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月の立つ林で 青山美智子 ポプラ社

オーディブルにて。
同じポッドキャストの配信を聴く、全く違う状況の人たちが、それぞれにそれぞれの生きづらさや悩みと向き合っていく群像劇のような体裁を取っている。
ラストにちょっとした種明かしのようなシーンが登場し、彼らの悩みが実は、根っこは同じであることが浮かび上がったような気持ちになる。

外から見えることと、実際の現実は違う。
それをどう受け入れるか、折り合いをつけていくか、答えはそれぞれに異なるけれど、本当はみんな、誰かに必要とされたいと思っていて、実はそれはお金や分かりやすい評価だけじゃなく、シンプルな感謝や笑顔が最高の報酬である場合もある。
言われてみれば当たり前の、人間が生きて来た歴史の中で当然過ぎて目を止められなくなっているようなモチベーションの原点のようなものを、思い出させてくれるストーリー。

どんな人でも、直接でなくても、誰かのためになっている。だから、アナタはそこにいていいんだ。
究極的にはそういうメッセージなのだろう。
たぶん、現代ではそういうものを見つけにくくなっている。
だから、気付かせてくれるこういうお話に、救われるのかもしれない。

思えば古今東西、人間はそういうことで悩み、傷付き気付いて、それを文学やいろいろなアートにして伝え続けてきたのかもしれない、とふと思う。

極端に不幸な設定は出てこない。
でも、辛かったりもやもやしたり、納得いかなかったりするそれぞれのことを見過ごさずに名前をつけて、違う角度で眺めたり、何故、何が嫌なのか自分に問いかけたりできるようになる、そんないくつものストーリー。
そこらにありそうな、どこにでも居そうな人たちの人生に、肯定的な光を当ててくれる一冊だと思う。

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