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ガチ恋VSだるがりソープ嬢


夢をぶち壊すけれど正直に言う

こちとら商売で体と時間とサービスまで大売り出しているのだ。遊びに来ている側の人間とはどうしたって気持ちも感覚も違う。

すべては仕事だからやってるのだ。仕事だから相手を喜ばす努力もするし、全力で褒めるし、全力でサービスをしてなるべく良い時間を提供する。色恋接客が得意な子はこれにプラスで甘い言葉もさらりと言うし、「あなただけよ」って期待を持たせたりもする。

だって仕事だから。一人でも多く客を掴んで、お金が欲しいから。

そこにそれ以外の感情はない。よく通ってくれるお客には感謝しているし、良い客は一緒にいて楽しいとすら思う。だけど恋愛感情など湧くことはほぼないと言い切ってもいい。お店の中で良くしてくれるお客が良いと思っているのであって、お店の外に出た時点でお客はお客じゃなくただの、人。この日本の国民の1人。それ以上でもそれ以外でもないのだ。

だから店以外でのサービスを要求されても勿論めんどくさいし、感情を持たれてしまっても期待に応えることはできない。

だってそれは仕事じゃないから。

お店での私の売りは「サービス」である。プロッフェショナルな先人や古株のお嬢たちに比べたら足元にも及ばないが、どうにかそれで生き残れている。だから色恋もしなければ、プレイ以外の時は太客だろうが細客だろうが初めましてだろうが誰にだってフランクに友達に近い感じで接している。こういう営業の仕方でいれば大きな結果はついてこないかもしれないが、長く何とか不自由ない生活を送れる状況を作り続けれるから私には一番向いているといっていい。

だが、この営業の仕方でもたまに間違い起こして「ガチ恋」になってしまう人もいるのだ。私の全力の「友達営業(金のかかるセフレ営業ともいう)」を肩透かしして、「好き!大好き!」となってしまう、ちょっと痛い人が。

ちょっと前に出禁間近のお客の1人として書いた「ガチ恋さん」もその手のタイプだった。そしてついに最近めでたく出禁リストの仲間入りし、私はもう二度と会うこともなく、彼のわがままに頭も抱えずに済み、ストレスフリーな環境で仕事をできるようになった。

「よく我慢しましたね、苦労させてほんとにすみませんでした」

出禁をお願いしたとき、ボーイからそう声をかけられるくらいにはめんどくさい人だった、そいつ。

休みの日に引っ切り無しにラインが届き、朝っぱらから電話までかけてくる。「会えない間寂しいから写メ頂戴」「今どんなパジャマきてるの?写メ頂戴」ラインを開けば「写メ頂戴」「写メ頂戴」の写メの要求の嵐。

「写メ日記に乗ってるから、日記読んでね」と優しく言っても「写メ日記だと画質悪いから」「前指名してた子は送ってくれたのに」だのと難癖をつける。

予約した枠の前に一本他のお客の予約が入り時間が押すと、「こっちは前から予約してたのに待たせやがって!おわびに割引券寄こせ!」とボーイにも難癖をつけるうえに、申し訳なさそうなそぶりもなく「待たせたから文句言ったら割引券貰っちゃったよ!だから今日は3000円引きになったんだ」という、けち臭さ。

どうしたってソープだとお客を見送ってから部屋のセットをし直したり、ぐちゃぐちゃになった髪を治したりするのに時間がかかって予約時間は多少は前後するのに、少し押しただけで「今日も待たせたね」と嫌味を言う。

実際のプレイ時間はそんなに面倒じゃなかったのだが、そのボーイと私への嫌味やわがまま、休みの日のライン攻撃に私は頭を抱えるようになった。そんな頃、そいつが次第に「ラインの返事が定形文だね」だの「もうちょっと写メ日記更新したほうが良いんじゃない」などと抜かす迷惑なアドバイスおじさんと化していき、更に頭を抱えた。

「うーるーせーえーーーーーーー!!!」

と何度返事しようと思ったことか。何度もその文字を打ち、何度も消して私は耐えた。なぜならば、金のため。このおっさんはめんどくさいの極みだったが、ダブル、トリプル、貸し切り、などと毎回長時間で枠を取ってくれるいわゆる「太客」だったのである。

「金のため、金のため。」

そうやって言い聞かせ、ラインもそつなく返し、お店に来れば笑顔で対応し続けた。見送った後は「ぎゃーー!ご臨終しちゃえー!!」とベットを殴ることもあったけれど、我慢に我慢を重ね、それでも金のために笑顔を作り続けた。

でもあるきっかけで、ぷっつり私の気力が切れてしまったのである。

10月のある日、そいつの誕生日だったその日「お祝いしてね!」と私の枠を貸し切りにしてお祝いすることを強制された。「私の誕生日は120分だったくせに、てめえの誕生日は貸し切りかよ?!」と言いたいのをどうにか自分の中に押し込めて「わーい!貸し切りありがとう、一緒にお祝いしようね♪」と返したその時、「私死ぬほどえらいじゃん。頑張れ」と貸し切りの給料を計算しながら、自分で自分を奮い立たせた。嫌いな客と計6時間もの時間を部屋で過ごさなければならないうえに、誕生日をお祝いすることまで強制されているのだ。奮い立たせ、そして「これ我慢すれば〇万手に入る!」と金のことを考えないと、やり遂げられる仕事内容ではない。

