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PPP的関心【注目。まちづくり分野に用いられるSIB事業】

この記事を発信した1週間後の11月15日、地域未来創造大学校・次世代まちづくりスクール主催のオンラインイベントで『持続可能なまちのための「公民連携」PPP/PFI基礎講座』と題した講義をする予定です。
この講義をお引き受けしたことと、私がこの PPP 的関心を連続していることは目的の共通を持っています。それはPPP、公民連携による公的サービスの実現という考え方、実践事例への関心を高め、関心を持つ行政や市民の輪を広めることで、官・民の区別なく地域や地域の暮らしに必要な公的サービスが推進される地域社会の実現に少しでもお役に立ちたいという思いです。

私の一歩一歩は小さなものですが、PPP という原則、考え方、PFI 制度などの活用、実践の拡大支援について、2013年にPFI推進会議により決定された「PPP/ PFIの抜本改革に向けたアクションプラン」以降、内閣府のPPP /PFI 推進アクションプランとして毎年継続的にアップデートされています。
11月1日のPPP的関心でも取り上げた「成果指標連動」などはそうしたアップデート施策(方針)の一つです。

SIB(Social Impact Bond)とは

成果連動指標の記事でも触れたPFS(Pay for Success)は地方自治体が民間企業に事業委託する際に、あらかじめ決めた公的サービスの成果基準を設定し基準に基づいて評価した結果で(行政が民間に支払う)報酬額を変動させる仕組みです。

SIB(Social Impact Bond)は、PFSの「成果連動」と同様の成果基準の設定と評価という運用を前提に、事業実施に必要な事前資金を機関投資家や個人投資家などから出資してもらうことが特徴です。

ちなみに。「事前資金」という言葉からSIBの特徴について補足すると…。
公的サービスの成果は提供後すぐに出ないものもあり、行政による成果測定と報酬支払いまでに時間がかかることが想定される場合、例えば、サービス提供者が小規模で自ら先行的に資金を出せない場合などでは(成果連動型での)サービス提供自体が成立しにくくなります。
そこで、成果連動という運営手法でサービス提供の効率向上と効果の拡大を確保しながら、資金不足によってサービス提供者が登場しないという問題を解決するために投資家などからサービスの提供に必要な費用を「事前資金」として集めサービスを実施し、成果に応じて後から行政が(サービス提供者ではなく)資金提供者に報酬を支払うという仕組みがSIBです。

SIB事業の実施は2010年に英国で始まりました。私も大学のメンバーとともに2018年、オーストラリア(シドニー)で導入されていたスモールエリアでの児童擁護、就労支援の施策にSIBが導入された事例を取材したことがあります。
その際に受けた解説では、放置しておくと将来の対処に支出増加を伴う社会課題となる問題がある場合、その発生を未然に防ぐことで社会課題の発生=公益の拡大支出増加=経済的な損失の回避を「投資家へのリターンの原資に充てる」ことが検討可能な分野に適用しているとのことでした。

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「まちづくり事業」に用いられるSIB

先ほども書きましたが、「将来発生しうる支出増加を伴う社会課題を未然に防ぐことで、支出増加と問題の発生つまり公益と経済的な損失回避を投資のリターンに充てることが検討可能な分野」への適用は考えやすいのですが、「まちづくり」という事業分野において「成果指標」と「指標の達成基準」をどのように設定するのか、一見すると難しそうに感じます。

記事によると

事業期間は21年9月16日から24年3月までの約2年半。まず、10月29日~31日に中央通りアーケードと複合施設「K´BIX元気21まえばし」を結ぶ馬場川通りで自動車の通行を制限し、あおぞら図書館や出店の社会実験を行う。22年5月にも同様の社会実験を予定するほか、期間内に適宜、まちづくり勉強会やワークショップを開催する。

 事業の成果は、馬場川通りの歩行者通行量で測る。随時中間報告を行うが、報酬に連動するのは2024年2月の1ヶ月間の歩行者数だ。4万5915人以上で満額の1310万円、4万3663人以上で1120万円、4万1410人以下の場合は740万円となる。数値目標はこれまでに蓄積した中心市街地の通行量データに基づいて設定した。事業を通じて、AIカメラや現地視察で歩行者の表情や滞在時間を観察し、今後のまちづくりSIB指標の検討材料とする考えだ。

とあり、ターゲットエリアを決め、その場所の利活用促進という投入により人流の変化を起こす、という目標設定がされたことがわかります。

まちづくり分野でのSIB事業導入の「意義」

この前橋市の取り組みは2020年度に国土交通省の事業に採択され、国土交通省は、前橋市の取組に対し、専門家の派遣などにより支援を受けながら設計されたとのことです。

取り組みには高い関心と注目を持って結果を見たいと思いますが、現時点の指標設計が十分かといえば、人流は「創り出したい地域の状況」の前提条件でありアウトカム指標とは言い切れないとも見えます(もちろんネガティブな意味ではないです)が、こうした指標に関する見方もまちづくり分野にSIBを導入する過程における試行錯誤期だという理解をしています。

一方で、試行錯誤期を経たその先に求められる「まちづくり分野にSIBを導入してゆく意義」についての議論も継続的に行われています。

このページの冒頭には

少子高齢化・人口減少、グローバル化など、まちを取り巻く環境変化や価値観の多様化に伴い、まちの抱える課題も多様化・複雑化するとともに、地域性・個別性が高まってきています。さらに、地方公共団体の財政状況が厳しくなる中、まちづくりの分野においても、財政負担を軽減しつつ施策効果の最大化を図ることが課題となっています。

とありますが、財政的な困難への対応というだけではなく、地域社会の課題解決、地域経済の活性化、地域内での人材発掘・育成など自立型都市経営に貢献する成果指標や指標基準の設計も可能だと思います。
こうした「地域社会の変化を引き出す」誘導、起点になることもSIB事業導入の意義だと思います。

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