見出し画像

ヘッドフォンを外して、ピアノの音は誰かのもとへ

ピアノを30年以上弾いてきた。
本当にただの趣味として。
それでも、趣味なりに、本気で。
ずっと先生にもついてきた。
趣味にしては、結構上達したと思う。

教室に通っていると発表会があるけれど、
20代の頃、発表会が楽しめなくなった。
30代になって久しぶりに出てみたけど、ストレスでしかなかった。
それでやっぱり発表会はやめてしまった。

「人前で弾くって、どういうことなんだろう」

駅ピアノとかで、誰もが知っている曲を弾いて人を感動させる人がいる。

教室の発表会はそういう類のものではないような気がしたし、
私もそういう種類の人ではないんだと思った。

私はずっとクラシックを弾いてきたけど、

「知っている曲を弾いて欲しい」

誰かにそう言われる。

姪っ子のためにディズニーの曲を弾くと喜ばれる。

クラシックは、そういうのとはちょっと違うのかもしれない。

私は誰かに聴いてもらうためじゃなく、
自分のために弾いてきた。

曲と1対1で。
電子ピアノのヘッドフォンの音の世界で。

発表会に出なければ、
私が弾くピアノを聴くのは、ずっと自分と先生だけ。


30代半ばで結婚した。
夫はピアノが弾けないけれど、ピアノを聴くのは好きだった。

私は時々、ヘッドフォンを外して練習をした。

夫とピアノスタジオに行って、全力の演奏を聴かせることもあった。

録音した動画を、夫の家族や友人が聴くことも増えた。

私のピアノは少しずつ、外の世界に漏れ始めた。


それから私は妊娠した。
おなかの中で、小さな小さな心臓が動いている。

つわりで苦しくて、ピアノ教室は休んでいる。

”赤ちゃんの耳が聞こえるようになるころ、ピアノを再開できるかな”

”でも今までみたいには練習できないだろうから、クラシックじゃなくて、
何か赤ちゃんに聴かせる簡単な曲とかどうかな・・・"

そのアイデアが思い浮かんだ時、
これまでのピアノ人生の中で初めて、
誰かに聴かせるために曲を選んでいる自分に出会った。

そうしたら、なぜだか涙が出てきた。

そうだ、
私は本当はずっとうらやましかったんだ。

人前で弾ける人のことが。

私も誰かのために弾いてみたい。

本当はずっとそう思っていたんだ。

そのことに気が付いたからかもしれない。


自分の本当の願いや希望は、
実はいつも近くにあるけれど、

私には無理、とか
私とは関係ない才能がある人の話、とか

そう思い込んでいることって、
あるかもしれない。


つわりが終わって、ピアノを弾けるようになったら
ジブリとか
ディズニーとか
私の好きな曲を弾いてみようと思う。

これからはちょっと違うふうにピアノ楽しもう。

ヘッドフォンを外して、
私の音は、
これからは誰かのもとへ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?