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令和5年度予備試験再現答案 民事訴訟法(D評価)

[設問2](※設問1は後に記述)

本件においてXは、(I)期日指定の申立て(民事訴訟法(以下、法令名省略)93条1項)によって①訴訟を再開させる、(II)和解無効確認の訴えを新たに提起するという2つの手段を取ることが考えられる。

(I)の手段を採った場合には、①訴訟で提出した資料や主張をそのまま用いることが可能になるというメリットがある。もっとも、①訴訟は控訴審まで進んでおり、和解の無効について第一審で争うことができなくなり審級の利益が失われるというデメリットがある。

一方、(II)の手段を採った場合には、和解の無効について第一審から争うことが可能になるというメリットがある一方で、①訴訟で提出した資料や主張を当然に用いることはできず、①訴訟における努力が水の泡になるおそれがある。

それでは、本件においてXはどちらの手段を採るべきか。審級の利益を重視すると、①訴訟が控訴審まで進んでいることから、(II)の手段を採るべきとも思える。しかし、①訴訟においてXは勝訴しており、控訴審がそのまま継続していれば勝訴していたとXは考えている。そうだとすれば、①訴訟における資料や主張をそのまま用いることが可能になるメリットを重視すべきである。したがって、Xは(I)の手段を採り、期日指定の申し立てによって①訴訟を再開させるべきである。


なお、本件においては、XY間に和解が成立した旨が調書に記載されている。そうだとすれば、その和解調書には確定判決と同一の効力が発生するため(267条)、新訴によって和解の無効を主張しても既判力によって遮断されるのではないかという問題が生じる。

この点について、和解調書によって訴訟終了効しか生じないことを法が予定しているとは考えにくいし、紛争の不当な蒸し返しを防ぐ必要があるため、和解調書には既判力が発生すると解すべきである。

もっとも、和解は当事者間の合意に基づき行われるものであるため、錯誤などの瑕疵がないか裁判所がチェックした上で行われるものではない。そうだとすれば、和解調書に通常の既判力と全く同様の効力を認めることは妥当ではなく、その範囲は限定的に解すべきである。具体的には、和解成立にあたっての錯誤などの意思表示の瑕疵には、和解調書の既判力は及ばないと解すべきである。

したがって、和解に錯誤があった旨をXが新訴において主張しても、和解調書の既判力によって遮断されない。


また、そもそも和解という訴訟行為に錯誤(民法95条)という意思主義の規定を適用させることができるか問題になる。

この点について、訴訟行為は、その上に新たな訴訟行為が次々と積み重ねられるものであるため、法的安定性確保の要請が強く働く。そのため、訴訟行為に錯誤などの意思主義の規定を適用させることはできないのが原則である。

もっとも、和解や訴えの放棄・認諾については、その性質上、その上に新たな訴訟行為が次々に積み重ねられることはなく、また一般的に被害者保護の要請が強く働く場面である。

したがって、これらの場合には例外的に意思主義の規定の適用を認めるべきである。

よって、本件においても和解の錯誤取消の主張は認められる。


[設問1]

Yの主張の根拠は、以下のようなものだと考えられる。

Xは、①訴訟の第一審で勝訴判決を得た後に、第二審においてその訴えを変更しており、その後②訴訟において①訴訟の第一審と全く同じ請求をしている。そうだとすれば、本件におけるXの行為は、実質的に民事訴訟法262条2項に規定された行為と同視できる。また、このようなXの行為は、紛争が①訴訟によって決着したというYの合理的な期待に反するものである。したがって、Xによる②訴訟の提起は、信義則(2条)に反するものであり、却下を免れない。

もっとも、仮に②訴訟が却下されるとすると、XはYに対してもAら3名に対しても甲土地の明け渡しを求めることができないことになってしまい、不合理である。

また、262条2項の趣旨は、終局判決までに至る裁判所の努力を徒労に帰せしめたことに対し制裁を与える点にある。もっとも、本件においてXは、乙建物はAら3名の所有に属するものになっているとの真実に反するYの主張を誤信したことによって訴えを変更したのであり、裁判所の努力を徒労に帰せしめるような意図は認められない。そうだとすれば、Xによる訴えの変更が262条2項の適用場面と同視できるとは言えない。

また、上記のように、XはYの主張を誤信したことによって訴えを変更したのだから、Yの紛争が決着したとの信頼が保護に値するものとは言えない。

以上より、Xによる②訴訟の提起は、信義則(2条)に反するものではなく、却下を免れないとは言えない。したがって、Yの主張は失当である。

以上


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