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かばん屋の相続 池井戸潤 文芸春秋

よくできていて、面白い。
銀行の業務のこと、融資のこと、そして中小企業の心意気やそのありようについて。

巨大企業とは違うところで息づく市井の人々の悲喜こもごも、と言ってしまえばそれまでだけれど、職人の気概や親心、夫婦の間の些細なすれ違いや心の動きなどが実に丁寧に、丁寧に描かれていて、隣にいる誰かのことのような気持ちになってきてしまう。

業界ならではのいろいろなことが分かる、というこの著者ならではの面白さ以上に、人物の情景描写の上手さで親近感がわいて、つい続きも知りたくなってしまう、そんなストーリーが詰め込まれた短編集。

それぞれの立場で描かれた、それぞれのエピソードではあるけれど、どの話にも共通して一本、貫かれている精神のようなものが感じられて、それもこの著者らしい感じがして良かった。やや青臭い、場合によっては気障な理想論かもしれないけれど、どんな仕事でもそういう「こうありたい」は大切なことだ、とつい、思わされてしまう。

時にそれが叶ったり破れたりするわけだけれども、それを迷ったり臆したりしながらも貫こうとする主人公の逡巡がまた良い。面白かった!

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