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ブスの呪縛

「弟は可愛いのにね」
「お母さん綺麗なのにね」


何度この心無い言葉を聞いただろうか。
私は弟が生まれてから、常に顔面を比べられて生きて来た。ひいき目で見ても、私の弟は綺麗な顔をしているし、母上も美人である。身長も高く手足も長いのでスタイルもいい。
赤ちゃんのうちにスカウトされて芸能活動する弟が羨ましくてしょうがなかった。「どうして私は芸能人にはなれないの?」の質問に、母は「人には向き不向きがあるのよ」と言った。

どうみたって小さい目に、小学校の黄色い帽子が被れないほどでかい頭に顔、おまけに出っ歯。母と弟は足が長いのに私だけ短足の土偶みたいな体系をしている。芸能人になんてなれるわけないのに私は身の程知らずだったのだ。

大人になったら、誰もが雑誌に載ってるような可愛い女性になれると思ってた。でもそうじゃなかった。私は大人になってもブスだ。雑誌のモデルも芸能人も、骨格からして遺伝子勝ち組なのである。どんなにメイクを真似ても、あの可愛い子に私はなれない。ということに早い段階で私は気づいた。

「おいでっぱ!」「洗面器みてえにかおでかいな」「おいブス」「三回殴ったサトエリ」
そうやってずっといじられキャラとして容姿を批判されて生きて来た。いじられる分、美味しい立場だとポジティブに考えていたが「どうして私はこんなにブスなのか」と鏡を見るたびに思った。
毎日メイクに一時間半かけて、分厚いまぶたを無理くりメザイクを二本食い込ませてアイプチで補強して、上まつ毛につけま二枚に下まつ毛にもつけま。厚化粧でどうにか誤魔化していた。というか、私の時代はブスでも化粧で誤魔化せたのだ。今みたいにナチュラル思考なんてものはなく「盛って!盛って!なんぼ!」の時代だったからである。
「整形したい」が口癖であったが、いざ踏み切ることは無かった。当時はあまり整形の情報が出回ってなかったし、今みたいにtwitterやインスタで症例が流れて来る事もない。整形したいけど、どこですればいいんだろう?有名キャバ嬢御用達だったり、AV女優が良く行くクリニックは知っていたけど症例があまり好みじゃなかったのと、値段が高すぎて私には手が出なかった。キメセクの度に消えてくホテル代を無くせば出来たんだろうけど、整形よりも私に必要なのはシャブだったのだ、当時は。

それから時はたち、23歳でソープ嬢へ。時代は変わり、皆がナチュラルメイクになっていく中私も試行錯誤しながらメイクを薄くしていったが、やっぱりブスが目立つ。
この業界にいれば綺麗な子はS級とプロフに書かれるのに、私のプロフにその文字が並んだことは無い。スカウトからも店からも上から下まで見られて吟味されて、私は下の上ぐらいだったんだろう。
初めてキャバで働いた時も、ボーイに「お前リップも塗らねえの?そのブサイクな顔少しはまともにしろよ」と捨て台詞を吐かれた。

ああ、やっぱり私はブスなんだ。
夜の業界に入ってさらに自分がブスなことを自覚することになった。

そしてソープで働きだし、少し余裕の出てきたころ私は出稼ぎを気分でブッチした。店には一週間休むと伝えてしまったし、どうしよう。となった時「そうだ!整形しよう!」と近所の大手の整形外科を予約した。通ってたおかまの店子で綺麗な人がそこでやったと聞いたからだ。

