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201126【ひまわりとクラス二軍男子】

高校1年生の秋、野球部に入り、同期でスピード出世の階段を登り、調子に乗って階段を踏み外し、伸びていた鼻はへし折られ、肩を壊し、そんな時、話す機会が増えた1個上の女子マネージャーとデートをしていた。

お昼を食べた後、映画を見る予定だったが、直近の上映時間は満席だった。人気作品の映画、どうしても観たい。となり、次の上映時間のチケットを買った。上映まで時間があり、自分たちはボーリングで時間を潰すことにした。

もちろん、彼女とするボーリングは初めてだ。今であれば、学校、部活の放課後に気軽にボーリングができるかもしれないが、当時、田舎であることもあり、ボーリングデートなんて初めてだ。M-1グランプリの決勝でブラックマヨネーズがボーリングのネタをするよりも1年前、自分はレーンの前でどう振る舞えばいいか悩んでいた。

球の重さや、指の穴のサイズではない。自分、ボーリング上手くないんだよなぁ。カッコいいところを見せるつもりが、彼女よりスコアは低空飛行。スペアかストライクを取れば、ハイタッチができるし、もしかしたらハグもできるチャンスがあるのに。2ゲームを終えて、どちらも100すら超えないトホホなボーリングだった。それに対し、彼女は軽く100を超え、スコア表は賑わっていた。

このまま何もなく終わってしまうのか。そんなボーリングをしながら、お互いに瓶のジュースを飲んでいたのだが、彼女が投球の際に生じる死角に入った。彼女の飲みかけのジュースの瓶のフチが目の前にあった。そのフチに口づけすれば、間接キスになるじゃないか。彼女がピンに狙いを定め、投球モーションに入る。その死角で、自分はフチに狙いを定め、キスをしたかどうか、その続きは皆さんの想像の世界で進めてほしい、ここでは書かないことにしておく。とりあえず、スコアは散々なボーリングだった。

ボーリングの後、間もなく上映時間となり、指定のシアター、席に付いた。

「いま、会いにゆきます」

その年のヒット映画で、確か“涙活”という言葉が世間を賑わせたほど、泣ける映画で話題だった。事前の予習はまったくなし、ただ、隣には狙っている彼女、そのシチュエーションで室内は暗くなり、フィルムは回り出した。あらすじにもならないが、主人公と息子の前に、亡くなったはずの妻が現れ、共同生活を始める。ベースにファンタジーがありながらも、話の舞台、設定はとても面白く、彼女の隣で泣いてしまった。ふと、彼女を見ると、彼女も大泣きだったのを思い出す。

また、上映中にクラっと寝てしまう自分はダメ人間だ。クラっと首が傾いたところを、彼女に救ってもらった。かわいい。自分はどうしても映画デートが苦手で、今の妻ともあまり映画館には足を運ばない。あんな暗闇に閉じ込められたら、国民的女優のラブシーンでも宇宙爆破のシーンでも、車同士のアクションシーンでも睡魔が襲ってくる。

さて、エンディングテーマは、ORANGE RANGEの「花」だった。この歌が、最後に涙腺を崩壊させに来る。これは敵わない。映画の世界観を歌詞に連ねて歌っているように感じて、どうしても泣いてしまう。

ORANGE RANGEって、たぶん自分の中学高校時代がブレークのピークで、鬼売れていた。曲名を出すだけで、合コンの山手線ゲームができるくらい、ヒットを飛ばしていた。ただ、自分、リアルタイムでは「ORANGE RANGEって良いよね。」と学校、クラスでは言えなかった。自分がクラスの二軍だったからだ。ORANGE RANGEはどうしてもクラスの一軍、イケイケな奴が聴く、発信するバンドだった。「花」はもちろん、イケイケなサウンドの「お願い!セニョリータ」や、これまた恋人に歌ってあげたい「ラヴ・パレード」が
クラスの話題に留まらず、携帯電話の着メロ、着うたを占領、体育祭で幹部が曲に合わせて踊り、文化祭のバンド演奏では「キリキリマイ、キリキリマイ!!」と校内から水田まで届くようなシャウトを聞いたことがある。

