見出し画像

1 旅のラゴス

いざ開館、#にこる図書館 !初回は、開館にふさわしい一冊をご紹介します。

海外に出てきてから、沢山の本を持ち歩くこと、書店で気になった本を買うことが全く出来なくなり、Kindleでオススメされたものから派生して読みたい本を見つけて読むという形に変わったのですが、この本との出会いはそのどちらでも無く、運命的な出会いでした。

私は今スウェーデンのリンショーピングという所に居ますが、そこで何人かの(いや、結構な)日本人の方と知り合うことができ、大変お世話になっています。(本当にありがとうございます...)

画像1

(いつか Linköping の街並みも紹介します)

その中の一人の方のお家にお邪魔をしたとき、「過去の駐在の方達が置いていった本があるけど、読んでみる?」と4冊ほど貸して頂いたのですが、その中で一番惹かれたタイトルがこの「旅のラゴス」でした。ビビッと来たんですよね。(後に筒井康隆さんの「旅のラゴス」を調べてみるとかなりのロングセラーで有名な作品だったみたいで、それを知らなかった自分を少し恥じました。)

で、本の紹介となるとあらすじやストーリーを話してしまいがちなんですが、皆さんに紹介する本を読んでもらいたいという前提の下、にこる図書館を運営していきたいと思っているので、サラッと説明しながら私が感じたことや考えたことを書いていこうかなと思います。

この本は主人公のラゴスが’突然高度な文明を失った代償として、人々が超能力を獲得しだした「この世界」'を旅する物語です。(太字は本裏表紙の文を一抜粋)一見普通の旅小説かな?と思うのですが、「この世界」の前提から分かるようにSF要素も含まれています。本の中でいきなり物語の冒頭に、’転移’という現実世界には無い移動方法が出てくるのですが、物語の中には様々な超能力が出てきます。

それらの超能力を使うときの描写や主人公の感情など、現実世界に起こりえることが無い非現実な超能力だからこそ理解出来ないんじゃないか、と始めは思うのですが、不思議と納得や共感が出来る表現が多くあります。

「想像力は緊張の中からは生まれない」
「想像を固定してはいけない。特に想像力の貧困な者が行く先の描写をしたりしてはより想像力の優れた者を貧弱な描写の枠内に閉じ込めることにもなり、だいいちしらけてしまう」

本文より引用

2つめの引用文は、’転移’という超能力についての描写も描いているので少し分かりにくさもあるかもしれませんが、これらは皆さんが現実世界で生活をする中でも共感する部分があるのでは無いでしょうか?

不思議ですよね。現実世界では無い描写なのに感情移入をすることが出来るって。例え現実離れした世界を描くSF作品でも、その場の状況や背景、登場人物の気持ちなどを抽象化すればするほど、現実世界の自分自身や自分の周辺の誰かに重なる部分が出てきて、共感や感情移入をすることが出来るのでしょうか?ここについては、是非皆さんの意見も聞いてみたいところです。

で、かなり割愛、そして雑になりますが、主人公のラゴスは、旅の途中2度奴隷になっても、満足行く環境を手に入れても、そして最後は自分が死ぬということが分かっていたとしても旅を続けます。

なぜなのか。

実は、物語の中でラゴスの旅の目的について明確に説明されている部分はありませんし、物語を読み切ってもハッキリ理解出来るものではありません。大きな目的があるわけでも無い、ゴールがあるわけでも無い。そんな旅を、感情の起伏をあまり見せないラゴスは死ぬまで続けていくのですが、その生き様がどこか自分を物語っているかのような感覚があり、不思議と物語にのめり込んでいました。

今の(今までの)私は、サッカー選手である前に一人の人間として'在りたい姿'というものを大事にしたいと考えていますが、毎年新しい環境に身を置いて新しい経験をすることによって、自分が在りたいと思っていた姿が在りたくない姿に変わっていたり、自分が物事を見る場所(角度)が変われば変わるほど、どこに立って物事を見れば良いのか(軸をどこに設定すれば良いのか)がどんどん分からなくなりました。

私は元々極度の方向音痴で、ゆいやりさに「ねえ、こっちなんだけど!まじで方向音痴過ぎ!」とよく呆れられていたのですが、上記の様な私の状態は、そんな方向音痴な私が、地図も持たずにゴールの無い旅に出ている感覚に近い気がしています。

なので、そんな状態の私がこの「旅のラゴス」を読んでも答えが出るわけではないし、読んで自分の目指したい方向が決まるわけでも無いけれど、今の自分の状態のままもがいていて良いんだな、それが旅なんだな、とスッキリ腑に落ちた感覚がありました。

問いも答えもない「旅のラゴス」は、自分はどういう旅をしたいのか、そしてどんな生き様でその旅を歩みたいかを考えるきっかけをくれる本である。そう感じた一冊でした。

皆さんも是非読んでみて下さい。
※オススメの本や感想など、是非コメントでお待ちしております!

閉館のお時間です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?