埋没四点止め
エラボト
唇、涙袋、顎、鼻にもヒアルを入れて一気に顔面を変えた。
やるまでめちゃくちゃ怖かった埋没も、やってみたらまぶたの麻酔がチクッとするくらいでこんなもんか。という感じだったし一週間で晴れは引いて、顔もシュッとした。
でもエラボトでシュッとした分、頬骨が目立つようになり、私の輪郭はまるでインドカレー屋のナンのようになってしまった。
整形したらあれもこれもとなると言われているが、やはりパーツパーツが気になるようになるのである。
この後私は歯列矯正もして「でっぱ」といじられることは無くなった。幼馴染の男友達は「アイデンティティの喪失だ」といったけれど、そんなアイデンティティ、私にいらんのだ。

それから気が向いたらヒアル入れたりボトックスしたりしていたが大きな手術は「やりたいやりたい」とはいうものの貯金のできない私はそれらを施術することは出来なかった。

が、去年から始めた貯金で余裕が出来、整形して顔を完成させることが私の目標となった。どうせなら閑散期の暇な時期にダウンタイムぶつけようと計画を立て、twitterで好みの症例を片っ端から探して8月にはヒアルとボト、11月には二重全切開、目頭切開、左目の脂肪取りを済ませ、今回3月に鼻フルと人中短縮、Cカール形成を達成。
次は10月半ばに骨切り、その半年後に切開リフトの予約ももう済んでいる。


「整形しなくても十分なのに」と皆は口をそろえて言ってくれてとても有り難いが、わたしは十分というレベルではなくそれ以上の美しさが欲しい。何故ならば私は強欲な女だからだ。というか女はみな強欲な生き物なのだ。美しさにどん欲なのが女だ。ブスに産まれてきた以上、見た目が10割だという事を、身をもって知っている。誰が見ても綺麗だねと言われる境地に達したい。普通の美しさではなく、それ以上が欲しい。

人生で一番好きだった男に最後に会った時、整形に気づいた奴は言った。
「何もそこまでしなくてもよかったのに」

荒れだけ付き合ってる間「ブスブス」とけちょんけちょんに言われ、浮気されまくり、私のブスコンプレックスを増長させた男がそんな事言うのだ。言ったほうは何も覚えてないんだという事を、奴の一言で思い知った。人間なんてそんなものなのである。


韓国滞在中「もうこれ以上身体にメスを入れないで欲しい」と母はLINEを送ってきたが「子供の頃から弟は可愛いのに、お母さんは綺麗なのに、ってブスブス言われてじんせいすごしてきたきもちはおかんになんてわからないよ。だってそういう扱いされたことがないんだから。私がどれだけ顔にコンプレックスを持って生きてたか。五体満足に産んでくれたのは感謝しているけど自分を好きになるために整形しているの。わかってくれとはいわないけど、そっとしといてほしい」と返信すると、母は黙った。


鼻の整形だって、元の鼻が小さすぎて私の理想とする鼻にしたらプロテが曲がるか皮膚が限界が来ると言われ、好きな鼻にすることが出来なかった。
どんだけブス改善の邪魔をするのだろう、この遺伝子は。と心底自分の遺伝子が嫌になった。

でも今回の整形でほとんどのコンプレックスは消失したので、残すは幼少期から「顔でか」「顔でか」といじられた輪郭の骨切りで私のコンプレックス消失のゴールにたどり着く。

何のためにここまで頑張っているのだろう、整形した先に幸せはあるのか、なんて連勤がきつい時は思うけど、抜糸した自分と対面する時のあのワクワク感を思えば「あともう少し、頑張ろう」と思える。


世の中、顔か金。
そんなのもうずっと前から分かり切っている。だって美人は性格が悪かったって美人なだけでわがままは許される。ブスのわがままなんて誰も許してくれない。
大事なのは中身だなんて綺麗ごとだ。だって外見に興味を持たなければ相手を知ろうとすら思わない。

ブスの呪縛から解放される日が来ると思うと、また鬼の様なシフトもこまごました節約も頑張れる気がする。
顔が完成したら、自分のことをぎゅっと抱きしめてあげたい。
そしてブスブス言われてた少女の私に言ってあげたい「将来のあんたがどうにかしてくれるよ」と。

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