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村山由佳「雪のなまえ」(徳間文庫)

村山由佳「雪のなまえ」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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 いじめられていた友だちをかばったために、標的が自分となって学校に通えなくなった小学校5年生の島谷雪乃。かばった友人すら、ボスを怖れて自分を無視するようになった。娘の行く末を巡って、両親の考えが対立する。怜悧な母親・英理子と、奔放な父親・航介。ある日突然に父親は広告会社を退職して、長野県に住む曽祖父母のところで帰農を宣言。そこには雪乃を辛い環境から隔離したいという思いがあった。結果的に出版社に勤める英理子は東京に残って、両親は別居生活となった。曽祖父母の愛情に包まれて、農作業を手伝いながら、雪乃は田舎暮らしに馴染んでゆく。農業を学び始めた航介は、農業の傍らで幼馴染の友人であった竹原広志の納屋を改造してカフェの開設を準備する。新参者の行動に、村の一部メンバーは激しい反発を示す。一方で雪乃は、広志の息子である大輝と親しくなる。秋から冬、そして春に向けて、雪乃の心は少しずつ溶けてゆく。
 解説の永江朗氏は、本作品を①いじめ・不登校②地方移住・田舎暮らし③就農という3つの基軸で見事に解題している。解説と同じことを述べても仕方がないので、作品の感想を述べる。いじめに遭って引きこもりになった雪乃の心に同調して、冒頭は読んでいて辛くなる。娘を救えない両親の焦燥も痛い。しかし航介の田舎が救世主となる。都会っ子には『故郷があるっていいなあ』と、つくづく思わせる。野菜や果樹の採れる畑や、跳梁跋扈する狐・狸など溢れる自然。曾孫を慈しむ情愛溢れる爺婆。両手を広げて迎えてくれる旧友。(都会のませガキと違って)進んで雪乃を迎え入れようとする子供たち。しかし住めば都の反対で、根を下ろそうとすれば、田舎には田舎の逆境がある。変化を嫌う保守性、過干渉なお節介、顔役を立てる気配り。田舎暮らしにも、溶け込む努力はやっぱり必要。航介のカフェ開業と、雪乃の復学がセットになって、村の大きな関心事となってゆく。カフェ反対派の筆頭だったはずの山崎正治が雪乃に放った「あんたは幸せもん」ということば。それはもはや村全体が雪乃を心配して包み込んでいることに思い至り滂沱落涙。 

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