「誕生日プレゼントは、これが欲しいな」と送られてきたのはカバンの写真だったが、よくわかんないブランドだったうえに予算オーバーだった。いや、いいお客さんなら「いいよ」って快く買えたかもしれない。だけど「こんなやつにこんなお金使いたくない」とどうしても私の気持ちが納得しなかったのである。

「こいつに使ってもいい、と思える金額はこれくらい。」と思ったのが5000円だった。なのでコンビニで5000円のアマギフを買い「いつもありがとう」と思ってもない手書きのメッセージを添えて「ごめんね、どんなカバンかわからなかったからこれ買う時の足しにしてね」と嘘をついて当日手渡した。「焼き肉が食べたい、焼鳥が食べたい」と言うので自腹で出前も頼み、散々好き放題飲み食いさせて時間を潰し、その貸し切りを無事に終えた。

それでも計1万以上はかかったのだ。こんなやな奴のために1万も使ったのだ。充分すぎるだろう。

なのにこいつはまたもケチをつけてきたのである。

「カバンが分からなかったなら、いってくれればよかったのに。急にアマギフ渡されても困るから、事前に相談してほしかったなあ。」

帰宅後、こんなラインが送られてきたのだ。

私の誕生日プレゼントは「何が欲しい?」なんて聞きもせず、だっせえスヌーピーのTシャツと、これまただっせえスヌーピーのリュックと、好きじゃないチョコレートの詰め合わせを大量に寄こした男が、こう言うのだ、プツリと切れない方がおかしい。

「5000円もアマギフ貰っといて文句言うんじゃねえーー!!!好き放題飲み食いしといて文句言うんじゃねえええええーーーーー!!ぶっ殺すぞ!!!!!」

と言わなかった私を褒めて欲しいくらいだ。

「あげたものにとやかく言われる筋合いはないかな。じゃあ逆に私がスヌーピーじゃなくて他のものが良かった!相談してほしかったよ!って言ったらどう思うの?(本当にそうしてほしかったけど)」と丁寧に返したら

「文句言ってるんじゃなくて、一言言ってほしかったの。びっくりしちゃうからさあ」とまたも引かないこいつに嫌気がさし、その返信を見た瞬間にスマホをぶん投げた。全然わかんなかった。アスペだからとかじゃなく、こいつの精神がわからなかった。もともと人の気持ちはわからないけど、こいつの気持ちは私には理解の許容を超えていたのだ。

そして私は白旗をあげた。もう笑顔で接客できる自信がなかったからだ。

だから「〇〇さん、出禁にしてください」とお願いしたとき、本当に肩の荷が下りたような気がして、解放された気分だった。

こうしてガチ恋客との半年間の攻防戦は幕を閉じた。

訪れた平和な日々、ストレスもなくいつも文句も面倒なことも何一つ言わず通ってくれるお客に感謝する毎日だった。

二週間前訪れた初見のお客が今度はガチ恋と化した。二週間前に会って以来、出勤日は毎日通ってくれるのは有難いのだがどうしたって「イケない」というちょっとまためんどくさいちんこ。人間ではなくちんこがめんどくさい。…でもやっぱりまた人間も少しだけめんどくさい。

その人の三回目の登楼で「上がったら結婚してほしい」と言われた。風俗人生初の、よくあるプロポーズしちゃう痛客に10年以上勤めて初めて遭遇したのだ。「今は上がった後と、仕事のことでいっぱいいっぱいだから結婚なんて考えてないし、嘘ついて期待させるのも嫌だからそういうのは応えられません」とはっきり言うと「じゃあ応援団として、応援し続けるね!」といったが、今現在彼からのラインは27件ほど溜まっている。長文でつらつら自分の事や色んなことを送りつけてくるのは良いのだが、その量が多すぎて返信する気力も起きない。「筆まめじゃないよ」とあんなに念を押したのに「あーあ返事返ってこない」というぼやきのラインまで入ってきている。

応援団でいてくれるなら、選手のお休みの日くらいはそっとしといてくれよな。

…さあ、このガチ恋との攻防戦はどうなるか。一難去ってまた一難。頭を抱える存在が消えたと思ったらまたすぐ出て来る。

だけど限界までは頑張るよ、だって金のためだもの。

そしてガチ恋のみなさーーーん!そういうことだよーーー!そりゃあなたによくしてくれるよ。夢見させてくれるよ。「特別感」を与えてくれて、可愛いあなたのオキニは頑張ってくれるよ。

だって金のためだもの。

もしもお嬢から「好き♡」と言ってくれることがあるならば、そのお嬢はだいぶ言葉を端折っている。

正しくは「(あなたの財布の諭吉が)好き♡」だ。

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