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ミスドに行っていい精神状態じゃなかった

ゴールデンウィークだと言うのに微睡から覚めると12時。どうしようもない。
でも今日はショッピングに行くぞ、とぼんやり決めていたので適当にお昼を済ませて家を出る。

すっかり初夏の陽気だ。まだ四月とは思えない。折りたたみの日傘を持ってきたのは賢かったな。バス停までの10分足らずの道のりさえ陽射しの眩しさに気力が削がれる。バスの車内はもう冷房がついていた。

JRが乗り入れる駅前はショッピングモールや映画館があって、東京に出てきてからというもの買い物はここでしている。ちょっと歩くとヨーカドーもあるし。ほんとはこの周辺に住みたいが、試しにスーモで調べただけで腰が引けた。雲居の街だ。

靴やらイヤリングやらを物色していると本屋のフロアにでる。
もうすぐ母の日だから、メッセージカードを買っておくか、とカーネーションを模したカードを手に取ってレジ前へ。列で待つ間に財布を取り出そうとして、手が止まる。

財布が、ない。

どっからどう見てもない。
そこにはエコバッグとハンカチ、ティッシュとスマホとパスケースと鍵、そして畳まれた日傘しかなかった。

するーっと列から外れる。さも、おっと買い忘れたものがあるんだった、という顔つきで。
意味もなく店内を徘徊し、人気のない棚の間で鞄をあさる。

無から有は生まれ得ない。
落としたのではなく、そもそも持ってきていないのがまだ慰めか。だって鞄に入れた覚えがないのだから。
日傘を入れるんならまず財布を入れろ! アンポンタンめ!

どうしよう、PayPayでいけるかな。いやレジの表示を遠目に見る感じ対応してなさそうだ。
諦めるか……。
でもバスで20分くらいかけてるんだぞ! 週末しか来れないのに何も買わずに帰るなんて!

可愛いらしいメッセージカードを持ったまま手帳コーナーを彷徨う。
で、ふと気づいた。

私、さっきお金おろしたんだった。
自宅近くのA T Mがここしかなく、給料日あとは幾らかおろしているのだ。

腹を括ってレジに向かう。
会計は593円。
い、一万円から……と裸のお札を取り出すと、店員さんはちょっと困惑したようだが、ハイと受け取ってくれる。
膨大なお釣り。まず大きい方から渡されたそれを、私は鞄の内ポッケに突っ込む。あたかもそこに口の開いた財布が仕舞われているかのように。

中がグチャグチャの鞄を肩にかけ直して外に出る。
何か、自分を慰めるものが欲しい。
吸い込まれるようにミスドへ。茫然自失としたままトレーにドーナツを乗せていく。宣伝で見た抹茶のやつ、どれがどれだか分からぬままトングで摘み上げる。

前の人がPayPayで、と支払ったのをよーく確認して私も会計を済ませる。
もう何を買ったのかよく覚えていないが、とにかく買い物はできたのだ。重要なのはそれだけだ。

帰って食べたドーナツは美味かった。
でもミスドとは本来、研ぎ澄まされた精神状態で赴く場だと思う。心神喪失での妥協的チョイスなど、粒揃いのドーナツを前にしてあってはならないのだから。


今日の嘘ホント比率は1:9でした。

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