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藤子不二雄Ⓐ先生の思い出その②

藤子不二雄Ⓐ先生の思い出その②(そもそもマスコミは藤子不二雄Ⓐ先生のⒶであることをちゃんと認識しているのか?)昨日は飲む話ばかりだったけれど、もちろん仕事からのおつきあい。
 元職場の復刊投票で中央公論社「藤子不二雄ランド」(全301巻)は2,395票と桁外れに大きな得票を集めていた。藤子不二雄作品のほとんどは小学館から刊行されていたが、この全集は違った。中央公論社改め中央公論新社に重版仕入れを依頼に行ったが断られた。この時に大学ゼミ教授の同窓生だった中央公論社の元社長である嶋中行雄氏が、著者との間に入って仲介してくれた。それまでロクに本を出したこともない出版社だったが、親会社が大手取次であった信用で、藤子不二雄Ⓐ先生の作品だけに刊行許諾を頂けた(この時に最も揉めたのが合作「オバケのQ太郎」だった)。それでも半分の151巻あったので、数年がかりの一大事業だった。この時期は編集担当は藤子不二雄Ⓐ先生と密接に、契約面や営業宣伝は私と藤子不二雄Ⓐ先生のお姉さんであり藤子スタジオ社長である松野喜多枝さんが折衝した。大手取次の子会社が藤子不二雄Ⓐ先生と大型の出版契約をしたということで、大手出版社からはずいぶん警戒された。大手各社からは関係ないところからまで呼び出されて、説教されたりして邪険にされた。親会社の副社長が、取りなしに同行してくれたりした。でも僕は「お騒がせしました」とは言ったが、間違ったことはしていなかったので絶対に謝らなかった。相手にも「彼方たちのしていること(絶版本の復刻)は間違っていないが、だからこそ困るんだよ」と言われた。そんな中でも喜多枝さんはガンとして、僕らを守ってくれた。刊行期間中は絶対に他社からの刊行を許さなかった。著作権法上から言えば、全集と単行本は別扱いなので、全集収録作品でも単行本企画なら出せたはずだった。
 当初は大型書店とネット通販だけで流通するつもりが、当時から流行したコンビニエンスストア販売も加わったので、社運をかけた乾坤一擲の勝負となった。当初は桁外れのネット予約が集まり、コンビニエンスストアの初速も悪くなかった。しかし結果的にはコンビニエンスストアが右肩下がりな販売結果となり、終盤は損失を出さないように心がけながら完結を目指した。余計なルートに手を出した報いだった。この過程で「先生の名に傷をつけてはいけない」という喜多枝さんと、「会社を潰してはいけない」という私の利害が一致した。だいたいが新宿の某ホテル最上階の藤子スタジオ専用の個室に呼ばれて打ち合わせた。結果的にとても強い心の絆が結ばれた。こういう関係が結べたので、先生たちと一緒に、先生の出身地である氷見にも旅行にも行かせてもらった。藤子不二雄Ⓐ先生ご本人と私との関係は、昨日書いたように飲む役・遊ぶ役だった。あとはサイン会などイベントでの介添え(ハイヤー手配、サイン会補助、入退室時の護衛)というところだっただろうか。とにかく顔の売れた先生なので、予告しなくていきなりサイン会を始めても100人くらいは直ぐに集まった。大阪でのサイン会は滅多にないので、参加した読者たちも熱狂的だった。逆に熱烈ファンばかりに定員を占拠されないように、虚々実々の駆け引きも書店と作戦を敷いたものだった。
 曲がりなりにも「藤子不二雄Ⓐランド」を完結させたので、藤子スタジオからの僕への信頼は厚かった。ちなみに「怪物くん」「忍者ハットリくん」「プロゴルファー猿」などの作品は、とても巻数が多く、全部読めるのはこの全集だけ。そこでジャニーズ絡みの映画化の話も来た。香取慎吾で「忍者ハットリくん」、大野智で「怪物くん」。親会社に映画の出資もしてもらって、東宝主催の製作委員会にも出させてもらえたし、映画のエンドロールに名前も出してもらえた。「藤子不二雄Ⓐランド」が終わってからは単発企画のおつきあいだった。持って行った企画は概ね認められた。タブーとされた「シンジュク村大虐殺」(ソンミ村大虐殺をイメージした新宿を舞台にした漫画)さえ刊行を認められた。唯一通せなかったのが「狂人軍」(狂った人々が野球をする漫画)。藤子不二雄Ⓐ先生は「出してもいいか?」とぐらついたけれど、喜多枝さんは絶対🆖。喜多枝さん歿後も攻めたが、今度は藤子不二雄Ⓐ先生が決断を回避された。藤子スタジオに最も好評だったのは「小池さん!大集合」だった。これは「オバケのQ太郎」に登場する「ラーメン大好き小池さん」作品集である。単独キャラで、いろいろな雑誌に掲載されていた小池さんの漫画を一冊に集めたもの。あくまで復刊リクエストの一つだったが、焦点を当てたのが僕だったので、ずいぶんと褒められた。一冊3,000円以上したのに、とてもよく売れた。もう一つ自負がある復刊が「ミス・ドラキュラ」(全7巻)。こちらは奇想天外社で単行本化されていたが完結されておらず、初出雑誌であった小学館「女性セブン」誌のバックナンバーを記録したマイクロフィルムを借り出しての完全復刻であった。男性主人公の「笑ゥせぇるすまん」に対して、女性主人公・虎木による天誅漫画だったが喪黒福造ほど受けなかった。藤子不二雄Ⓐ先生は多作で、ご自分が描いた作品の全てを覚えてはいなかった。その一方で記録魔、収集魔でもあり、デスクの底には多くの過去作品が埋もれていた。小学館が全てアーカイブ化を試みていたが、将来世の中に出るのか出ないのか。

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