見出し画像

香納諒一「孤独なき地 K・S・P 警視庁歌舞伎町特別分署」

香納諒一「孤独なき地 K・S・P 警視庁歌舞伎町特別分署」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B0C1YM4XR8/
 タイトルがK・S・P(警視庁歌舞伎町特別分署)である。日本一危ない街で繰り広げられる、チャイニーズマフィアvs.暴力団vs.警察の三つ巴の抗争と駆け引き。登場人物もまことに多い。冒頭に、新署長の深沢が赴任の朝、署の正面玄関前で、刑事と連行中の容疑者が狙撃された。面子を潰された警察が、管轄のショバを争っていがみ合う光景は、警察小説の常道だ。よせばいいのに現場にシャシャリ出るキャリア組の新署長。それに加えて内部からの情報漏洩が匂う。ドンパチドンパチ、次々と重要人物が消されてゆく。『どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって』。主人公である沖幹次郎刑事の歯ぎしりを、読者は共有することになる。
 『誰が何のために、こんなことをしでかしたのか?』。血腥い銃撃戦の中を走り抜けながら、懸命に考える沖。ふだんはショバ争いばかりしている新宿署捜査一課長の堀内が、いつか胸筋を開いて共闘する。それは現場で身体を張って、刑事の信念を貫く者たちのシンパシーだ。だからK・S・Pの個性的メンバーたちも、新署長ではなく沖に付き従う。上が言うことを聞かなければ、その上を使え。これは社会の鉄則だ。上位下達の世界で信念を通すためには、手段を選べない。そして無法者と渡り合うためには、狡猾であらねばならない。
 もう一つのテーマは後半に登場する女性たち。新署長秘書の村井貴里子。女性に縁のない沖が好意を寄せ、貴里子も沖を憎からず思っている。直ぐに署長とぶつかる沖をさりげなくサポートしている。二人の淡い恋情は殺伐たる物語における一服の清涼剤だ。そして終盤に登場する意外な女性スナイパーの出現。生きてゆくのに中国では男だけではなく、女性も死に物狂いだ。それは歌舞伎町に来ても変わらない。新宿歌舞伎町抗争劇の中で、女性たちがどう動くか、どう生きるのかも胸を打つ。中国人女性の「甘ちゃんのにほんじんめ」という叫びが、ありとあらゆる手管を利用する執念を突きつける。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?