見出し画像

令和5年度予備試験再現答案 民法(B評価)

[設問1]

1. Bは、請負契約に基づく報酬支払請求権として、Aに対して250万円を請求することが考えられる。これに対してAは、①本件請負契約のAの債務は、契約締結時点で履行不能になっているため、契約は無効になる、②AはBに対して同時履行の抗弁を主張できる、という2つの反論をすることが考えられる。これらのAの反論は認められるか。

2. まず、①の反論が認められるか検討する。①の反論は、本件請負契約の締結に先立つ令和5年6月15日頃までに本件損傷が発生しており、Bの甲修復債務が履行不能(民法412条の2第1項)となっているため、本件請負契約は無効である、というものである。

確かに、契約締結の時点において、その契約の債務が履行不能(民法412条の2第1項)になっている場合には、そのような契約を有効に成立させる必要はなく、契約は無効にすべきとも思える。

もっとも、民法412条の2第2項は、契約締結時点において債務が履行不能となっている場合にも、契約が有効に成立することを前提とした規定だといえる。また、実質的に考えても、このような場合に契約を無効としてしまうと、契約が有効であると過失なく信頼した一方当事者に不測の損害を与えることになり、妥当でない。

従って、契約締結時点においてその契約の債務が履行不能となっていても、契約は有効に成立すると解すべきである。よって、①の反論は失当である。

3. それでは、②の反論は認められるか。

確かに、本件請負契約は双務契約であり、Bは自らの債務である甲修復引渡義務を履行しておらず、また同債務は弁済期にあるため、民法533条によりAの同時履行の抗弁は認められるとも思える。本件請負契約の(3)において、「Aは、Bに対して、報酬として250万円を甲の返還と引換えに支払う。」と定められていることからしても、Aの反論②は認められるとも思える。

もっとも、Bはこれに対して、本件請負契約の履行不能は債権者であるAの責めに帰すべき事由によって生じたものであるため、536条2項によってAは反対給付の履行を拒むことができないと再反論することが考えられる。このようなBの再反論は認められるか。Aに「責めに帰すべき事由」があるか問題になる。

本件において、Aは、個人宅における掛け軸の標準的な保管方法に反し、甲を紙箱に入れたのみで湿度の高い屋外の物置に放置しており、その結果甲に本件損傷が生じBによる修復が不可能となっている。また、BはAに対して、甲の状態や保管方法に問題がないか電話で何度も確認したにもかかわらず、Aは「問題ない。」と答えるのみで甲を放置していた。これらの事情からすれば、甲に本件損傷が生じたことに関して、Aに「責めに帰すべき事由」が認められる。なお、Bは京都在住であり、甲は東京のA宅に保管されているため、Bが直接甲の元を訪れ、その保管状態をチェックすることは困難である。そうだとすれば、上記の通りBは電話で何度も甲の保管状態を確認しているため、Bに「責めに帰すべき事由」は認められない。

以上より、Aのみに「責めに帰すべき事由」が認められるため、536条2項よりAは反対給付の履行を拒むことができない。従って、Aの反論②も失当である。

4. もっとも、甲の修復引渡債務が履行不能になることによって、Bは、本来甲を修復するために使うはずだった40万円分の材料等を使わずに済んでいる。したがって、536条2項後段より、Bは「自己の債務を免れたことによって利益を得た」といえるため、Aに対する40万円の償還義務を負う。

したがって、Bは210万円の限度でAに対して本件請負契約の報酬の支払いを請求できる。


[設問2]

(1)DはCに対して、令和5年6月2日のBD間の売買契約によってDが乙の所有権を取得したとして、所有権に基づき乙の引渡を請求している。これに対してCは、令和5年6月1日に、本件委託契約の契約条項(3)に基づき乙の返還を請求する旨の通知を発しており、その時点でBは乙の販売権限を失ったので、上記売買契約は無権限者による売買に過ぎず、Dはこれによって乙の所有権を取得しないと反論することが考えられる。そして、これに対してDは、上記売買契約によってDは乙を即時取得(民法192条)しており、Dが乙の所有権を取得していると再反論することが考えられる。このDの再反論は認められるか。

本件において、Dは、上記売買契約という「取引行為」によって乙の占有を始めている。また、その占有の態様が「平穏」「公然」でないという事情も認められない。さらに、Dは本件において本件委託契約の契約書を見せられておらず、売買契約時点において乙の所有権がCに帰属していたことに気がつくのはほぼ不可能だといえる。したがって、Dの「善意」「無過失」も認められる。そうだとすれば、Dに即時取得が成立し、Dの再反論は認められるとも思える。

もっとも、Dは売買契約成立後に乙をBに保管させており、いわゆる占有改定(民法183条)によって乙を占有している。そこで、民法192条の「占有」に占有改定も含まれるか問題になる。

この点について、占有改定においては、その占有態様が外形上一切変化しておらず、このような場合にまで即時取得を認めるのは不合理であり、なんの帰責性もない真の所有者に酷である。従って、192条の「占有」に占有改定は含まれないと解するべきである。

従って、本件においてDに乙の即時取得は成立しない。よって、Dの再反論は認められず、DはCに対して所有権に基づき乙の引渡を請求することはできない。

(2) 本件においても、(1)の場合と同様に、Dによる乙の即時取得が認められず、Dは乙の引渡を請求できないように思える。もっとも、本件において、DはCから本件委託契約の契約書を示されており、Cから委託を受けて、Bは乙の売却権限を有している旨の説明を受けている。そうだとすれば、Cの認識において、乙の売買契約は実質的にはCB間ではなくCD間に成立しているといえる。だとすれば、本件においてCは、占有改定ではなく、指図による占有移転(民法184条)によって乙を占有するに至ったといえる。

そして、指図による占有移転は、民法192条の「占有」に含まれると解すべきである。指図による占有移転においては、動産が真の所有者の支配領域を離れて流通するに至ったと評価することができ、このような場合には即時取得の成立を認めても真の所有者に酷とまでは言えないからである。

また、Dは本件委託契約の契約書を示されていたとはいえ、売買契約締結時点においてBの無権限に気づくことが可能であったといえるような事情は特に存在せず、Dの「無過失」(民法192条)も認められるし、即時取得のその他の要件も(1)と同様に認められると考えられる。従って、本件においてはDによる即時取得の再反論が認められ、Dは乙の所有権を確定的に取得する。

よって、乙は所有権に基づいて乙の引渡を請求することができる。

以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?