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最近何か見ましたか?

「最近何か見ましたか?」と、とても久しぶりに会った演劇関係者に画面越しに聞かれて一瞬言葉に詰まった。
 6月にこのままゆっくりコロナ禍が終息していくことを期待していた私は、舞台のチケットを何枚か衝動買いしていた。そのうちの1枚は8月中旬に行われる関西での舞台だったが、7月下旬に観劇を断念。当日券にまわしたいから早めにキャンセルをと呼びかける主催者の言葉に、このチケットがちゃんと生きるならと払い戻しをした。
 もう一枚は7月4日5日にシアター21で行われた、表現者工房『2020チルスとマンス』。金沢21世紀美術館の地下にある小さい劇場だ。公共の施設なので換気等の設備は整っているだろう、無理な公演はしないだろうとどこに向けているかわからない言い訳をして、その日は観劇をしたのだった。
 当日、劇場では座席の配置や接触を避けるためのいろんな対応がされていた。座席に座ってしまえば、左右前後にできたスペースのおかげでストレスがなくゆったりとした快適空間だった。客席は全員マスク着用だし不安も感じない。
 ただ、舞台が始まってしまうといろいろ気になるのだ。当然演者はマスクなどしていない。見ていてハラハラする。感覚的にマスクなしで会話している姿が今は普通じゃない。
 芝居は面白かった。演者もうまかった。だが、なんだか落ち着かないのだ。
 終演後、現地で合流した友人とランチをした。小さなテーブルの真ん中にはアクリル板が設置してあった。なんとなく安心して感想や近況などを話し合った。話し足りなくて21世紀美術館内の喫茶店に移動した。ここはテーブルの幅があるのでまあいいだろうとなんとなく思って、さらにしゃべった。
 何がよくて何がダメなのか、この日1日だけでもわけがわからない。

『2020チルスとマンス』は2月中旬のこまつ座『イヌの仇討ち』以来の観劇だった。3月以降は予定していた公演がすべて中止または延期となった。中には主演俳優が亡くなったのでもう二度と見られない作品もある。
 4月から6月に掛けて、リモートでの演劇やイベントを何本か見た。感想を書こうかと思ったが、良し悪しの判断が付かない。俳優の演技がすばらしく見ごたえがあるものもあった。1時間以上寝てしまったものもあった。たまたまYoutubeで見て面白かったものもあった。ものすごく評判がよかったけど納得いかないものもあった。先が見えない中、演劇界ががんばってるのは感じた。がんばる演劇界の流れに乗って行きたいと思った。でもズシッとくる何かがない。
 6月以降、劇場での演劇が再開した。多くの会場で客席の50%までしか観客を入れないとし、すでにチケットが発売されていた公演は一旦払い戻しをして再販売となった。一度発表された公演が、数日後に中止が発表されることもあった。会場からストップを掛けられた公演もあった。
 公演の開催と同時にインターネット配信を行う作品も多い。舞台やライブを見るためにいくつもの配信アプリをダウンロードした。配信はアーカイブが残るものと残らないものがあって、視聴できる期間はそれぞれ違う。公演そのものが中止になれば配信も中止になる。無観客で公演を行って配信だけは行うものもある。
 めまぐるしく状況が変わる。情報が追いきれない。息が切れる。見る側でさえ疲れてしまう。舞台に携わる人たちはどれほど疲弊しているだろうか。
 演劇界は今、演劇を続けるために試行錯誤を続けている。もしかしたらこの先これまでと違った別の演劇の世界が編み出されるかもしれない。そんな期待をしつつ、息切れしながら、私は演劇界を見続けている。いったい、どこまでついていけるだろう。


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