yagio

絵描きの真似事詩人の絵空事

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絵描きの真似事詩人の絵空事

最近の記事

やさしさ

冷え冷えとしている。冬の雨を浴びたから。 綺麗事が融けるような温度だった。 本音を正しく出力しても、壊れたレコードのように鳴るだろう。 うわごとのように、「苦しい、苦しい」と。正しく。 背を包む毛布のようなやさしさ、では測れない、世界の真理ばかり。 それを問いただすのは享楽ですか。 心を晴れやかにしますか。 打ちひしがれた者を点々と遺す足跡。不浄。

    • うわごと

      ひとり街の隅っこで佇むぼくと ひとり瓦礫の角で転ぶきみと 何が違うというんだろう 行くあても帰るあてもない心で 追うのは空舞う鳥の背中 群れをなす問いかけは 足場などすぐに崩してしまう 半欠けの月に身体を預け 時が過ぎるのをただ待っている 生きている意味なんてないんだ どうせないならなんてうわごと 繰り返しても待つ明日がある きみに会いに行くために ひとり夜に石っころ投げるぼくと ひとり朝日に耳を塞ぐきみと 何が違うというんだろう 後悔と哀しみが積もる心で 追うのはいつかの

      • 歌ばかり

        各々奮起大乱闘の星も瞬く夜 煙草の香りが懐古煽って ぼくはこれからどうしたい? 何もかもがなくなった 暴かれた内部構造 残るのは歌歌歌ばかり 何を成し遂げましたか 何をやり遂げましたか 何を成し遂げましたか 何をやり遂げましたか 各々奮起大乱闘の空も微睡む朝 爪の紅さが目にも馴染んで きみはこれからどうしたい? 何もかもが出来るんだ 水を得た魚同様 降り積もる歌歌歌ばかり 何を成し遂げましたか 何をやり遂げましたか 何を成し遂げましたか 何をやり遂げましたか 手を取り合っ

        • 逆転の歌

          主を連れ出すベースが吠える夜に あなたは推敲する。 遂行する。追放する。 変わり映えしない日常を干す。 虫も死に絶えた蛍光灯の 青白さがまた眼窩抉って モニタの不協和音は今日も 洗いざらいを雪いではくれない。 布団に残るは人型のシミ 人生残すは雛形の闇 今宵も押し黙って あなたの慟哭を待っている。 主を勝ち得たピアノが歌う夜に あなたは閉口する。 抵抗する。抵抗する。 変わりさえしたら窮状は断つ。 髪を整えた鏡向こうの 色白さがまた闇を穿って 電話の不協和音は今日も 洗い

        やさしさ

          色彩の抱擁

          絶対零度の眼差しを湛えた君を包む拒絶色 何者も入り込む余地のない暗がりから太陽を呪っている 焦がされた血が纏わりつく暗褐色 道化師の涙をもって触れたものは溶けてしまった うらびれた心を澱ませる深海色 されど波打ち際に君を放るだろう、すべて洗い流して この先へと進むための中間色 曖昧な景色は定形を持たない 幸あれ

          色彩の抱擁

          暗き夜は満ちて

          死の病を凌ぐ酒、その憐憫、その愉悦 芳醇という 名を 飾らせ、額に注ぐマリア ざらついた剣は重石如く、掌の温度を奪い続ける 覚悟と 担う手を 握り返してから、繋ぐくびきの食い込んだ痕 触れられることもなく、後にする美食の皿 幸せの脆さを 盛り付ける あたりに、反吐がでませう 虚に/現に 暗き夜は満ちて[重い月を繕い為さる。]

          暗き夜は満ちて

          雨とネオン

          度重なるネオンの果てに、零れ落ちた命ひとつ 不定形な水溜りを、殊更濁して 土塊と愛憐れむ舞踏を よそ行きはみんな脱ぎ捨てちまったよ 一張羅この身、やつがれてしまおうやい こんなにも明るい街で まなこばかりが曇ってゆく 横断歩道が堰き止める雨のアスファルト 溺れるように泳ぐ、踠く、藻掻く 魚は死んでしまったの 目の光を失ったの だからこうしてどんよりと 最終電車に揺られているの 刮目して。 ネオンの果てに、見つけた光とはなんぞ 暖かい家族の光を眩しく見つめる 行ったことの

