見出し画像

知っておきたい高齢者の薬の使い方~③抗不安薬

薬には副作用が起こることがあり、生活上に支障をきたす場合があったり、思いがけない事故につながる場合もあります。もちろん安全に使っていたら問題ありませんが、使っている薬の種類に応じて、起こりうる反応について知っておくことで的確に対処することが出来ます。
この連載では、薬を服用している高齢者を介護しているご家族、または介護ヘルパーの方に向けて、お年寄りをサポートする上での注意点をお伝えしていきます。

抗不安薬とは

抗不安薬は、精神安定剤とも呼ばれ、不安や緊張、イライラなどの精神的な不調を和らげる薬です。現在よく使われている抗不安薬はベンゾジアゼピン系の薬で、代表的な作用として、不安や緊張を和らげる”抗不安作用”、眠気を催す”催眠作用”、筋肉の緊張をゆるめる”筋弛緩作用”があります
ベンゾジアゼピン系の薬は、GABAA受容体の働きを高めることで薬効を示すのですが、GABA(γ-aminobutyric acid)は中枢神経系で抑制性の神経伝達物質として広く作用しています。今回はベンゾジアゼピン系の抗不安薬について、解説していきます。

抗不安薬の種類

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、薬の体内での濃度が半分になる期間(半減期)によって4つに分類されます。

主な抗不安薬

抗不安薬の副作用 ~こんな状態が見られたら要注意

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬の副作用には、以下のようなものがあります。
● 眠気
● 日中のうとうと
● ぼんやりとした感じ
● ふらつき
● 脱力感
● 動作が緩慢になる
● 浅い呼吸や息切れ
● 薬を飲んだ後の一定期間の記憶障害
● イライラ、興奮、攻撃的になる
● 依存性

抗不安薬の使用上の注意

◎使用前と使用後の変化に気を付けよう

一般的に、高齢者は腎臓や肝臓の機能が低下しているため、薬の分解や排泄がうまくいかず副作用が出やすいです中でも抗不安薬は、先ほど紹介したようにさまざまな副作用が現れる可能性があるため、抗不安薬を飲み始めてから「普段と違うことがないかどうか」を観察する必要があります。特に、薬の飲み始めや量を増やした時、さらには急激な減量や薬の中断時には副作用が出やすいため、より注意深く情報を集めましょう。変化に気づいた時は、医師や薬剤師などに報告すると、薬の変更や減薬など早期に対応ができます。

◎こんなことに気をつけましょう

● 不安な様子はないか?
● 体のだるさはないか?
● 眠気はないか?
● ぼんやりした様子はないか?
● 唇のかさつき、パンやクッキーなどのパサつくものが食べにくい様子はないか?
● イライラした様子はないか?
● 熱はないか?
● 咳や息切れはないか?
● 尿の色はどうか?

◎特にふらつき、転倒

抗不安薬の筋弛緩作用によって、ふらついて転倒する可能性があります。寝る前に抗不安薬を服用している場合は、夜間トイレに起きた時に薬の効果が残っているため転倒するリスクが高まります。ベッド周りの片づけや、室内や廊下の段差をなくす、足元ライトの設置などできる対策をおこないましょう。

◎なぜ抗不安薬を服用するのかを理解する

抗不安薬は「飲むとクセになる、止められなくなる、ボケてしまうのでは?」と考えられがちです。そのため、家族やヘルパーさんは「なるべくなら飲まないほうが良いよね」というように高齢者を不安にさせる言葉をかけてしまうこともあるかもしれません。
依存性が生じてしまうことも確かにありますが、医師の指示どおりに適切な量を適切な期間、継続して使用することが不安を解消する上でとても重要なことです。医師からの指示を無視して、薬の中止や減量をすると、薬を服用する前よりも症状が強く出てしまうおそれもあります。介護している家族やヘルパーさんが、抗不安薬を服用している目的をきちんと理解しておくことが大切です。

*****

<監修>
堀美智子
薬剤師。医薬情報研究所(株)エス・アイ・シー取締役/医薬情報部門責任者。一般社団法人日本薬業研修センター医薬研究所所長。名城大学薬学部卒・同薬学専攻科修了。著書、メディア出演多数。
株式会社エス・アイ・シー https://www.sic-info.co.jp/