[第8回] 契約で失敗しないための心得 --- モラルハザード

講義ウェブサイトはこちらです。
-------------------------------------

今回と次回は,情報の経済学契約理論と呼ばれる分野について勉強します。前回までは,意思決定主体が直面しているクジ(不確実性)が最初から与えられている状況を分析しましたが,今度はそのクジが
・誰かの行動によって変化するものの
・他の人々はその行動を観察できない
ような状況を扱います。

この問題はモラルハザードとや隠された行動(Hidden Action)と呼ばれています。たとえば,
・ドライバーが事故を起こすかどうか<=クジ>
は,保険会社の視点から見ると結果が不確実なクジと考えることができますが,そのクジ自体が
・ドライバーが安全運転をどのくらい心がけるか<=行動>
という保険会社が直接知ることができない行動によって左右される,という状況などが考えられます。

第8回目の講義では,このモラルハザードについて,スライド資料(リンク)や配布資料(『ミクロ経済学の力』第8章「保険とモラルハザード」)などを参照しながら解説しました。

【板書】 プリンシパル=エージェントモデルでは,プリンパルと呼ばれる依頼人がエージェントと呼ばれる代理人に対して契約を提示して,代理人は
・その契約を受け入れるか否か
だけを決めることができる,という単純な状況を扱います。

このモデルを前提としたモラルハザード問題では,プリンシパルはエージェントに対して
1. 契約を受け入れてもらい,さらに
2. 望ましい行動を自発的に選んでもらう
必要があります。エージェントの行動を直接観察することができないので,プリンシパルは何らかの観察可能な情報に基づいた契約を書くことで,「間接的に」エージェントの努力や行動を引き出すように仕向けないといけない,というのがポイントです。

契約内容が,1を満たすための具体的な条件を
参加条件(Participation Constraint, PC)
2を満たすための条件を
インセンティブ条件(Incentive Compatibility Constraint, IC)
と呼びます。プリンシパル=エージェントモデルでは,PCとICを制約条件としてプリンシパルの目的を最大化する,制約条件付きの最適化問題を解くことになるのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?