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令和5年度予備試験再現答案 刑事訴訟法(A評価)

[設問1]

1. 検察官が本件住居侵入・強盗致傷の事実に本件暴行の事実を付加して甲の勾留を請求した場合(以下、「本件勾留請求」という。)、裁判官はこれらの被疑事実で甲を交流することができるか。甲が本件暴行について逮捕されていないことから、本件勾留請求が逮捕前置主義に反しないか問題になる。

2. 刑事訴訟法は、逮捕前置主義について明文の定めを置いていない。しかし、被疑者を交流する前に、逮捕という比較的短期間の身柄拘束を行うことによって、被疑者の早期釈放の途を開き、その後勾留の際改めて裁判所の許可を必要とすることで、二重の司法審査によって被疑者の人権を保護する必要がある。また、刑事訴訟法207条1項は、「前3条の規定による勾留の請求」としており、同法204条ないし206条が被疑者が逮捕された場合の規定であることからしても、刑事訴訟法は逮捕前置主義を採用していると考えるのが自然である。

従って、逮捕前置主義に反する勾留請求は認められないと解すべきである。

3. それでは、逮捕前置主義における逮捕は、人を基準とすべきか、それとも事件を基準とすべきか問題となる。

この点について、仮に事件を基準とした場合、逮捕が前置されていない事件について、逮捕期間の分だけ長く被疑者を拘束することになりかねないため、被疑者保護の観点から人を基準とすべきという立場がある。この立場に立った場合、甲は本件住居侵入・強盗致傷の事実で既に逮捕されているので、本件勾留請求は逮捕前置主義に反しないことになる。

しかし、仮に事件を基準にしたとしても、逮捕後に被疑事実の嫌疑がなくなり勾留されずに釈放されることも考えられるのだから、被疑者にとって必ずしも不利益にならないし、むしろ早期釈放の途を開くことになる。また、事件を基準にすると解す方が、逮捕・勾留に関する規定で「被疑事実」「犯罪事実」などの文言を用いている刑事訴訟法に整合的である。

よって、逮捕前置主義に反するか否かは、事件を基準に判断すべきである。そうだとすると、甲は本件暴行について逮捕されていないので、本件勾留請求は逮捕前置主義に反するとも思える。

4. もっとも、逮捕が前置された被疑事実(説明の便宜上、以下「A」という。)と、逮捕が前置されていない被疑事実(以下、「B」という。)が同時に勾留請求された場合には、別異に解するべきである。

このような場合には、仮にBについて逮捕を要求し、逮捕後にBについての嫌疑がなくなったとしても、Aについての嫌疑が残っていれば被疑者の身柄拘束が続くのだから、逮捕を前置しても被疑者の早期釈放の途を開くことにならない。そうだとすれば、この場合にBについて逮捕を要求すると、Bについての逮捕期間の分だけ被疑者の身柄拘束期間が伸びることになってしまい、被疑者保護の観点から妥当ではない。

従って、逮捕が前置された被疑事実と逮捕が前置されていない被疑事実が同時に勾留請求された場合には、例外的に逮捕前置主義に反しないものと解する。

5. 本件勾留請求は、逮捕が前置された本件住居侵入・強盗致傷の事実に、逮捕が前置されていない本件暴行の事実を付加し、同時に勾留請求したものである。従って、本件勾留請求は認められる。


[設問2]

1. 本件において、甲を勾留することは、再逮捕・再勾留の原則に反しないか、問題となる。

2. この点について、同一事実についての同一人の逮捕・勾留は、原則として一回しか許されないと解される(逮捕・勾留1回性の原則)。厳格な身柄拘束期間の潜脱を防ぐためである。そして、同原則から、同一人に対し、時を異にして同一事件につき逮捕・勾留する事は許されないという再逮捕・再勾留禁止の原則が導かれる。

もっとも、刑事訴訟法199条3項は、明文で再逮捕を許容しているといえる。また、再逮捕や再勾留を常に認めないとすると、被疑者釈放後に新証拠などが発見された場合に被疑者の逃亡や罪証隠滅を防ぐ手立てがなくなってしまい、不合理である。従って、再逮捕・再勾留は一定の場合には認められると解すべきである。

もっとも、再逮捕・再勾留は、身柄拘束の不当な蒸し返しになりやすいため、被疑者保護の観点から、その許容範囲は限定的に解すべきである。

以上から、再逮捕・再勾留が認められるのは、被疑者が被る不利益と、新証拠・新事情などによる再逮捕・再勾留の必要性を比較衡量し、再逮捕・再勾留に及ぶ事が必要かつ止むを得ないと認められる場合に限られると解すべきである。

3. 本件では、甲は令和4年9月7日に逮捕された後、勾留延長期間が満了する同月28日に釈放されるまで、20日以上にも及ぶ長期間にわたって身柄拘束されている。そうだとすれば、仮に甲に対する再勾留が認められた場合、刑事訴訟法で定められた期間を超えて甲を身柄拘束することになってしまう。そうだとすれば、裁判官は甲を勾留する事はできないとも思える。

しかし、本件においては、甲が釈放された後の令和4年10月6日に逮捕された乙が、甲が本件住居侵入・強盗致傷事件に関与していたことを供述しており、その後甲乙間の共謀を裏付けるメッセージのやりとりが携帯電話機に記録されていることが判明している。そうだとすれば、本件は被疑者釈放後の新証拠・新事情によって被疑者逮捕の必要性が相当程度高まっている場合と評価できる。

また、本件被疑事実である強盗致傷罪は無期懲役もありうる重大犯罪であり、逃亡や罪証隠滅を防ぐ必要性が高い。

さらに、Pは、甲が逮捕・勾留されていた間、解析や取り調べ、聞き込みなどの捜査を尽くしたにもかかわらず、十分な証拠を得ることができず、甲を釈放したのである。そうだとすれば、捜査機関に、刑事訴訟法の身柄拘束期間を潜脱する意図があったとも認められない。

以上の事情を踏まえると、本件では新証拠・新事情によって再逮捕・再勾留の必要性が高まっており、甲を再逮捕・再勾留することは必要かつ止むを得ないと評価できる。

よって、本件では、裁判官は甲を勾留することができる。

以上

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