ボビー

7歳のときからうちには亀がいる。窓際の水槽で毎年冬眠して雪解けの頃に動き出す。今年は冬眠から覚めなかった。あんまりかわいがってあげなくてごめん。18年ずっと生活を聞いてくれていたんだよね。退屈だったかい。父さんがずっと世話してくれてた。君はどんな気持ちだったかなんて考えたことなかったかもしれない。出窓のそこにいるってことだけが君のすべてだったんだ。それだけで僕にとってはじゅうぶんだったよ。今度は広いところで泳いだり甲羅を日光にあてたりしてほしい。人間は都合がいい生きものだから、居なくなるってときにようやく気がついたりしてしまうんだよ。今度はそんな人間かもしれないし僕も死んだら亀になれるかもしれない。出窓の空白を見て僕はいつも思い出すんだ。伸ばした首と食事の仕方、甲羅の模様とお腹の模様、脱皮した甲羅の透明度、緑になっていく水面、水槽に甲羅がぶつかる音、オレンジの耳、そして14年前に先だったきみの相棒。ありがとうね。

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