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アリエル・ドロン ワークショップ

下北沢国際人形劇祭のいち企画である、アリエル・ドロンのワークショップに参加してきた。
物の扱い方、物と物との位置関係、そもそもその物の「あり方(あらせ方)」など、舞台上の物の、より遊び心ある使い方への考察の緒を沢山いただいた機会だった。。

ワークショップの概要は👆(BREAKFAST PUPPET CLUBと別企画の名前が出ているが、運営の表示設定ミスだと思われる)

参加者には事前に、「思い入れのあるオブジェクト(言ってしまえば単に、任意の「物」でいいのだが、以後もオブジェクト」とする)を一つ持ってきてください」と周知されていた。講師の紹介の後、まずはそれぞれが持ってきたものの紹介から始まった。


僕が持っていったオブジェクトは大好きなバンドjizueのフェイスタオル。文言が気に入ってる。

「恋人からもらったペン」「好きな人が持っていたハンカチ。『いいね』と言ったらその次に会ったときにくれた」「たくさんの距離をともに歩いたが、インドのめちゃくちゃ臭い海に入って臭くなって履けなくなってしまった靴」……その他たくさん。それぞれの参加者のエピソードを聞いているだけでも、その人の人生が垣間見えてとても面白かった。

その後、いよいよ「オブジェクトシアター入門」に入る。第一段階として、持ってきたオブジェクトをリサーチするところから始めた。
この時のコツ、大切なこととしてアリエルが言っていたのは「自分が赤ん坊か宇宙人で、そのオブジェクトを初めて(つまり用途も性能も素材も特製も何もわからない状態で)見ると想定して、いろんなことをしてみる」ということ。見た目は?手触りは?どんな音が出るか?(僕も少しだけなめたりかんだりもしてみた)など……。そして、「そのオブジェクトが、どんな状態なら動きやすいか / 動きにくいか」を試してみるように、とのことだった。

その後それぞれのリサーチ結果の発表。言葉を話さず、そのオブジェクトの「動かし方(動き方……?)」を3つ披露する。

僕がしたのは、

  • 左足と右手を縛って引っ張る

  • 片方の端をまるく結んで、両端を持って龍のようにくねらせる

  • とぐろを巻くように丸めて、肩の上に置き、肩を上下させる(と当然タオルも上下する)

の3つ。ほかの人もそれぞれ、本を口のようにパタパタさせる、お守りを床に置いて回転させる、などなど、いろんな試みを披露していた。

披露された「動き方」のメモ1
披露された「動き方」のメモ2

その後、他の人のオブジェクトの動かし方などを見て思ったことがあればシェア。
その時特に、「物が動いているように見えたのか、物と人間(おもに人間)が動いているように見えたのか、その違いは何だったんだろう……?」という問題提起がなされ、「それを見ていて、自分の思い出が想起されるか否か(想起されるとオブジェクトが動いているように見える……?)」「自分に対して物がどう見えるか、を考えて動かしていたが、他の人を見て『物が他人から見てどう見えているか』を考えて動かしているな……と思った」などの意見が出た。「正解は無く、またそれゆえにどれも間違いではないが、」と言いながらアリエルが言及した「定石、ルール」は「(自分の、そしてそれによって観客の)フォーカス(焦点)をどこに絞るか?を考えること」だった。

それを考えるサンプルとして一つのワークと「ファミリーポートレート」というゲームが行われたた。「ファミリーポートレート」は、アリエルがアニエス・ランボスという演出家から学んだものらしい。

まずはワーク。一人がオブジェクト(靴)とともに選ばれ、普通に靴として扱うように言われた。参加者は自分の靴を床に置き、普通に履き、その場で歩きだした。
その後何度かそれを繰り返したのだが、そのたびにアリエルが

  • 靴に集中して行ってみて

  • 観客に全意識を集中させてやってみて

  • 靴を履く際は靴に、歩くときは観客に集中してやってみて

とオーダーを出して行ってもらっていた。確かにそれで、観客として自分の目線がどこに行くのか、が変わる感じがして面白かった(個人的には、「出演者が靴に集中することで観客にも靴に集中してもらう」には、靴を履く(手に取る)よりも前、靴が床にある時点でじっと時間をかけて見つめる、ということがより有効なように思ったが……)。とにかく、「観客がちゃんと、(作り手が『注目してほしい』と思うところに)注目するまでの時間をとる」ということが重要、とのことだった。

