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Michael Breckerの名盤 (番外編) 紹介できなかった名盤・名演

本稿では、評伝のエピソードや私の個人的な体験を交えながら10枚のアルバムを紹介したわけだが、様々なジャンルのセッションワークや客演含めチョー多作なマイケル、当然ながら、触れられなかった名盤・名演も多々ある。今回はそれを紹介しようというおまけ企画。引き続きですが、評伝はぜひ買いましょう。


1. On the Move/深町純

キーボーディスト/作編曲家の深町純さんが、当時のニューヨークの若手セッションミュージシャンのドリームチームを率いて制作したアルバム。学校の近くの石神井図書館であまり深く考えずに借りてきて「こりゃなんだ?」とびっくりした覚えがある。ブラバンでサックスを吹いていた高校生の私にとってのマイケル初体験だったという意味で、個人的には非常に重要なアルバムですね。
マイケルはドリームチームの一人、しかも若い方ではあるのだが、あちこちでセンス良くフューチャーされてますね。マイケルの良さである、ファンキー、メロウ、メカニカルがうまい具合にミックスされて、ソロも長すぎず短すぎず、この手の音楽初心者の私にとっては丁度良かったんだろう。とはいえ、当時の私はフラジオやらオルタネートフィンガリングやら(当時そんな言葉すら知らなかったけど)テクニカルなところばかりが気になってました。
お薦めはマイケルフューチャーのロックバラード、"You're Sorry"かな。これはやはりマイケルフューチャーの名曲、マイク・マイニエリの "I'm Sorry" の返歌的な位置づけなんだろうか。"Letter to New York" のワウワウプレイにも痺れました。
これを聴いたのち、あの"Heavy Metal Be-bop"を聴いて、無垢な高校生はすっかりマイケルの虜になってしまったわけです。当時、そういう人は世界に大量にいたんだろうなあ。と思ったが、よく考えるとこれ日本制作盤で多分海外では売っていなかったと思う(今はサブスクにあるけど)。日本人でラッキーであった。
気に入った方はこちらのライブ盤  "深町純&ニューヨーク・オールスターズ・ライブ " も聴きましょう。深町純の曲だけではなくて、メンバーの名曲バランスよく聴けます。上に書いた マイク・マイニエリ作の "I'm Sorry" も入ってますね。サックスだけじゃなくてドラムやらベースやら含めた当時の日本の若いプレイヤー達のお手本になったと思われる大名盤です。

2. 80/81 /Pat Metheny

1980年5月に、ノルウェーのオスロで録音されたパット・メセニーのリーダー作。その後のマイケルの音楽の方向性を決めたという意味で、非常に重要な作品と思われるのだが、評伝では当時の薬物依存の酷さの描写に終始して、あまりページを割いていない。例えばこんな証言。

「(オスロには)一週間の滞在だったのだけど、マイケルは、あっちではヤクの入手ルートがないし、持ち込むこともできなかった。あのアルバムの裏表紙のメンバー写真を見ればわかるよ。本当にひどい顔をしている。禁断症状で体調を崩し、苦しんでいたんだ」
ジェリー・ウォートマン

マイケル・ブレッカー伝より

その裏表紙の写真がこれ。まあ、言われればそうかもしれない。当時はそんな事情は知る由もなかったので「(他のメンバーに比べると)マイケルイケメンで格好いいな」くらいしか思わなかったが。

80/81 裏表紙

とはいえ、このアルバムで共演したメセニー、デジョネット、ヘイデンはマイケルの初リーダー作に招かれ、うち二人は遺作まで付き合ったという意味では、マイケルの考える「ジャズ」の概念がここで確立された、またはその前後で変わったというのもあながちウソではないかもしれない。マイケル没後に出版されたJazz Lifeの特集号で、集まった日本のフリークの方がこのアルバムについて「他の共演者たちの演奏を聴いて、自分はヤバいと思っているマイケルがそこにいるような気がする(その後プレイが大きく変わった)」と語っているのだが、なるほどそうかなとも思う(もしかすると禁断症状で苦しんでただけかもしれないが)。
かく言う私もこのアルバムにマイケルの違う一面を聴いたひとりである。特に "Two Folk Songs" や"Open" のフリーキーなプレイとか。っていうか、実は当時パット・メセニーも良く知らなくて、"Phase Dance" を聴いて「なんか軟弱なギターフュージョンだなあ」ぐらいに思っていたので、このアルバムのガチ具合にはびっくりして、その後フォローするようになった。チャーリー・ヘイデンやデューイ・レッドマンを認識したのもこのアルバムだった。
さて、色々書いたが、やはり聴きどころは   レコードD面wの "Everyday (I Thank You)" のマイケルしかできないバラードプレイだろうなあ。これは今聴いても(今聴くからか)グッとくる。メランコリックなテーマから、優しいメセニーのアコースティックギターのインタールードを経て、第二テーマ、そしてメカニカルな16分音符を織り交ぜたダイナミックなソロ。その後の "Cityscape" にもつながる名演ですな。