          雨とネオン

          砂時計

          星屑と ときの乱反射に書斎を塞ぐ ひとつの眇には変容が未知満ちて 短刀を崩し沙と注ぐ脳内には しぶきがあたるように捉えた

          砂時計

          残り香と紫煙

          祝杯の残り香に諦念の煙を纏わせて、一息 全てを煙に巻き、換気扇は呑み込んでいく はらはらと落ちてゆくような俺と 騒音と昇ってゆく煙と 二つの温度、二つの気配は静かに分たれていく 孤独な祝杯が掬い上げる心がある 孤独な紫煙が立ち昇る心がある ここにある 静かな歓びが枯れた心を潤し、また乾かして 夜明けの帆のようにパンと張る

          残り香と紫煙

          一振りの剣

          ぴいんと張った寒空に両の手が尖っていく 触れるものを傷つける硬さに ふれた心追いつけぬ速さで 悴んだ脚は立ち尽くしたまま 変容していく自身を観ていた 歩き出す。 歩く。 歩く。 歩く。 あくる夜に追いつかれぬように 太陽の残り香を追うように 心臓がうねって血を送り出すことの不思議 硝子細工のように繊細で 鋳鉄のように鈍慢ないのち 走る。 走る。 奔る。 どこへ向かうやも知れぬまま 変容を喜べぬまま 一振りの剣になりたい 冷たいいくさばの丘に据えられて 錆びゆくまま見向きもされ

          一振りの剣

          夕暮れの丘

           小高い丘の上、何もない場所に木挽小屋がひとつ。その前に置いた古いロッキングチェアに、老人は腰かけていた。時刻は夕暮れに差し掛かるころ。私は今夜の宿を求め、ゆっくりと近寄って行った。  老人が煙草を持つ指には、無数の火傷の痕。さもありなん、彼は煙草が己の皮膚を焼きながら燃え尽きるまで、決して手放そうとしない。尚も指を焼かれながら、彼は朗らかに挨拶した。 「何をしているのですか」  私が問えば、彼は穏やかな微笑みを崩さず答えた。 「世界の終わりを待っているのさ」  それはあまり

          夕暮れの丘

          海游

          あそべ、あそべ 水の泡に 全てが翻る結末 その幕間に とってつけたような資本主義 積もり積もった埃を払うように 雪いでいけ 雪崩れ落ちる氷河の一角 崩れ落ちる鏡の一片 尻すぼみな警鐘の声 どれも、満ちぬままに おどれ、おどれ 花の潮に そぞろが駈け上る顛末 その収斂へ 誂えられたまま禁欲主義 やぶれかぶれな服など振り捨てるように 繋いでいけ 注ぎたわむ硝子びんの口吸い 穢れ堕ちる天使の爪先 水ありきな廃棄の末 どれも、満ちるままに 泳いでいけ

          ブランコ

          ゆぅらり、ゆらり ゆぅらり、ゆらり 背伸び上手のブランコだ ゆぅらり、ゆらり ゆぅらり、ゆらり 足がつかない、足がつかない 足がつかない、足がつかない ゆぅらり、ゆらり ゆぅらり、ゆらり 舌が膨らむ、腹が膨らむ ゆぅらり、ゆらり ゆぅらり、ゆらり 千切れて落ちる、腐って落ちる

          ブランコ

          ちいさな命

          炊きたての米。鮮やかな着色料で、赤みを増した明太子。 それらを前に箸と手を合わせて、僕らはごめんなさいをする。「いただきます」と空間に沁みる声で呟いて。 何百もの米粒と、何千もの魚卵。数えきれないちいさな命。 それは決して善行の数ではなく、生きる事の上に微かに、確実に積み上がる罪でしかない。 それを食い千切り、咀嚼し、舌で転がし、嚥下する。 「鑑賞」されることも無くなった作品のように、感慨もなく呑まれていく死体の山。 もう死んでいるのだ、死体を加工され、都合よくパッキングさ

          ちいさな命

          イサナ

          五七五の骨組みに肉をつけるとき 尾鰭のついた言葉ばかりが泳いでいて ちっとも生まれ変わろうなどとしやしないのだ 森羅万象になんの感慨も持たない此の身では スープの中を逃げる魚を追うように くだらない時間ばかりが過ぎる 誰にも伝わらないうた、を散りばめるように歌う 絶海を去くように無駄ばかり口にする その口を縫って一緒に沈みたいと願った ただの虚のくせに随分と生意気な口をきくのね お互い様のくせによくもまあ知った顔で笑うよね 軽口の応酬すら許されなかったイサナは今スープの中

          イサナ

          雨よ 雨よ 悲しみを流し去りもしない癖して 我が物顔で降り頻る 化粧をどろどろと溶かす癖して 足元すら清めてはくれない この目が赤いのは 雨粒が滑り込んだから この顔が濡れているのは 雨粒が強く打ったから そんな強がりにしか使えない 雨よ 雨よ