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【番外編6】素人っぽい演奏の特徴を考える Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化

 演奏系You Tuberの映像とか観てると、よく「これやっちゃダメ 5か条!!!」みたいなテーマが出てきて、結構な勢いでいろんなことを決めつけている。よくもまあ、あんなに自信満々に否定ができるものだなあと思うわけだが、このシリーズもだんだんネタがなくなってきたのでw、試しにその手の記事を書いてみる
 アマチュア(時々プロ)の演奏を観たり聴いたりすると「なんか素人臭いなあ」と思うことはあるわけで、なんでそう思うんだろうかというのを言語化してみます。「そういうお前はどうなんだ!」などという罵声が聞こえてきそうですが、そんなことを気にしていては人気You Tuberになれないので、とりあえず書いてから考えます(別にYou Tuberになるつもりはないが)。どれもこれも私の偏見に近い私見ですので、まあ、ネタとして読んでみてください。ちなみに、私の専門はテナーなので、主にテナーの演奏を前提に書いてみます。アルトやソプラノはまた違う見方があるかもしれないですな。


特徴1: しゃくる

 これはいつも言っている話ですね。いや、上手い人でもしゃくるところはしゃくってるんだけど、時と場合があるというか。ホント、ジャズをやりたいという人、とにかくしゃくりたがるのは何故なんだろうか。なんかそういう演奏技法とかあるのか、偉い人の演奏がそう聴こえるということなのか、はたまたしゃくり教、でもあるのか。まあ、原則まっすぐ音を出す、装飾は指で、というのは心掛けたほうが良いと思います。

特徴2:タイムがいまいち

 得意の八分音符話ですね。結構上手いと思われている人で、八分音符のフレーズバリバリ吹くんだけど、なんかおかしいと感じる場合は、たいてい「つんのめって」いるような気がします。要は音価が短い+タイムを感じていない、の合わせ技かな。つんのめっているからちょっと早めにフレーズが終わっちゃうんだけど、周りの演奏のは聴こえているので、そこで合わせてまた吹き始める感じ。なかなか説明するのは難しいんだけど、私個人はスイングする=リズムセクションと同じスピード(タイム)で八分音符を吹くことだと思っており、そのためには、適切なアーティキュレーションと十分な音価がキーワードになるかと考えるわけです。

特徴3:フレーズが短い

 グロスマンの「吐きそうに長い」八分音符フレーズに代表されるように、メインストリームのサックス奏者はそれなりに長いフレーズ(例えば2小節以上)を繰り出してくる。私自身も(テキトーではあるが)結構長いフレーズを吹く方だと自負している。逆に言うと、短いフレーズが多いと素人っぽく聴こえてしまうわけです。
 
いや、長けりゃいいってもんじゃないし、短いフレーズを発展させる、みたいなアドリブは当然あるわけなんだが、単発で、それぞれあまり関係ない短いフレーズを思い付きで吹いてる感があると、やっぱりイマイチなんだよなあ。
 長いフレーズを吹けない(吹かない)、というのは、上で書いた八分音符とも関係があるかもしれない。吹きたくても、途中でずれちゃって吹けない、あるいは吹いてみても途中でぎくしゃくして格好悪いパターンですね。これは、プロの人でもたまにあるように思う(言っちゃった)。

