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吉本隆明ー読むことの愉しみ

もしただいま大恋愛の最中だったら、本など読むことをおすすめしない。特に恋愛小説など、間違っても読んじゃいけない。(中略)あなたが現に夢中でうちこんでいる恋愛の生々しい体験に比べたら、色あせてしまうにちがいないからだ。

また恋愛中の相手の恋人に、本の話など仕掛けてはいけない。たとえば遊園地に行って黙って恋人とジェットコースターに乗って遊ぶことに比べたら、ずっと不毛なお喋りにすぎないからだ。

だがおなじ本を読むことでも、おなじ本の話でもいいからやってみた方がいい。もしも恋愛が峠をこえたと思えたり、これは失敗だと思えたりしたときには。本には恋愛の終りや失恋の辛さを、もとに返す力はないが、あなたの恋愛の終りや失恋をもう一度、あなたが体験したよりもっと巨きく、もっと深く体験させてくれる力があるからだ。

ー吉本隆明「読書の方法  なにを、どう読むか」より


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