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さよならを教えてくれる映画感想

 本記事はオチがわかってしまうと楽しめないサスペンス映画の感想になります。

・生きているのが辛い方
・犯罪行為をする予定のある方
・何かにすがりたい方
・殺人癖のある方

CRAFTWORK

※この感想文にはネタバレを与える内容が含まれています。上記に該当する方はご遠慮くださるよう、あらかじめお願い申しあげますという引用がジョークとわかる人のみどうぞ。

 


「どっちが幸せかな?怪物として生きるのと、いい人間として死ぬのと」


 どんでん返しが面白い映画を探していて、マーティン・スコセッシ監督の「シャッターアイランド」を観た。10年以上前の作品だけど映像が綺麗。

 ラストの意味が深く、原作の小説を読んでさらに解釈を掘り下げたくなる面白さだった。

 ミスリードの誘い方も巧みで伏線回収が見事で、怖くて切ない話だったけど、同時にとある18禁ゲームを思い出した。

 

彼女の唇はさよならのカタチをえがいて、こわばる。


 内容が有名なあまり、未プレイ者もオチを知っているゲームは沢山あると思います。

 例えば「School Days」だったら主人公の女癖が災いし、バッドエンドで死者が続出するネタなどなど。

 アニメ化したスクイズほど認知度は高くないけど、例にあげる作品もシナリオが特徴的な「鬱ゲー」のひとつ。

さよならを教えて」は20年以上前に発売されたパソコンゲームソフト。

 カルト人気と入手困難で一時期はオークションで10万円の価格で売られたとか。なお現在はダウンロードで廉価版が購入可能。

 私は怖いもの見たさでニコニコ動画のプレイ動画を見ました。年齢指定シーンは投稿者が丁寧に編集してあります。

 ちょっと古い絵柄と狂気表現が大袈裟なところはあるけど引き込まれる世界観。流れるコメントを読みながら見ると面白い。

 シャッターアイランドはそんな「さよ教」と共通点があります。
 あ、マリオじゃありません

 

 

まずは「さよ教」の内容


 主人公は教育実習中の若い男性(以下デフォルト名の人見先生)

 彼は先生や生徒の付き合いに疲労を覚え、同じ悪夢を繰り返し見るようになる。その悪夢ではいつも可憐な少女が怪物になぶり殺しにされている。

 ある日。人見先生は夕暮れの校舎で、いつもの悪夢に現れる少女と出会い───
 という、表面だけ読むとナラタージュみたいに先生生徒が恋してしまうような学園ものかと誤解するあらすじ。なぶり殺しはないけどな

 ゲームはいわゆるサウンドノベルで、人見先生と夕暮れの校舎内で会話をする女性キャラは計7人。最初のうちはギャルゲーとしてその生徒や先生と会話し、選択肢によってヒロインごとのエンディングを見られる、…………と思いきや。
 次第にBGMはゆがみ、中盤以降主人公の独白や行動に破綻が見られ、ヒロインたちとの会話が成り立たなくなる。しまいには唐突な破壊行為と傷害致死まで起きる。

 なのに、暴行の末に死亡したはずのヒロインは何故か次の日にはピンピンしている。そしてまた先生と会話をする。

 謎を残したまま終盤。保険医と教育係の女性の会話で、実習生活も暴力行為も主人公の作り上げた妄想ということがわかる。

 主人公は教育実習生ではなく、親の期待に応えられず受験を失敗し2浪でどうにか三流大学に入った精神病患者。病を患う原因の一つに父親からの虐待があり、血のつながりがない姉への恐怖心から女性とまともに接することができない。

 相談役の保険医は主人公の主治医、きつい印象の女教師は主人公の見舞いに通う姉。

 主人公は入院している精神病院を校舎に見立て、夕方になるとふらふら徘徊していた。接触のある女性たちの7人中4人は人間ではなく、実際は猫や人形に話しかけていたという症状の重さ。

 それだけでも悲惨なのに、最後の最後で主人公は自分を研修中の医大生と思い込んで新しい妄想に入ってしまう……。
 

 ちょっと説明が下手でわかりにくかったかもしれませんが「主人公は病で心が壊れている」「過去に受けた暴力が人格形成にかかわっている」「理解者だと思っていた存在が主治医」という3点が重要個所です。

 結局のところメインヒロインにあたる謎の少女は鬱病により通院している実在の患者で、人見先生と会話もするけど途中で症状が治って病院に来なくなります。そのことさえ現実として認識できない人見先生は「天使様が天へ昇って行った」と言っています。せっかく他者とのかかわりが持てたのに ダメだこりゃ

 

お次は「シャッターアイランド」のあらすじ



 時代は1954年、舞台はボストン港にある孤島シャッターアイランド。   どこか不気味な雰囲気がただようその島には、精神疾患を抱えた犯罪者が収容されるアッシュクリフ精神病院がある。

