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橙書店にて 田尻久子 晶文社

渡辺京二さんの『気になる人』を読んで、取り上げられていた彼女のことがどうしても気になってしまって購入した本。
彼の本は「書かれた人に会いたくなる」ものだったけれど、この本は書いた彼女に「会ったような気になる」本だった。

会ったことはもちろん、その付近に足を運んだこともないのに風景が見え、窓の外のふうの木の葉が揺れるのが、見えるような気がしてくる。
一見、素っ気ない文体なのに凄い説得力だった。

本当の意味の「本」屋さんなのだろうと思う。
言葉を扱うプロだから、というのはもちろん、そうなのかもしれないけれど、彼女自身が深く感じたことを書き表しているから、余計にこうなるのかもしれない。

本屋さんと、喫茶店。
みんなの心が集まって、休んだり遊んだりする場所なんだろうなぁ、と想像すると、すぐにも「仲間に入れてください!」と足を運んでみたくなってしまう。

でも同時に、一元で顔を出したら築けるような安易な関係性じゃないのもひしひしと伝わってくるから、やっぱり遠くから感じているだけの方がいいのかな、、、
すぐに行く予定があるわけでもないのに、なんだかそわそわしてしまう。

古いものが好きな人には共通点があると思う。
そのモノが歩んできた歴史のようなものに、耳を澄ませることができる感性のある人たちが、集まっている場所なんだろうな。

同じように、草木が風に揺れる音とか、届いたハガキに描かれた絵の向こうにある風景とか、そういう、忙しく生きていると見過ごしてそれきりになってしまうようなこともひとつずつ、丁寧に感じることができる人たち。
それは、本という紙でできた物体に記された文字や、絵や、その行間の空白からも別の世界を感じることができる能力とたぶん、同じなのだろう。

「書くより読みたい」
という、著者のホントーにホントウのホンネなんだろうな、と思える台詞に思わず笑ってしまった。

どんなものだって、それを心から愛している人に勧めてもらうのが一番いい。
彼女が本を愛している、本を愛して集ってくる人たちを大事に思っている、その様子が伝わるほど、本を読んでみたくなる人が増える気がする。

素敵な発見がたくさん詰まった1冊。
いつかホントに会いに行きたい。

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