面する苦悩とそこからいかに前に進むかを描いていた。40代のなだぎは貫禄はないけどそれなりに人生を歩んできたマスターを等身大で演じていたし、吉高は芝居のバランスがとても良く、舞台作品としての完成度を上げた。歌もなくダンスもなく、いるはずだったキラキラしたイケメンもいなかった。ただ、おなかの底に何かが残る、何か後を引く作品だった。

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project K『僕らの未来』

原案:加藤和樹「僕らの未来~3月4日~」
脚本・演出:ほさかよう
脚本協力:亀田真二郎(東京パチプロデュース)

出演:加藤和樹 鎌苅健太 河合龍之介 なだぎ武 吉高志音(50音順)

主催:Assist/ネルケプランニング

日程:【東京】2018年12月6日(木)~12月16日(日)
品川プリンスホテル クラブeX
【大阪】2018年12月20日(木)~12月23日(日・祝) 
大阪ビジネスパーク円形ホール
※2018年12月23日(日)13時公演を観劇しました


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