 連邦保安官のテディは相棒のチャックとともに、アッシュクリフ病院内で起きた患者の失踪事件を捜査する。

 失踪したのは自分の子を殺して精神を病んだレイチェルという女性。病院内は警備が強固で、逃げるにはフェリーを使って島を出る他ないはずだが、彼女はなかなか見つからない。

 くわえて、院長からもらった船酔い止めの薬を飲んでからテディは酷い頭痛とともに幻覚を見るようになる。

 どこか謎めいた院長や周辺職員、何かにおびえた患者から事情聴取をしているうちに、レイチェルは失踪したのではなく何らかの違法な実験の材料にされたのではないかという疑惑が浮かび上がる。

 保安官テディがこの調査に参加したのにはもう一つ理由があり、愛する妻の命を奪ったレディスという放火犯がこの病院の最も危険なC棟に収容されているからだった。


 「さよならを教えて」を先に説明して共通点を見出すと、シャッターアイランドも「この島は何かおかしい」→「おかしいのはアンタだよ!」というオチがわかると思います。

 ラストの種明かしをすると、放火犯は主人公の奥さんであり自分の子供三人を溺死させたのも彼女。主人公はアンドリュー・レディスという精神病患者。

 よって、テディ保安官のアッシュクリフ精神病院調査はアンドリュー・レディスの妄想だったことになります。さすがに猫やカラスを人に見立てたりしていませんが、相棒と思っていたチャックは彼の妄想に付き合ってくれた主治医のシーアン先生でした。失踪したレイチェルは愛娘の名を取った架空の患者。劇中で少しずつ謎が明かされ散らばった伏線が回収されていきます。

 レディスがテディという人格を作ったのは、悲しすぎる過去から己を許せず罰する存在がほしかったから。

 まずレディスの心的外傷は兵役時代の過去にさかのぼり、ダッハウの虐殺に参加したことから退役後も悪夢に悩まされます。その影響でアルコール依存症となり、奥さんとの関係が悪化。最初の放火事件は酒をやめないレディスに奥さんがノイローゼを起こしたから。その後、湖のほとりに家を建て三人の子供に恵まれるも、奥さんは鬱から寛解できず我が子を手にかけます。彼女から「楽にして」と涙で懇願され、銃の引き金をひいたのがレディス。   戦争経験と奥さんの事件で二度も“殺さなければならない”状況を味わったら、この物語の主人公じゃなくても精神崩壊すると思います。

 てっきり、『孤島で起きた奇怪な失踪事件を調査しているうちに、保安官二人が院内の陰謀を知って口封じに実験体にされる⇒危機一髪のところで黒幕を倒して奥さんの仇を取ってやったぞー!』というストーリーなのかと思いきや、それらは殺人犯の妄想だった。というどんでん返し。
 怪しげな院長、恐ろしいロボトミー手術も実は主人公のため。妄想の「調査ごっこ」にあえて付き合い、その中で生まれた矛盾に主人公が気づけば認知療法が成功した証。
 ラストのラストはとても切ないです。レディスは正気に戻ったけれど、狂ったフリをしてロボトミー手術を受けに行きます。主治医に残した最後のセリフに鼻の奥がツーンとなりました。

 「どっちが幸せかな?怪物として生きるのと、いい人間として死ぬのと」

 人見先生は妄想から抜け出せずに新しい妄想の世界に旅立っちゃったけど。人見先生にロボトミー手術してあげた方が彼のお姉さんのためになりそうな。
 レディス元保安官はつらい記憶とともに家族との思い出と人間らしさに別れを告げることに。
 あまりニッチな禁ゲーと巨匠のハリウッド映画を同一視するのもなんですが、シャッターアイランドの第一印象が「エロや極端なリョナに頼らず綺麗に舗装されたさよ教」だと思いました。
 人の脳から記憶と感情を奪う残酷な手術とされるロボトミー手術ですが、シャッターアイランドで耐えられない傷を負った心の安楽死手段の一面もあったんだなあという知見を得ました。
 

さいごに


 「さよならを教えて」は容易にオススメできない怪作ですが、シーアン医師的なポジションにいる大森となえ先生は魅力のあるキャラクターだなと思いました。ヘビースモーカーでいい加減そうで、しかしながら聞き上手の流し上手。作風が作風だから医療従事者としてそれはやったらアカンやろという行動もとっていましたが、先生も重々承知したうえでとった手段というくだりが印象的でした。
 余談ですがCRAFTWORKさんが26年ぶりに新作ゲームを発売するみたいですね。概要を見ている限りでは、社会の圧で意見が言えない弱者男性が出て来なさそうです。


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