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魔女の憂鬱

Fictions Vol.3

魔女は、お風呂上りの鏡の前で何度目かのため息をつきました。

やっぱり、送るのはやめておこう。

魔女には、褒めてほしい人がいました。

その人に、「いつも黒い服なのは殺風景だ」と言われたのが気になっていました。

魔女には、黒い服を着なければならないルールがある。

実は、黒い服の下は何色でも良いことになっているのですが、、、

でもそんなこと、知り合ったばかりのニンゲンに言うわけにはいきません。

大体、魔女であることもぜったいに言ってはいけないルールなのです。

考えた魔女は、くつ下を買うことにしました。

最近覚えたスマートフォンで、フリーマーケットのサイトを開いてポチッ。

マスターすれば、簡単です。


もちろん魔女ですから、くつ下を手に入れることなどもっと簡単なのです。

でも、どんなにえらい魔女でも、自分でイメージできないものは生み出すことができないのでした。

まだまだ、魔女になって日が浅いので、自分でイメージできるものは限られています。

つい、黒いものばかりになってしまう、自分目線のものではなくって、誰かが考えた、魔女が自分では思いつかないようなデザインのものが欲しかったのです。


23足もセットで安売りをしている人がいました。

おもしろーい。ポチッ。

2日経って、くつ下の詰め合わせが届きました。

赤やピンクや黄色、かわいい動物の絵がついたのやキラキラの飾りがついたもの、ヒラヒラレースのついたもの、ポンポンがついたもの、、、

自分でお店で見つけても、なかなか買う勇気が出ないようなものばかり。

魔女は嬉しくなって、それを履いた写真を撮って送りました。

その人はとっても、褒めてくれました。


ますます嬉しくなった魔女はつい、同じサイトで「あなたへのおすすめ」というタイトルで届いた、同じカテゴリーの商品も思わず、ポチッとしてしまいました。

今度は6枚セット。


魔女はワクワクしながら待ちました。

3日経って、それは届きました。

ピンクや白、紫や深緑。

横をヒモで結ぶのや、レースで向こうが透けて見える美しいデザインのもありました。

布が少ないのにくつ下より高いのはちょっとよく分からないけれど、、、

自分でお店で見つけたら、恥ずかしくて見ないふりをしてしまいそうなものばかり。

魔女は迷いながらも履いて、鏡の前に立ってみました。

やっぱり、送るの、やーめた。


来世でもっと、若くて綺麗な時にしよう。


魔女は死にません。

宿った肉体を使い終わったら、また次の生き物に宿るのです。

ニンゲンのこともあれば、魚や鳥、虫や植物のこともあります。
どんどん経験を積んでりっぱになると、何百年も生きる樹木についたりします。
ヒトという生物は他の小動物よりは長い方ですが、せいぜい100年足らず。ヒトに宿っている時点で、まだまだ、魔女としては未熟な状態なのです。

もちろん同じ、ヒトのカタチをした魔女でも、もっと先輩で、ステキな、憧れの魔女もいて、、、自身もあんな風になりたいと折々につけ、触れ合いに行くのだけれど、なかなか彼女のような境地にはたどり着けずにいるのでした。
まだまだ見習い魔女。

だからこんなことも起こるんだ。
魔女は恋などしてはいけないのに・・・・・・


中身が未熟でも、ヒトの肉体は容赦なく老いていきます。
せっかくの美しいデザインを隠そうとするかのように垂れ下がる、鏡餅のようなお腹の脂肪を、魔法ではどうすることもできないのでした。


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