見出し画像

Creative Commons(含類似ライセンス)における許諾の意味と諸々

Creative Commons(以下、CC)がちょっと有名だからって文言の意味を理解しないままコピペして派生ライセンスを作っちゃおうと思ってる人がまさか居るとか、いや、すでに存在しているみたいな香ばしい話について、私が思っていることを綴りたいと思います。

そもそもCCには「無料素材にもルールあり」を表現するために著作権者の正当な権利を保護するために作られたもので、そこからはみ出たものを保護する趣旨ではないことはまずコンテンツクリエイターもよく理解すべきであると思います。

CC-BYについて

CCライセンスの中でも最も基本的な、権利表記を行いさえすれば大抵のことはやって良いライセンスがCC-BYです。これにいろんな条件を付加した派生ライセンスがありますほか、日本法と矛盾する部分があるので日本法に合わせたローカライズ版(後述)なんかもあったりします。

そしてCCにはいわゆる著作権者がこれを採用することで権利を自ら制限する条項が備わっています。

Subject to the terms and conditions of this Public License, the Licensor hereby grants You a worldwide, royalty-free, non-sublicensable, non-exclusive, irrevocable license to exercise the Licensed Rights in the Licensed Material to:

より著作権者が頒布方法や利用者の使用につき対価を得ることの条件付加を自由にできる汎用性の高いライセンスにするなら、はっきり言ってworldwideだのroyalty-freeだのirrevocableはかえって邪魔なくらいです。当該著作物の頒布に際し、著作権者が権利の行使につきそれをしないことを明言し、自らに制限を科すことで、将来的にも無償で手に入ることが利用者に約束され、安心して使えるわけです。

そして CC-BY* は、商用コンテンツに頒布に向けた定形約款ではないし、改変するにしても、少なくともこんな著作権者の権利を拘束する面倒な文言を残して流用できることを意図したライセンスでは決してあり得ないということを付言しておきます。

ダメな日本語訳の例

日本版CC-BYではなく国際版の日本語訳(参考)が存在するのですが、これが、まあ、お粗末な翻訳でして、「ロイヤリティ・フリー」と記すべきところ「無償」となっております。この間抜けな訳、この記事のあとで出ますからよく覚えておいてください。参考訳であって、このように原文との意味と矛盾していることはしばしばあります。ライセンスの原文が英語その他日本語以外の言語である場合、必ず原文を忠実に理解することが大事です。

本パブリック・ライセンスの条項に従い、許諾者はあなたに対し、ライセンス対象物について、以下に掲げるライセンスされた権利を行使できる全世界的な、無償、再許諾不可、非排他的、かつ取消不可なライセンスを付与します:

日本法に準拠したCC-BY 2.1-JP

日本の法律に合わせてカスタマイズされたCC-BYです。オリジナルのCC-BYにおいてユーザーに制限を科す事項が日本の著作権法で許諾する事項と矛盾しうるため、第2条において、日本の著作権法で許諾される事項を制限しないという日本独自のルールが追加されています。

第2条 著作権等に対する制限
この利用許諾に含まれるいかなる条項によっても、許諾者は、あなたが著作権の制限(著作権法第30条〜49条)、著作者人格権に対する制限(著作権法第18条2項〜4項、第19条2項〜4項、第20条2項)、著作隣接権に対する制限(著作権法第102条)その他、著作権法又はその他の適用法に基づいて認められることとなる本作品の利用を禁止しない。

オリジナルの第2条以降は条番がひとつずれて3条からとなっています。何やら但し書きが付与されていますが、それはともかくとして、正式な「日本版CC-BY」として "royalty-free" に対応する日本語上の表記は「ロイヤリティ・フリー」であることが重要です。

第3条 ライセンスの付与
この利用許諾の条項に従い、許諾者はあなたに、本作品に関し、すべての国で、ロイヤリティ・フリー、非排他的で、(第7条bに定める期間)継続的な以下のライセンスを付与する。ただし、あなたが以前に本作品に関するこの利用許諾の条項に違反したことがないか、あるいは、以前にこの利用許諾の条項に違反したがこの利用許諾に基づく権利を行使するために許諾者から明示的な許可を得ている場合に限る。
(以下略)

UVLはなぜ "free" なのか

さて、伏線を消化したいと思います。
Uni-Virtual LicenseもしくはUVライセンス(以下UVL)がCCを参考にしたっていう部分、よりにもよって一番著作者の自由を縛る部分を(間違ったまま)コピペ流用していることがわかりますね。

スクリーンショット 2020-04-20 5.15.52

スクリーンショット 2020-04-20 5.16.55

原文ではroyalty-freeとあるところ、日本語では「無償」、英語では「free」となっています。参考訳をそのままコピペしてそれを英語に再翻訳したら "royalty-" に戻らなくて、 原文の趣旨が失われてしまったなんておかしな話じゃないかなと思ってるんです。

文字通りに解釈したら有償コンテンツの頒布の利用規約には使えません(コンテンツの利用権を付与する売買契約が無償で提供するという規約に反して消費者に不利益な義務の加重にあたり、改正民法548条2違反)という話になります。だから、結局無償配布の著作物にかかるライセンスとしてしか使えません。

バーチャルマーケットに出店するクリエイターのためのライセンスとして作ろうとしたの趣旨はわかりました。それと大きくかけ離れてる気がするのはなぜかというと、そりゃそうなるわなと思うわけです。

CC自体に有償のソフトの権利保護に役立つ機能はありませんし、CCを参考にした時点で方向性がずれていて、さらに、おおかた「無償」という公式の参考訳自体間違っていて、その誤訳をそのままコピペ改変してライセンスを作ろうとした(推定)ところも間違ってるし、それを有償の製品配布にも使えるライセンスだって標榜するのも、何もかも間違っていて、間違いに間違いを重ねても正解にはたどり着けないのです。

あろうことかこんなレベルで弁護士が策定にかかわっているから大丈夫だなどと標榜します。日弁連などの名誉にも関わることなので、弁護士がチェックしたなんてことを標榜しないで欲しいレベルです。月額330円の弁護士ドットコムだって法律相談すればどこかしらの弁護士がボランティアで回答してくれます。あるいは30分や1時間単位で数千円の法律相談をやる事務所もあるでしょう。それはなんの責任も伴わない「助言」であって、仕事の委託契約ではないのですが、UVL策定者は、あるいは何かを勘違いしている可能性があります。

契約書は究極的には裁判官に読ませるもの

みんなあえて言わないことだけど、契約書作成の飾らない本音です。
どうせエンドユーザーは全文を読んで理解するわけじゃないとしても、訴訟まで進んでしまった場合に裁判官を説得させ、コンテンツホルダー側の言い分が正しいと疑いなく信用させることが大事なのです。

コンテンツホルダーがやるべきことは、利用規約とは別に平易な文章や図画でやっていいこと悪いことの要点を説明し、「詳細はこれを読んでください」までやっていれば、十分説明義務を果たしているのです。そこまでやっていればそうそう違反はおきません。

逆に某のような突っ込みどころ満載の利用規約なら、紛争の相手方側が雇った弁護士が「こんな法的根拠のないでたらめな規約に従わなかっただけなら十分勝ち目ある」と踏んでそのまま法廷で消耗戦になるかもしれません。完璧な契約書面は、紛争が訴訟に発展する前に、相手がつけた弁護士に「裁判では勝ち目がない」と諦めさせるためにあるのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?