見出し画像

マイナス金利と、間接金融の終焉

FOMCの利下げ

米連銀FOMCの利下げに伴い、世界の債券はさらに買い進まれた。マイナス金利政策を続ける日本や欧州を中心に、マイナス利回りで取引される債券が世界の債券市場の4分の1を占めている。貸し手が金利を実質的に負担する債券利回りのマイナスは異例の状態。

債券のマイナス利回り

世界のマイナス利回り債券残高が13兆ドルと、前年から倍増した。ドイツ10年国債利回りはマイナス0.4%台と過去最低水準まで低下。スイスでは2064年に償還を迎える残存45年債までマイナスで取引された。格付けが一部でジャンク級となっているフィアット・クライスラー・オートモービルズの金融会社がスイスで発行した社債はマイナス利回りになった。

プラス利回りの国債

プラス利回りのメキシコやオマーンの国債には発行予定額の3~5倍の資金が集まった。朝日生命保険などは2019年3月期にポーランド国債を初めて購入した。19年に入って新興国債券にはファンド経由で約330億ドルが流入した。信用力の低い企業向けの融資「レバレッジド・ローン」も米国だけで約1.2兆ドルと、金融危機があった08年の2倍に積み上がっている。

スイス最大手UBSの方針

スイスの金融最大手UBSはスイスの大口個人預金口座に11月1日からマイナス金利を課す方針を明らかにした。残高が200万スイスフラン(約2億2000万円)を超す口座を対象に、年0.75%の維持手数料を徴収するという。スイス国立銀行(中央銀行)のマイナス金利政策が長引くなか、負担を個人顧客にも転嫁せざるを得なくなった。2番手のクレディ・スイスも同日、個人顧客へのマイナス金利導入を検討中だと明らかにした。

スイス中銀は2015年1月からマイナス金利政策を導入、金融機関から預かる資金の余剰部分に0.75%の手数料を課している。UBSは市中金利の低下を受け、12年には金融機関の決済口座を対象にマイナス金利を導入していた。今回の措置でマイナス金利の適用が一部ながら個人にも広がる。「非常に難しい金融・資本市場環境が続いており、低金利の期間がさらに長引くと想定している」ためと説明している。大口のスイスフラン預金を持つ個人客には、他の投資商品への乗り換えを促していく方針だ。

マイナス金利政策の影響

これで分かるのは、日本の地銀の苦境もマイナス金利政策が原因なので、統合などでは解決にならないということだ。何しろ、UBSは世界最大級の規模なのだから。やはり世界最大級のドイツ銀行の苦境も同根だ。

また、個人預金口座にマイナス金利を課すということは、資金を余っているところから集めて、足りないところに貸し出すという、間接金融(銀行)の持つ機能を否定するということだ。

スイス中銀がマイナス金利政策を導入した時、その政策は銀行ビジネスの否定だとコメントしたことを覚えているが、実際に、金融立国としてのスイスはこんな形で事実上消えることとなった。スイス中銀に追随したスウェーデン中銀、欧州中銀、日銀なども、それぞれの国や地域の銀行ビジネスを潰すことになるのだろう。長く続いた金融の歴史を、一握りの政策担当者たちが潰したことになる。トランプ大統領の出現を見ても分かるが、個人の力(あるいは力不足)は、世の中や歴史を変えるほどに大きいということだ。

間接金融の終焉

問題は、1つの中核産業が事実上否定されたことの影響だ。資金を余っているところから集めて、足りないところに貸し出すという、間接金融がなくなれば、それに従事していた何百万人もの人たちがいらなくなる。このままでは日本でも労働者不足など起こらない。金融機関から大量の余剰人員が溢れることになるからだ。銀行は生き残りのためにリスクを取ることになるが、投資という戦いの兵隊は資金で、人員ではないため、少数精鋭となるからだ。

新たなる直接金融

そして、今後の資金の調達・運用といった金融は、証券市場を通した直接金融と、市場さえ通さないクラウドファンディングが主流になるのだろう。その意味では、個人は直接の運用者となるので、金融知識の必要性は個人にもっと求められることなる。そして、世界的に金融知識が高まれば、証券市場も改善し、誰もマイナス利回りの債券など買わなくなることだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?