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サンタフェの話

私が高校生のとき、宮沢りえが写真集『サンタフェ』を出した。

ものすごい話題になって、誰もがそのヌード写真集のことを知っていた。
売れ行きだってすごいものだったろうと思うけれど、女子高の高校生だった私にその写真集を見る機会はなかったし、買うほど興味があるわけでもなかった。

ところが、ある日教室にそれが来たのだ。

誰だか忘れたけど、家から持ってきたのだという。
そりゃあみんなでこんもり山のように集まって見た。

「うわあ本当にこんなに素っ裸になって写真に撮られるんだね」
「どういう気持ちで見るのが正解なの?」という感慨しか持たなかったのだけど、
とあるページはとても印象的だった。

見開きで、どーんと胸部。
右ページに右乳。左ページに左乳。
いや向かい合っているのだから、右ページに左乳、左ページに右乳か。

なかなか大きな判型だったし、それは迫力のあるものだった。
みんなその乳に負けないくらい目をまあるくして見入ったものだ。


サンタフェを見た休み時間の次の授業は、現国であった。
タイトルは忘れたが、そのときの教材は父と子の物語。

運の悪いことに、私に音読の順番が回ってきてしまった。
読み進めながら先をチラッと見て、内心で頭を抱える。

「あ~、『ちち』がいっぱい出てくる……」

いやな予感は的中で、「父は」「父が」と読むたび頭の中に
ドーンと見開きの乳が爆発的に浮かび上がった。

1回目の「父」は耐えた。
でもその、「っ…ちちは…っ」と耐えている様子に、クラスの複数人が耐えられていない。「今自分が笑ったら音読中の史ちゃんがヤバイ」という気持ちの伝わってくる、
真心こもった笑い我慢の息遣い。

でもね、
この世で一番笑いを誘うのは、笑いを我慢している人の息遣いだから。

もう、だめですよ。

2回目の「父」で、
「乳っ……~~ひ~~~ひっひっひっひ!!」

完全に「乳」って言っちゃってるし、大爆笑である。

適当にしないと怒られると思って一生懸命耐えるけれども、
「ちっちっ………い~~~ひっひっひっひ、あぁああはっはっはっは!!」ともう異常な様子。

先生は怒らなかった。なんか、引いてた。


そして、次の事件は掃除の時間に起きた。

性懲りもなくまたみんなで『サンタフェ』を見ていたら、グラサンにリーゼントの怖い学年主任にサボっているのを見つかってしまったのだ。

サボっているうえヌード写真集はまずい。いくら女子でも多分まずい。

息を飲んで固まる私をよそに、友人の反応はすばやかった。
サンタフェをジャージの背中に入れると、サンタフェが落ちないように背中と私の背中を合わせ、両腕を絡ませてダッシュで逃げたのだ。

な、なにすんの~!

後ろから両腕をがっちりホールドされている私は、自然逆さ走りをしなくてはならない。
目前には鬼のような顔で追いかけてくるリーゼント教師。
「止まりなさい!!」と目を合わせながら怒られているが、
止まらないのは友人であり、
止まったら最後「背中合わせをやめなさい!」となり、
ドサッと落ちてくるのはサンタフェだ。

私はリーゼントににらまれながら足をぐるぐると回し、
「すみませ~ん!!」と叫びながら友人の加速に加勢した。



その後どうなったかは記憶にない。
これが私のサンタフェの思い出です。

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