特徴4:ジャズイディオムが感じられない

 以前、リックとパターンとフレーズについて書いたことがあった。

 私にとってあまり「ジャズ」を感じられないアドリブ(フレーズ)というのがあるわけだが、おそらくそれはここでいう「リック」、すなわち実証的に得られた音列、の要素が少ないんだろうと思うわけです。まあ、荒っぽく言えば、ドレミファとかドミソシとか書いてあるコードから類推される音を適当に吹いているというか。まあ、私もアドリブの2/3ぐらいはそんな感じなのであまり人のことは言えないのだが、もう少し「なんか聴いたことある!」というフレーズが混ざると素人臭さがなくなると思う。
 とはいえ、もし、いわゆるリックを使わないで、自分の頭で組み立てたフレーズだけでソロを吹いたとすれば、それはそれで相当凄いし、おそらくその凄さは観ているわかるはずだ。「自分の頭で組み立てる」感が出てこない、適当さ加減が感じられるちゃうのが素人ということなのかもしれない。
 と書いて思い出したのが、クリスポッターのソロ。音列という意味であまり「リック」的なものは出てこない。でも、独自の方法論で組み立てているという意味での自信や意味が感じられる+アーティキュレーションがバップの伝統に沿っている場合が多い、という合わせ技で、ビンビンにジャズを感じられるのだろう。

特徴5:変なビブラート

 なかなか表現ができないのだが、ソロの間なんだかずっと細かいビブラートが掛かっている人というのがいる。まあ、それも個性な訳で、向こうのプロにもそんな感じの人はいる(例えば、アルトのアーサーブライスとかちょっとそれっぽい)。なので、それを咎めるのも大人げないというものであるが、やはり正統派サックス奏法的には、音を延ばすときは揺れないロングトーンが基本で、音を切る直前でちょっとだけ揺らす、とかが恰好良いと思うわけです。

特徴6:見た目がいまいち

 見た目というと、顔とか服とか考えるが、さすがにそれを観て「素人臭い」とはなかなか言えない(ブーメラン間違いなし)。
 まず見た目で素人臭いのはやはり「指の動き」だろうか。指の動きが上から下まで妙に大きい人がいるが、それはやっぱり格好悪いと思う(格好良いと思う人もいるのかな)。いや、例えばブレッカーだって左手の上の方とか結構大きいアクションだけど、右手はあまり動いてない。やはり、指は全体的に力が抜けた感じで、最低限の動きの方が、上手く見えると思います。
 あと、盛り上がって体が動いてくると、楽器(マウスピース)と頭(口)の角度が変わる人がいるが、あれは格好悪いと思う(プロの方もたまに)。縦の動きは音色に大きな影響があるし、横は「変なビブラート」を誘発する可能性があると思われる。逆に、どんなに体動かして、楽器持ちあげたりしても角度が変わらないプレイヤー(グロスマンとかジョーヘンとか)は格好いいよねえ。

特徴7:一本調子

 個人的にジャズの面白さは「テンション&リリース」から来ていると思っている。なので、いいソロというのはいろんな意味でのテンション&リリースを繰り返して「アガって」いく。音使いという意味での「アウト&イン」、タイムの「アウト&イン」、音量の大小、長いフレーズと短いモチーフの対比、等々。そこまで意識はしていなくても、上手い奏者はそこら辺のコントラストを上手くつけてソロを構成している。
 一方、「素人臭い」のはそのコントラストが無くて、とにかく初めから同じ音量、同じ音質、同じような八分音符で吹けることを吹く、みたいな人ね。まあ、素人は私も含めほとんどそうだと思ってよいかもしれない。
 そういう意味では実に難しい話をしていると思うが、ソロの途中で第三者的に俯瞰して「立ち止まる」とか「違うことをやる」みたいな意識は必要だし、練習もそういうことを想定してやるといいのかもしれない。
 当然、コルトレーンとかグロスマンみたいに、初めから100%でガンガン行って、八分音符もバリバリ吹き続けて20分掛けて150%になるw、みたいなソロもあるが、それはおそらく「意図的に」やっているわけで、その意図が伝わればよいのだ。多分。

