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昭和元年の密航未遂

岡山の片田舎に、神戸港から密航しようとした男がいた。

その時は子が二人。後に生まれた子が、すぐ死んだ。石を置き、女房と手を合わせた。

食べるのに十分な田畑はあった。渡し舟の仕事もある。でも、近所でもだんだんに、米国やらブラジルやら、新天地に渡航する者が出ていた。金になると。

男は女房に、やんわり言われた。あんたは生一本な性分じゃし、博打好きじゃけえ、変なこと考えさんなよと。

それでも、金を作りたい。家を建てたい。妻子のために。楽な生活をさせてやりたい。

そして、異国の地を見てもみたかった。



乗り換えの汽車を待つ姫路で、探しに来た親戚の者らに捕まった。岡山に連れ戻された。

一家の主としての責任を持てと言われた。女房や子供をどうするつもりなら、と。そのために、わしは行こうと思ようたんじゃ。でも、誰も聞いてはくれなんだ。



その後に、もう二人、子ができたが、男ばかりの子供らを女房に託し、男は死んだ。結核だった。



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