令和5年度予備試験再現答案 経済法(B評価)

第1 独禁法8条1号違反について

1. 甲製品協会による本リサイクルシステムの構築・実施(以下、「本件行為」という。)は、独占禁止法8条1号に該当し、同号柱書きに違反するのではないか。

2. まず、5社は甲製品の製造販売事業を営む「事業者」(独占禁止法(以下、法令名省略。)2条1項)にあたり、甲製品協会は、甲製品事業の振興と共通の利益の増進を目的とする二以上の事業者の結合体または連合体であるため、「事業者団体」(同条2項)に当たる。

3. それでは、本件行為は「一定の取引分野における競争を実質的に制限」(8条1号)したといえるか。

「一定の取引分野」とは、競争の行われる場たる市場を意味し、主に商品範囲、地理的範囲について、基本的に需要の代替性の観点から、必要に応じて供給の代替性の観点から画定する。

まず、甲製品の輸入は事実上行われていないのだから、外国産の甲製品に需要の代替性はない。その一方で、5社の甲製品はいずれも日本全国で販売されているのだから、地理的範囲は「日本全国」となる。

また、甲製品に代替できる製品はないのだから、他の製品に甲製品との需要の代替性はなく、商品範囲は「甲製品」となる。

従って、本件における検討対象市場は、「日本全国における甲製品の製造販売市場」となる。

4. それでは、本件検討対象市場において、本件行為が「競争を実質的に制限」していると言えるか。

「競争が実質的に制限する」とは、競争自体が減少し、事業者や事業者団体が、その意思である程度自由に価格等の競争変数を左右し、市場支配力を形成・維持・強化することを意味する。

本リサイクルシステムは、甲製品協会が全国2箇所に処理施設を設置・運営し、各メーカーが同施設に使用済みの甲製品の処理を委託し、その対価として甲製品協会が各メーカーから処理単価を徴収する、というものである。そうだとすれば、本リサイクルシステムの参加者間では、処理や処理費用が共通化され、その結果、各メーカー間における、処理をなるべく低コストで行う競争がなくなることになり、甲製品の価格が固定化される恐れがある。そうだとすれば、5社の甲製品の合算シェアが100%であることを踏まえると、本件行為は価格等の競争変数を左右するものであり、「競争を実質的に制限」しているとも思える。

しかし、本リサイクルシステムにおいて共通化されるのは処理や処理費用のみであり、運送は各メーカーが行っている。そうだとすれば、運送をなるべく効率的に行う競争は、各メーカー間で引き続き行われおり、本リサイクルシステム施行後も、5社間に競争の余地が残っているといえる。

また、甲製品のユーザーは数年ごとに甲製品を買い替えており、5社間では本リサイクルシステム施行後もユーザーの争奪が引き続き活発に行われている。5社間の甲製品のシェアに大きな偏りがなく、活発な競争が行われていることから、協調的行動によって競争が減少する事態も考え難い。

さらに、本リサイクルシステムには参加義務が定められているわけではないため、こう製品メーカーはその気になれば本リサイクルシステムから脱退し、独自の処理施設を設置・運営することも可能である。

また、処理単価は甲製品のユーザー向け販売価格の10パーセント程度に過ぎないのであって、5社間に価格競争の余地は十分残されていると評価できる。

以上より、本件行為によって価格等の競争変数が左右されたとは評価できず、本件行為が「競争を実質的に制限」したとは言えない。

5. また、仮に本件行為が競争を実質的に制限するものであったとしても、独占禁止法1条が定める同法の究極的な目的に照らして、正当化できると評価できる場合がある。そのような正当化事由の有無は、①目的の正当性、②手段の相当性の観点から判断する。

まず、本リサイクルシステムは、法令によってリサイクルが義務付けられたものの、どの甲製品メーカーも単独では効率的な規模の処理施設を設置・運営することが判明し、この問題を解決するべく構築・実施されたという経緯がある。そうだとすれば、本リサイクルシステムの施行によって5社間の処理が共通化されることにより、処理費用を低価格に抑えることが可能になり、その結果ユーザーは低価格で甲製品を購入することが可能となっている。そうだとすれば、本件行為は「一般消費者の利益を確保する」という独占禁止法1条の究極目的に適うものであり、本件行為の目的は正当だと評価できる。

また、上記の通り本件行為後も5社間に競争の余地は十分のこされており、本リサイクルシステムへの参加が義務ではないことからすれば、本件行為は手段として相当なものだと評価できる。

以上より、本件行為は正当化事由が認められる。

6. 以上より、本件行為は競争の実質的制限が認められず、また正当化事由もあるため、独占禁止法8条1号に該当せず、同条柱書きに反しない。

第2 8条4号違反について

本件行為が8条4号に該当し、同条柱書違反にならないか問題になる。

しかし、上記の通り本リサイクルシステムへの参加は義務ではなく、「事業者……の機能又は活動を……制限」しているとは評価し難い。

もっとも、8条4号の「不当に」とは、競争の実質的制限に至らない程度に競争を阻害することを意味する。上記の通り、本件では処理や処理費用が共通化されており、少なからず競争が阻害されていると評価できなくもない。

しかし、仮に競争阻害性が認められたとしても、上記の通り本件行為には正当化事由が認められる。

したがって、本件行為は8条4号に該当せず、同条柱書きに違反しない。

以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?