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令和5年度予備試験再現答案 民事実務基礎(C評価)

[設問1]

(1)保証契約に基づく保証債務履行請求権

(2)被告は、原告に対して、220万円を支払え。

(3)① 令和4年8月17日、Xは、Aに対し、本件車両を240万円で売却した。

② 同日、Yは、Xとの間で、①のAの債務を保証する旨の合意をした。

③ ②の合意は、本件契約書という書面によってなされた。

(4)結論……不要

理由……売買契約においては通常、特段の事情がない限り、売買契約締結の時点で売主は買主に対し代金の支払を請求することができる。したがって、被告が期限の利益を有しているという事実は、被告が抗弁として主張すべき事実であり、下線部に書かれたような被告が期限の利益を喪失したことを基礎付ける事実はそれに対する再抗弁として主張すれば足りる。

(5)白紙


[設問2]

(1)①本件車両は保安基準に適合しておらず車検に通らない

②本件車両は保安基準に適合し車検に通る

③AがXに対して本件売買契約の解除権を有していることを理由に、保証債務の履行を拒む。

(2)本件売買契約はAの錯誤に基づくものなので、AはXに対する本件売買契約の解除権を有する(民法95条1項2号、同条2項)。そして、民法457条3項により、YはAが解除権を有することを理由として保証債務の支払いを拒むことができる。もっとも、同項の効果を発生させるためには、債務の支払いを拒む旨を相手方に表明する必要があると解されるため、Qは(う)のような主張が必要と考えた。


[設問3]

(1)令和4年9月30日、本件車両の代金として10万円を支払った

(2)弁護士Pは、(ア)(イ)の事実によって、Aによる本件売買契約の法定追認(民法125条1号)があったことを主張しようとしていると考えられる。すなわち、まず(ア)の事実によって、令和4年9月15日の時点でAは本件売買契約を「追認することができ」(同条柱書)たことを示し、(イ)の事実によって、同月30日という「追認をすることができるとき以後に」(同条柱書)、本件売買契約の債務の「一部の履行」(同条1号)が行われたことを示している。

そして、仮にAによる法定追認が認められた場合、Aは本件売買契約を解除することができなくなり、その結果Xは民法457条3項に基づき保証債務の履行を拒むことができなくなる。すなわち、弁護士Pによる上記主張は、Yの抗弁の法的効果を消滅・障害・阻止するものであるため、再抗弁として機能する。


[設問4]

(1)⑤ Yの実印によるものである

⑥ Yの意思に基づくものである

(2)1. 本件契約書について

仮に本件契約書のY作成部分が真正に成立したものであれば、本件保証契約の締結が認められることになる。そこで、本件契約書のY作成部分にYの実印による印影が存在することから、民事訴訟法228条4項によってその真正が事実上推定されないか問題になる。

この点について、民事訴訟法228条4項の「押印」は、印鑑の正しい持ち主の意思に基づくものである必要があると解される。もっとも、印影が実印によって作成されたものである場合、その印影はその実印の本来の持ち主の意思に基づくものであることが事実上推定される。実印の正しい持ち主以外の者が勝手に実印を用いることは通常あり得ないという経験則が働くからである。

しかし、本件において、AとYは同居している実の親子である。またYは、本件売買契約が締結されたのと同時期の令和4年8月に、賃貸借契約の保証人になるためAに実印を1週間ほど貸したと主張している。そうだとすれば、上記のような経験則は働かず、本件印影がYの意思に基づくものとの事実上の推定は覆されるとも思える。

しかし、Aの住民票によると、AがYの自宅から住所を移転したのは令和4年12月15日のことである。そうだとすれば、令和4年8月の時点では、YがAの賃貸借契約の保証人になるためにAに実印を貸し渡す必要がない。したがって、上記Yの主張は客観的事実と整合しない不合理なものである。また、実印は通常厳重に保管すべきものであるため、たとえAとYが同居している親子であるといえども、Aが勝手にYの実印を持ち出したとは考え難い。

従って、やはり上記推定は覆されず、本件印影はYの意思に基づくものであると推定され、民事訴訟法228条4項により本件契約書のY作成部分の真正が推定される。

また、本件契約書のY名義の署名についても、Yの筆跡と似ているのだから、民事訴訟法229条1項の方法等によって両者の同一性が証明された場合には、同法228条4項によって本件契約書のY作成部分の真正が推定される。

2. 電話について

Xは、令和4年8月17日の夜、Y宅に電話をして、Yとの間で本件保証契約が成立したことを報告したところ、Yは、『Aからも聞いているので問題ない』と応じている。このことは、Yが本件保証契約の締結を認識・了承していることを意味しており、本件保証契約が有効に成立したことを強く推認させる。

これに対しYは、「電話の相手が不動産仲介業者だと誤解し適当に相槌を打ってしまった。相手から車の売買の件であるという説明はなかった。」と反論するだろう。

しかし、Xは、上記電話において、本件車両の売却についての話であると明言している。また、保証契約は多額の金銭的損失につながりかねない重要なものであり、そのような重要な保証契約についての話題に対し適当に相槌を打つということは通常考え難い。従って、Yの反論は失当である。

3. 年金振込通知書について

Yは、年金振込通知書から明らかなように月15万円の年金暮らしで生活に余裕がないため、そのような状況でAに対し本件売買契約の保証をするのは不自然だと主張することが考えられる。

しかし、Yはα銀行の預金債権や自宅不動産などの財産を有しており、年金暮らしだからといって必ずしも生活に余裕がないとは言えない。また、仮に生活に余裕がなかったとしても、親が子を思う気持ちから無理をして保証人になってしまう事態は何ら不自然なものではない。従って、Yの主張は失当である。

4. Yの日記について

Yは、Yの日記にAの保証を断る旨の記述があることから、本件保証契約の締結はされていないと主張することが考えられる。しかし、このような日記は簡単に偽造することができるし、上記記述の後にYが心変わりした可能性もある。したがって、Yの日記は本件保証契約の不成立をほとんど推認させず、Yの主張は失当である。

以上


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