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『 退院の日 』

若さもあってか、回復は順調に進み

ゆっくりなら、トイレまで歩けるようになった。

下腹部の管が取れたときは、痛いけど嬉しかった。

胃カメラの検査をし、その後、流動食が始まった。

りんご汁や、薄い味噌汁などが小さい湯呑みみたいな器に入っていて

それを飲むのが食事だった。

そのあたりになると、顔や髪の毛を洗って

さっぱりしたいと言う気持ちになり。

翌日脇の、水場で、母親にシャンプーをしてもらった。

ベッドにいるときから気づいていたことだが

髪の毛を触ると、指の間にたくさんの髪の毛が抜けて挟まる。

だからこそ、髪を洗って、さっぱりしたかった。

かなりな量の髪が抜けて、まだらにツルツルになった。

正直に言うと、かなりショックだった。

それでも、生きている喜びが支えになった。

これ以上の治療は、病院ではなく

退院して、自宅でのリハビリで様子を見ることになった。

やっと、ここまで来たか…という

安堵の思いが僕を包みこんだ。

退院の日

母とふたりで、ICUに挨拶に行った。

北村先生は

「まさか、元気になって挨拶に来てくれる日が来るとは、正直思いませんでした。すごいことですね。信じられません…。」

と言った。

声は出せなかったが、深くお辞儀をした。

ドクター、看護師の皆さん
本当にありがとうございました。

こうして、なんとか無事に、退院したのだった。

病院から、自宅に帰るクルマの中から見た景色は、

慣れ親しんだものなはずなのに

何故だか、初めて見るような景色に思えたのだった。



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