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志木沢郁「二刀の竜」

志木沢郁「二刀の竜」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓

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 師匠の悪謀で、毒を盛られた門弟仲間・七郎を斬ってしまった竜崎竜次郎。お陰で七郎と結婚を誓い合っていた師匠の娘・富江に軽蔑され、弟の八郎に兄の仇と狙われる。すっかり嫌気が差した竜次郎は剣術を捨て、幼い頃から祖父に仕込まれた優れた味覚を活かす料理の道に転身する。「天下一味勝負」の幟を捧げ持ち、料理仕官で大成を志す。水の目利きから始まって、その人徳から得た知己に山海の食材を知る。数多のお殿さまに才を見出され、引き立てられる。逆にだからこそ、妬まれ恨まれ、仕返しをされた、罠を仕込まれる。ここは短気は損気。逆上しかねない場面でも、自らを慕う人々の支えでグッと堪えて乗り切ってゆく。そこは人の恩で成長した竜次郎の成長だろう。

 この設定を端的に言えば「料理の鉄人対決」戦国時代版である。MLB大谷翔平選手ならぬ、刀と包丁の二刀流でもある。何ともわかりやすいドラマチックである。主人公の竜崎竜次郎は、まことに愉快闊達で、気持ちの良い男。料理の道に関しては、実力や努力もさることながら、常に優れたものの発見に目を輝かせる興味津々。好奇心こそ、人間の生きる糧である。また何より次々と供される料理の美味しそうなこと。竜次郎の出す料理に口許がほころぶ殿さまのご機嫌ぶり、意表を突くアイデアについつい頬を緩ませる敵役の光景。読んでいるこちらも『ふふふ』と、心が満腹になる瞬間である。こんなに気持ちの良い小説は久しぶりである

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