3. Three Quartets/ Chick Corea 

なぜか、Apple Musicに入っていないようなので、You Tubeで。
すっかりマイケルの追っかけになった私だが、このアルバムは雑誌で情報を仕入れて、 発売日当日、高校の近くのレコード屋に買いに行った覚えがある。本編に書いたStepsの "Smokin' in the Pit"の数カ月後のリリースで、ドラム、ベースが同じ、ピアノが当時すでに第一人者としての地位を確立していたチック・コリアということで、どんな音楽をやるのかと期待していたのだが、期待通り、というか期待以上にシリアスなアコースティックジャズであった。
極めて難解なテーマ/コード進行、テーマ吹いてアドリブやってテーマ、みたいな通常のジャズではない構造的なつくりを持つ楽曲、そして一般リスナーを無視するかのような凶悪なソロ、シリアス振りたい高校生の私にドンピシャの音楽で、しばらくこればかり聴いていたし、今でもたまに聴くのだ。
当時は「未来のジャズはこうなる!」みたいな感覚だったのだが、その後のチック・コリアのディスコグラフィー眺めてみると、このアルバムだけ浮いてる感じで、チック以外を含めて、この音楽からの発展形は結局生まれなかったような気がする。チック、この後しばらくしてエレクトリックバンドでショルキー振り回す人になっちゃうし(まあ、実はポップな様で構造的で難しいことやってたが)。そういう意味ではジャズ史の中でも極めて特異な音楽/アルバムだと思います。
さて、このアルバムのリリース直後、チック・コリアはマイケル含むアコースティックカルテットで来日、Live Under the Skyに出演した。観には行けなかったが、FMで放送されたものをエアチェックwして、これも死ぬほど聴いた。Three Quartetsのメンバーのドラムがロイ・ヘインズに替わって(当時の私は「ロイ・ヘインズって誰?」状態だったが)、普通のジャズのセッションに近い内容。さすがにThree QuartetsのPart 1,3みたいな小難しいことはやらなかった。 

と思ったら、Three Quartetsオリジナルメンバーでの録音、しかもおそらくアルバムリリース前のライブ音源を発見!すごい勢いであの小難しいQuartet No.1をやってます。これライブでなんの予備知識もなく聴いた人びっくりしただろうなあ。バンド全体として、ある意味コルトレーンカルテットみたいな集中力を感じますな。

ちなみに、チック・コリアは2003年にニューヨークのブルーノートでこのアルバム全曲同じメンバーで再演して映像を残してます。さすがにみんな歳とって落ち着いたのか「鬼気迫る」感は薄れてますが、その分バラードの表現力とかは上がっているのかもしれない。

4.  Melody still lingers on / Chaka Khan

ソウルシンガー、チャカ・カーンのライブ映像。レーザーディスクか何かで出てたんじゃないかな。1981年6月のライブだそうで、下のThree Quartetsリリースの頃ですかね。曲名が変わってますが、要は「チュニジアの夜」ファンクバージョンでブレッカーブラザーズがホーンセクション。キレキレのホーンセクションとチュニジアコード進行でマイケルフレーズ全開の凶悪ソロが聴けます。マイケル、プレイは凄いんだけど、なんかクール、っていうか機嫌悪そうに見えるのだが、今考えるとやっぱりヘロイン中毒に苦しんでいたんだろうか。
この曲のオリジナルはこちらのアルバムに入っていて(6曲目)、本家ディジー・ガレスピーのリフ/ソロとハービー・ハンコック伝説のシンセソロが聴けます。マイケル、ライブではハービーの代わりですな。ちなみに、このアルバム、空耳アワーの名曲「あーっちから突っ込んでー」も入ってます(2曲目)。

レーザーディスクつながりwという意味で、ついでにこれも張っとくか。ジャズフュージョンファンにはおなじみのライブ映像。ちょっと時代が上って1979年と言うことですが、ブルースでジャコに煽られまくるマイケルとか、珍しいマイケルのソプラノ演奏とかが観られます。っていうか、マイケルの演奏に限らず、いろんな意味で歴史的なライブ映像ではありますな。