そんなもんだから、自分みたいな二軍陰キャピーポーは、「ORANGE RANGE良いよね!」なんて口に出したことはなかったなぁ。社会人になって、縁あってエンタメ系の仕事をするようになり、ORANGE RANGEの話をするようになった。夏フェスで、ORANGE RANGEの今となっては懐かしいヒット曲を浴びながら思い切って楽しめるようになったのは、ここ数年だ。社会人になり、それなりに業界の端っこで仕事に携わり、それなりに遊んできた今なら、胸張ってORANGE RANGEについて話せる。また、ここに書くようにリアルタイムの苦い思い出も。

当時、自分がヘビロテしていたのは、トンガリキッズの「B-DASH」かもしれない。自分がクラスのB級であることも込めて。

さて、映画は終わり、彼女は涙を拭うようにシアターを出た。こういうとき、なんて声をかければ良いんだっけ。

「ORANGE RANGE、クラスでは話せないけど、いい曲ばかりですよね。」

違う違う。

「いやー、感動しましたよ。」

とストライクを置きにいくことにした。もう外は夕方の時間帯。すっかり暗くなり、自分と彼女は、ターミナル駅を目指す路線バスの停留所に着いた。

バスが来るまでの時間、そんなに長くないけど、自分はある試みをした。映画中のシーンで、主人公と彼女は駅のホーム。たぶん季節は冬で、寒がる彼女の手をコートのポケットに誘うシーン。それを1時間くらい前に映画館で観て、「あ、これ、やりたい。」と思う男子は世の中にごまんといるだろう。自分もそうだった。

「あのー、入れますか?」と、彼女にジャケットのポケットを差し出した自分。なんで大きなポケットを持つコートを来てこなかったんだと後悔する自分。

ただ、その2本の手が入るわけないポケットに、恥ずかしがりながら彼女の手が入ってきたことは、今でも恥ずかしい気持ちを持ちながら書くことにする。彼女の手が入ってきて、自分は彼女の手を握って、その後はお互い黙り込んで、恥ずかしがって、手を離した。その時の彼女の顔を忘れない。忘れたけど。

そのままちょっと黙って、バスに乗って、駅を目指した。これで電車に乗って帰るのかと思ったが、まだデートは続いた。ターミナル駅の反対側も栄えていて、入ったカフェでお茶をした。お茶というか、パフェを食べた。高校生って、食欲旺盛だ。今だったら、パフェなんて食べず、たぶんビールを飲んじゃうけど。2人でパフェを食べた後、ゲームセンターに入り、UFOキャッチャーはやっぱり苦手で、無駄に100円玉を突っ込んだ後、自分たちはプリクラを撮った。

女の子と2人でプリクラ、これまた初めての体験だった。言ってしまえば、今日一日のすべての経験が初めてかもしれないけど。プリクラは彼女がリードしてくれる。どのタイミングでポーズを取ればいいか、撮影後のデコレーションはどうすればいいか、その時撮った写真、今はどこにあるのだろうか。自室、貯金通帳やパスポートを隠している箇所にもしかしたらあるかもしれない。つうか、そんなところにあるなんて、何か未練が残っているのか。今度、探してみようか。あんまり大きい声で言えないけど。

プリクラをシェアした頃には、もう21時を過ぎていて、田舎の自分は終電が近くなり、彼女と駅のホームを目指した。駅のホームで電車を待つ2人。自分はもうドキドキしていた。うん、ずうっとドキドキしていた。

「デートするなら、手くらい繋がないとな。」

そんな教えを誰かから聞いたことを思い出した。なんでそんな当時の自分に対しては、2アウト満塁からのエンドランサインのような無茶ぶりのアドバイスを思い出したんだろう。

ええと、告白もした方が良いのかな。いや、まだ早いな。でも、彼女と今日は手を繋いでない。あと、ハグしてない。ハグできないかな。駅のホームは寒いし、電車が来たら並んで座るだけになっちゃうし。ハグ、させてもらえないかな。そんなことを考えて、時間が無駄に過ぎたと思う。とりあえず、あの時、ポケットに手を入れた時の感想を聞こうかな。

ごめん、自分当時、ホントに異性に疎かったから。謝っておきます。これは謝る案件か分からないけど。続きはまた次回で。心で君を抱きしめることはできたのか。

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