そして「ファミリーポートレート」に移った。横並びに3人、または横2列に3人ずつ計6人が並ぶ。それぞれ、持ってきたオブジェクトを観客から隠すように持っている。そのオブジェクトを即興的に出したり引っ込めたりするのが唯一主要な動作だ(その際に「演技はしない。単に出したり隠したりする」ということをアリエルは言っていた。が、僕自身はこの「演技しない」というのが「一番難しくないか……?」と思ったが、それはワークショップの主眼から外れるだろう……)。
主要な動作はそれだけだが、その際に「観客を見ているのか、自分のオブジェクトを見ているのか、他人のオブジェクトを見ているのか……」など、やっている人(いわゆる出演者)の視線によって、その人と他者、そしてそれぞれが持っているオブジェクトの関係性について、様々に考察できるのが興味深かった。

ちなみに通訳の方の注釈では、前述のアニエス・ランボスはこの手法(人が並んで立っていて、物を出したり引っ込めたりする)だけ2時間くらいやる作品を上演して、観客を爆笑させたりしているらしい……どんな思考回路をしていればそうなるのか……

それだけのことでここまで考えたり、ふふっと笑ったりもできることに、目から鱗が落ちる思いだった。オブジェクトシアターという「物を扱う舞台」をしていながら「(物が)少なければ少ないほど豊か」と言うアリエルも印象的だった。

そしてその時アリエルが言っていたのが「オブジェクトシアターは、動作、物の扱い方のディテール(ニュアンス、とかと同じ意味だと思う)が全てを決める」ということだった。

その時のメモ

「観客の脳は常に『自分は何を見ているのか?』を考えている。また、演劇は『関係性』の芸術であり、人と人、人とモノ、果ては『モノとモノ』との関係性まで、観客の脳は考え始める。その、関係性を探して考え続ける観客の脳の思考を操作するのが面白い」

とアリエルは言っていた。その観客の考える、時間と空間、関係性についての「余白」をどのくらいに設定するのか、も大切なことだと。。

休憩後、それを試すための最後のワークが行われた。

ちなみにもう一つ、休憩後最初に「一つのオブジェクト(その時は紙コップ)を、(自分自身の)演技はせず、ただ隣の人に手渡していく。ただし、前の人がした渡し方とは違う渡し方をする(つまり後のほうになるにつれて難しくなっていく)というものが行われた。これはこれで、参加者それぞれのユーモアや発想が見られて面白かったが、ワークショップの一番最初、アイスブレイク(その場にいる人の緊張をほぐして親睦を深めるために行われる、メインワーク前の遊びのようなもの)として行った方が、より有益だったように思った。

まず2つのオブジェクト(椅子2脚)が選ばれ、舞台(半円に並んだ参加者の縁のおよそ中心)に置かれた。参加者は番が回ってくると、「どちらか一つを移動させる=向きやもう一つのオブジェクトとの位置関係を変える」というワークだ。
参加者が、椅子を、横倒しにしたり、座る人が向かい合うように向きを変えたり、また重心を注意しながらもう一つの椅子にもたれかかるように傾けたり……思い思いに動かした。椅子の「在り方」を変えた、と言うほうが正確かもしれない。背もたれのある椅子だったので、椅子に座っている人がいなくとも、座っている人が(いたとして)向かい合うように置く(お互いの座面を背もたれより近くなるように置く)とか、同じ向きで横並びにする、とか、前後にずらす、とか、それだけでも椅子同士の関係性があるように思えて興味深い。その後、一つずつオブジェクトを交換(僕のタオルや、ウルトラマンのぬいぐるみなど)してワークを続けたが、それぞれにできる(置ける)位置関係などが変わって、「無限に遊べるな」という感じだった。「オブジェクト同士、オブジェクトと空間の関係を変える」ことの面白さを説いていた(実際、アリエルは自身のアトリエでずっとそんな試行錯誤をしているらしい……)。


その時のメモ。黄色下線は参加者の所感

その後、「参考になるかも」ということでいくつかの他のアーティストの動画作品をYouTubeで観て、ワークショップは終了となった。

本来は1週間くらいやってるらしく、アリエル自身は不完全燃焼だったのではないか……とは思うが、とても充実した時間だった。パペットスラムで拝見した、Jakub Jelínek『next level』(金属製の器……?でRPGしてた……)や、これまでに出会った舞台作品のいくつかともリンクするように感じた今回のワークショップ。早くも自分の中で作品に反映させたいと思えていて、参加できてとても嬉しかった。

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