特徴8:アーティキュレーションが雑(意図が感じられない)、跳ねる

 最近、とある先輩から聞いた話だが、日本のモダンジャズテナーの開祖ともいえる松本英彦さんのレッスンでは、特定のフレーズに対し「あるべきアーティキュレーション」を教わり、少なくともレッスンの間は(アドリブの練習であっても)そのアーティキュレーションを厳密に再現することを求められていたという。このエピソードでもわかる通り、アーティキュレーション(タンギング、アクセント、音の長さのコントロール)はジャズっぽさを醸し出す重要な要素だろう。
 というわけで、アーティキュレーションがはっきりしない、あるいは工夫や意図が感じられない演奏は素人っぽく聴こえてしまう。やっぱりフレーズ(音列)だけに頭使っちゃうのかな。上で書いたように、まずはアーティキュレーションありきで練習して、どんな音列が来ても、半自動的にそのフレーズにあったアーティキュレーションができるようになるといいのかもしれない(プロは多分そんな感じ)。
 あと、意図は感じるんだけど、モゴモゴしたり、舌足らずみたいなアーティキュレーションの人もいる(私だw)。これは単純に練習不足なのだろうが、やっぱり素人臭いよね。
 あと、どうしても八分音符が跳ねる感じになる人がいる。「跳ねる」というのは実は定義が難しいんだけど、発音のタイミングというより、どちらかというと音の長さ(音価)の問題なんだろうとは思う。素人臭いというより、格好悪いと思うわけです。

特徴9:フレーズの終わりが雑

 アーティキュレーションの話の一部ではあるのだが、フレーズの最後の音を投げ出す感じで吹く人がいる。多分、当人的にはジャズっぽくて格好良いと思ってるんだろうし、実際場合とやり方によっては格好良いこともあるんだけど、大概残念な感じになってしまうのは何故だろうか。やっぱり基本は八分音符でも四分音符でも、音価を保った長い(音符に合わせてみっちりした)音で、きっちりと切る、みたいなことを意識するとよいかもしれない。上で書いたことも含めて、アーティキュレーションは繊細に丁寧に、ということだな。多分。

特徴10:短い四分音符が好き

 はい、これは完全に私の偏見です。なんか、アドリブの中で(どちらかというと短めの)四分音符をあたまにいくつか連続して吹く人、それも「ドッ!レッツ!ミッー!」みたいなフレーズ?を使う人がいて、なんか私は生理的に受け付けないのだw いや、自分でやっていないかと言われると、結構な確率でやっているような気もするのだが。
 なんでそれがダメなのか?と問われると答えに窮するわけだが、やっぱり、体験的に得られている「ジャズっぽいイディオム」にそういうのがないからだろうなあ。同じ四分音符でも拍の頭じゃなければ良いし、頭一発のあと、反拍ずらしたりすればなんかわかるんだけど。ウーム。

まとめ

 いろいろ書いてみたが、私にとっての「素人臭い」は、ただ「下手/テクニックがない」ということではなく「私にとってあるべきジャズテナーの演奏」ではない、あるいは方向がずれているということなんだなあと改めて考えさせられた。よって、上に書いたことはあくまでも「私にとって」なので、無視してもらっても構わないし、批判も甘んじて受けますw。
 とはいいつつ、素人でも「自分にとってあるべきジャズテナーの演奏」をそれなりに持っておくことは必要だし、そのためには、まずいろんな人の演奏を聴いて、自分の好みを固めていくべきだろう。さらにいえば、それを「演奏者目線」で聴いて分析し、音そのもの、音量、アーティキュレーション、タイムなど、要素別の特徴を意識することが重要かと思う。
 あと、今回書いてみて改めて思ったのは「それっぽく聴こえる」ためにはアーティキュレーションへの配慮が重要なんだろうなということ。タイムや音も重要なんだけど、それは、長期的に獲得するもの(意識してすぐできるものでもないという意味)で、一方、アーティキュレーションは「意識していない」ケースが結構あり、意識すれば比較的短期間で違いを作れそうな気がする。
 ジャズのソロというとフレーズ(音列)の話になりやすいアマチュアプレイヤーであるが、アーティキュレーションにもそれなりに気を使うと、彼女(彼)にモテモテのプロっぽいプレイができるかもしれない。

というわけで、今回の邪念企画はここまで。なんかネタ切れだが、次何書こうかなw

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