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ある科学者の憂鬱(9)



次の日の夜、浩市は麗華に伝えた。
「大橋教授は、非常に凝り症で絶えずマッサージが必要なのだが、
麗華にして欲しいと言われてしまった。
麗華、僕のお願い聞いてくれないか?
自分の上司の人なので、断る事が出来ない。頼む、マッサージをしてやってくれ。」
と、昨日考えた事を麗華に言った
この様に頼んだら断る事が出来ないと思ったからだ。

「私、マッサージなどした事ないんだけど?」
と、麗華は不安な面持ちで言ったが、

「大丈夫だ、私が教えてあげるから。教授は首の後ろが凝るんだ」
と言って、浩市の首の後ろの付け根を指で押さえた。

「ここに、針を打つ様に指を当たてる。その時大事なのは、
爪を立てて肌に食い込ます様にするのだよ。
ここは、ツボだから気持ち良くなって直ぐに寝てしまうが、
寝たら効いている証拠だから、帰っておいで。」

「そう、此処なのね。」と言って、麗華も首の後ろの付け根を触った

「でも、私‥あの人‥好きでは無いの」
と、途切れ途切れに麗華は言った。

「昨日あんなに親しく話していたのに?何故、好きでは無いの?」
と、浩市は驚いた表情を見せた。(女心は理解不能だ)
と、天才の浩市でも解らない事があるみたいだった。

「何か、目の感じが、いやらしくて言葉は丁寧なのだけど、
女を下に見ている感じがするの。」
浩市は、人間の脳を使った事に満足を得る想いだった。
AIなら、いやらしい目の感じや、言葉の言い方が判断出来ないであろう。

「気持ちは判るが、一度だけでいいからお願いします。」
と、浩市は深く頭を下げた。
麗華はその姿を見た時、大橋教授が浩市にとって大事な人だ、と認識し、快く承諾をした。

そして次の日、浩市は大橋教授の部屋に行き
「麗華は、以前マッサージ店で働いていたのですが、
教授、肩など凝っていませんか?
もし、凝っていましたら、麗華がマッサージをしますよ。」

と、意味ありげに、言った。

「マッサージ?‥また君、いかがわしい物では無いだろうな?」
と、疑ってはいるが、好色者丸出しの表情である。
「いかがわしいものでは無いです。正式なマッサージです。
どうしますか、辞めますか?」

「いや、いや、辞めるとは言って無いよ。
君がそう言ってくれるなら、君のお言葉に甘えるよ。
で、いつする?マッサージは」
と、思った通り、大橋は話に乗ってきた。

(馬鹿な奴だ。その日がおまえの命日だよ)
と、浩市は心の中で、ほくそ笑んだ。

「そうですね。今日は火曜日ですので、今週の週末で如何でしょうか?」

「いや、今度の日曜日は、用事があるので、明日が良い。
そうだ、此処に来てくれ。妹さん一人でだ」
と、言って 一枚名刺を差し出してきた。

名刺にはホテルの名前が書いてあった。
「そこの、405号室に19時に居るから、来て欲しい。
今、自宅に帰っていないので、そこで暮らしている。必ずくる様に」
と、今度は命令口調に変わった。
その眼光は鋭い。猛獣が、獲物を狙う目だな と浩市は思った。

浩市は、作戦成功の喜びに浸っていた。
後は麗華が上手くやるだけだ。

これほど、思った通りに事が運ぶと凡人は、何か不安になる物だが、天才にはその様に感じなかった。
今までに挫折を知らない男であるからだろうか?

浩市は麗華に伝えた。

「明日、私がこのホテルに連れて行くので、麗華はマッサージをしてやってくれ。
やり方は、先ず教授をうつむせに寝さす。
そして、朝 教えた通りに首の付け根に爪を立てて肌に食い込ます様にマッサージをする。気持ちよく寝ると思うので、寝たら速やかに帰ってくる。
解ったかな?麗華。私は車の中で待っているから。」

「解ったわ。簡単な事だもの。やれると思うわ。」
と、浩市の役に立つのが嬉しいのか、麗華は弾むように応えた。

まさに一人の女性であり、サイボーグの製造された表情では無かった。
その麗華の可愛く嬉しそうな顔を見た時、浩市は‥‥
遠い昔の子供の頃を、思い出していたのかも知れない。

https://note.com/yagami12345/n/n260a5d473b93

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