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令和5年度予備試験再現答案 刑事実務基礎(C評価)

[設問1]

(1)本件において、Aは無罪を主張しており、犯人とAの同一性が大きな争点になっている。そして、仮にAが所持していたNKドラッグストア会員カードがVのものであったならば、Aと犯人の同一性が強く推認される。他人の会員カードを持ち歩くことは通常考えられないし、犯行が行われてから間もない中Aが犯人から譲り受けるなどして本件会員カードを所持するに至ったとも考え難いからである。以上の理由より、Aと犯人の同一性を立証する決定的な証拠を確保すべく、Pは下線部①の指示をしたと考えられる。

(2)Vの証言によると、盗まれたリュックサックの中には財布が入っており、その財布は茶色の革製で二つ折りであり、現金22万9500円とNKドラッグストアの会員カードが在中していた。そして、Aが所持していたリュックサックの中に入っていた財布もこれと全く同じ特徴を有しており、中に入っている金額も札の種類まで完全に一致しており、上記の通り会員カードもVのものであった。これほどの事実が偶然に重なるとは考え難いので、Aが所持していたリュックサックは、Vが犯人から盗まれたリュックサックと同一のものと認められる。そして、Aが本件リュックサックを所持していたのを確認されたのは、犯行が行われてから間もない時間であり、犯人以外の者が本件リュックサックを所持していることは考えにくいため、Aが被害品を所持していた事実は、Aの犯人性を認定する上で重要だと認められる。もっとも、この事実だけでは、Aが犯人から本件リュックサックを譲り受けた可能性や、犯人が何らかの理由で捨てた本件リュックサックをAがたまたま拾ったという可能性が否定できず、Aの犯人性を立証する上で合理的な疑いが残る。従って、Vが目撃した犯人の服装や体格とAの服装や体格が一致していた事実、犯人が犯行に使用していたのと同じ色の赤い自転車をAが所有していた事実などがあって初めてそのような合理的な疑いを超えてAの犯人性を立証できる。以上の理由からPは、Aが被害品を所持していた事実は重要だがそれのみでは不十分だと考えた。


[設問2]

(1)甲の提案は、刑事訴訟法82条2項に基づき、裁判所に勾留の理由の開示を請求するというものである。しかし、勾留理由開示請求は、被疑者であるAの解放に直接資する訳ではない。また、Aが勾留されている理由が不明であるという事情も特に存在しない。よって、Bは甲が提案した手段を採らなかった。

また、乙の提案は同法88条1項に基づき、Aの保釈を請求するというものである。しかし、甲の被疑事実は強盗致傷であり、同法89条1号に該当するため、必要的保釈が認められない。また、同法90条の職権保釈が認められる可能性はあるが、職権保釈を行うか否かは裁判官の職権に委ねられているため、確実性に欠ける。したがって、Bは乙が提案した手段を採らなかった。

そして、丙の提案は、同法429条1項2号に基づき、準抗告の申し立てを行うという者である。具体的には、Aが無罪を主張していることから、勾留の理由(刑事訴訟法60条、87条)が認められないと主張するべきである。なお、Aは無職かつ一人暮らしであり、被疑事実が強盗致傷という重大犯罪であり前科もあることから実刑判決が下される可能性が高いことに鑑みると、Aには逃亡のおそれが認められ、60条1項3号に該当することは否定できない。また、準抗告において勾留の必要性が無いと主張することも考えられる。具体的には、Aは65歳とやや高齢であることを踏まえ、勾留によってAが被る不利益が勾留によって得られる公益を上回っており、勾留の必要性が欠けていると主張することが考えられる。問題文の事情のみからは明らかでは無いものの、このような主張が認められる可能性がないとは言えない。

そして、勾留に対する準抗告の申し立ては、その性質上、保釈請求に比べて裁判官の裁量が働く範囲が狭く、Aの解放が認められる確実性が高いと考えられる。したがって、Bは丙が提案した手続きを採った。


[設問3]

Aを強盗致傷罪の公訴事実で起訴するためには、その前提としてAに強盗罪(刑法236条1項)が成立している必要がある。もっとも、強盗罪の「暴行」は、被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものである必要があり、その判断は客観的に行われる。Aの行為は、Vの反抗を抑圧するに足りる程度のものであったといえるか。

この点について、被害者のVは若年の男性であり、身長175センチメートル、体重75キログラムと体格もよく、さらにとび職人として建築現場で稼働しジムでトレーニングする習慣があるなど、日常的に運動をおこなっていた。一方Aは、65歳と高齢で、身長168センチメートル、体重55キログラムと体格もAに比べると劣っており、細身である。また、Aは、Vに対して武器を使っておらず、素手で暴行を加えたにすぎない。

そうだとすれば、AのVに対する暴行は、客観的に観察して、Vの反抗を抑圧する程度に至っているとは評価できない。

従って、Pは強盗致傷罪の成立を立証することが困難だと考え、Aを窃盗罪と暴行罪の公訴事実で公判請求したと考えられる。


[設問4]

(1)Vの検察官面前調書は、要証事実である被害状況等との関係で内容の真実性が問題になる公判期日外の供述証拠であり、刑事訴訟法326条1項の同意を得ることができでいないので、伝聞証拠として証拠能力が否定されるのが原則である。

そこでPは、本件検察官面前調書が、同法321条1項2号の伝聞例外に該当するため、証拠能力が認められると主張することが考えられる。しかし、Vが公判期日において供述することができないという事情は特に認められないため、同号前段の要件を満たさない。また、Vは公判期日においていまだ証言をしていないので、同号後段の要件も満たさない。従って、このようなPの主張は認められない。

そこでPは、Vを証人として公判期日における証言を求めるべきである。このような対応をとることで、AのVに対する反対尋問等による証言内容の真実性のチェックが可能になり、原則として伝聞証拠の証拠能力を否定した刑事訴訟法の趣旨にも合致する結果となる。

(2)下線部⑥の異議は、刑事訴訟法309条1項に基づくものであり、法令の違反があること又は相当でないことを理由としてこれをすることができる(刑事訴訟規則205条1項)。

もっとも、本件写真は、化学的原理により機械的に作られたものであるため供述証拠に当たらず、伝聞証拠として証拠能力が失われることはない。また、本件写真はAの暴行を立証する上で重要なものである。

したがって、裁判所は、異議の申立に理由がないとして、決定で異議を棄却すべきである(刑事訴訟規則205条の5)。

以上


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