5. Tochika/渡辺香津美

これも若いころ相当影響を受けたアルバム。マイケルは大人リズムセクション(トニー・レビンのベースとピーター・アースキンのドラム)が担当する "Cokumo Island" と"Manhattan Flu Dance" の二曲に参加。特に、いきなりフラジオ音域でのギターとのユニゾンでテーマが始まるCokumo Islandには痺れたなあ。両曲ともマイケルのソロでフェイドアウトするのだが、どちらの曲だか、実際のセッションではその後10分(?)ソロが続いたらしいという伝説がある熱いソロです。リズムセクションの盛り上がりも素晴らしい。
この頃の渡辺香津美さん、YMOに参加したり、このアルバムニューヨークで録音して、日本にマーカスとオマーハキム連れてきてツアーしたり、その後また自分のバンドでニューヨークに行ってライブやってるときにマイルスにスカウトされたり、ギタープレイでもバンドサウンドでも世界最先端いってたような気がする。マイケルとは関係ないけど、私の愛するKAZUMI BANDのアルバム張っておこう。Tochika録音のあと日本に帰ってきて結成したバンのスタジオ録音盤ですね。

6. The Nightfly (Maxine) / Donald Fagen

説明不要、泣く子も黙る大名盤。マイケルは、珠玉のロックバラード "Maxine" の間奏で完璧なソロを吹いています。泣ける。なのだが、マイケル本人のインタビューによれば、これ、二つのテイクをつなぎ合わせたものだとか。フェイゲンらしいといえばフェイゲンらしい。このアルバムだと、"Rudy Baby" のイントロに本当にちらりと出てくるサックス(およびホーンセクション) もマイケルだと思う。
Steely Dan関係では、”Gaucho”にもホーンセクションで入ってますな。 "Glamour Profession"ではトム・スコットとテナー二本で淡々とバッキング。多分、マイケルは下のパート吹いていると思うんだけど、二管ハーモニーからいきなりユニゾンになるところとか異常に格好良いです。

7. My One and Only Love/笠井紀美子

ジャケット写真だけ

私はジャズボーカル、特に日本人がスタンダード唄うようなアルバムは基本的に聴かないのだがwシダーウォルトントリオのバックでマイケルがスタンダードの唄伴と言われれば、聴かざるを得まい。1986年の録音ということで、日本がバブル直前で自信をつけていた(あるいは調子に乗っていた)ころですな。
笠井紀美子はハービー・ハンコックとの共演で有名だったと思うが、このアルバムでは、シダーウォルトンのピアノ、ロンカーターのベース、アルフォスターのドラムというオールスタートリオ+マイケルのサックス「または」 マイク・スターンのギターと言う編成で、ベタなスタンダードを普通に演奏してます。まあ、両マイクからすると金持ち日本人から頼まれた「お仕事」だったんだろうが、二人とも短いながらも気の利いたソロを採ってます。
※サブスクになっていないようなので、You Tubeのアナログ盤リッピング音源張っておきました。

8. Doctor Sax/Michael Franks

AORシンガーのマイケルフランクスの”Camera Never Lies"という1987年のアルバムから。歌詞も含めてマイケル万歳みたいな曲で、イントロからマイケルのソロを大フューチャーしてます。「悪ノリ」という言葉がぴったりで、初めて聴いたときは大笑いしたものだ。
まあ、とにかく聴いてくれと言うしかないトラックな訳だが、このソロを譜面にした奇特な方がいるようなので、そちらも張っておこう。

マイケルは上記一曲だけの参加だったと思いますが、アルバムとしては、FM音源バリバリで当時のオシャレ音楽感があって懐かしい。一曲目のホーンセクションがサックスのビル・エバンスとランディの組み合わせだったのが意外だった。

Doctor Sax、ゲートドラム多用でいかにも80年代のサウンドなのだが、当時、似たようなサウンドつながりで、こちらもご紹介。マッチョ系ファンクバンドのキャメオの作品。このアルバム、晩年のマイルスが客演したことで有名なのだが、マイケルはそれとは違う曲 "Pretty Girls" で兄ランディとのホーンセクションおよびソロを担当してます。他の曲は意外と普通で伝統的なアレンジなのだが、この曲だけ妙にホーンセクションが格好いい。恐らくホーンアレンジも兄弟で担当したのだろう。マイケルのソロはイケイケ絶好調です。次の短い曲 "Honey" でもちょっとソロが出てきますな。

9. Sings Jobim / Eliane Elias

ブラジル出身のピアニスト/シンガーのEliane Elias (イリアーヌ)のアントニオカルロスジョビン集にマイケルが(4曲だけ)客演したアルバム(1998年リリース)。マイケルのボサノバ、実は珍しいかも。イリアーヌ、マイケルにとってはStepsの同僚だったし、よく考えると(元)義理のお姉さん(年下だけど)だったのだな。
発売当時は「ゲッツージルベルトの再現!」みたいなキャッチフレーズが使われていたような気もするが、流石に無理があるかw とはいえ、イリアーヌもともとブラジルの人だし、洗練されつつも本物感のあるオシャレなボサノバが聴けます。マイケルはちょっとメカニカル/アウトなフレーズも織り交ぜつつ、抑制のとれた良いソロを披露してますが、実はソロよりも唄のバックのオブリガードが聴きどころかも。
イリアーヌ、唄がいいのはもちろんなんですが、この人ならではの奇麗な音のピアノも存分に楽しめて良いです。真剣に聴いても勉強になるし、BGMで流してても普通に心地よい良い音楽なので、テナー吹き以外の方にもおすすめ。このアルバムについてはテナー吹きの佐藤達哉さんが大変詳しいレビューを書いてますのでそちらもぜひご参照を。

10. Smappies (Rhythmsticks) /Smappies II

1990年半ば、まだバブルの名残があり、今は亡きジャニーズがSMAP大ブレークのお陰で隆盛を極め、CDも飛ぶように売れていたころ、SMAPのレコーディングのバックトラックではニューヨークの超一流ミュージシャンを使っていたりして、マイケルもSMAPの曲で演奏していたという。ちなみに、何の曲かわからないが、スーパーか何かで掛かっていたSMAPの曲でいきなりテナーのボブ・バーグのソロが聴こえてビックリしたことがあります。
その企画やらミュージシャンの手配をしていたプロデューサーが調子に乗って、改めて超一流ミュージシャンを集めて 「SMAPの歌抜きで」SMAPの曲を演奏させるという謎企画を発案して1995年に実現したのが  "Smappies"というアルバム。売れたからなのか、予算が余ったからなのか、1999年には 続編 "Smappies II" も出てます。
実は、このプロデューサ―氏となぜかニューヨークで呑んだことがあるのだが、絵に描いたような業界の人で面白かった。多分、マイケルには「マイケルさん、もう、アウトな16分音符バリバリでキメちゃってくださいよ!!」とかC調なノリで頼んだのであろう。
マイケルが大々的にフューチャーされてるのは1枚目の "Working People (働く人々)" と二枚目の "Slave of Groove (気になる)" の二曲かな。前者はいかにも90年代のブレッカーブラザーズみたいで、後者はちょっとハイテクなTower of Powerみたいな感じ。どちらも格好良いですが、私は後者の方が好きかな。
さすがにSMAPの楽曲で統制が厳しいらしく、サブスクはおろか You Tubeでもみつからないようなので、中古屋等でアルバム見つけたら即買いしましょう。そこまででもないという方ナニをナニしていただければナニしますのでナニ(以下略 

(おまけ):  Michael Brecker's Pop Solos Anthology

世の中には奇特な方がいて、マイケルのスタジオワーク、というかいわゆる「唄伴」の部分だけ切り出してまとめてくれている。これはPart 1だけど、Part 7まである模様(なぜかPart 2が見つからないんだけど、Smappiesでも入れてBANされちゃったかw) 。いろんなスタイルに器用に適用して、しかもちょっと聴いただけでマイケルと分かる演奏を維持していたのがよく分かる。
上に書いたSMAPも含め日本のポップシンガーのアルバムにも結構起用されている(ドリカムとか?)のだが、私の知っているのはこの古内東子さん。マイケルはどちらかと言うとで、メロウ方面に振った感じで (エモいソロポール・サイモンのバックの時のような感じ) を吹いてます。別のアルバムだが、個人的には「ぎりぎりまで(小池修さんが素晴らしいソロを吹いている)」のマイケルバージョンが聴いてみたかったw

というわけで、すっかり長くなりましたが、おまけでした。他にも紹介したいアルバムはたくさんある(例えばブレッカーブラザーズとか本編含め一枚も選んでない)が、キリがないのでこの辺で。皆さんも評伝読んで、改めてマイケルの演奏を楽しんでください。

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