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#照葉樹林の足下で 5月

 玄関から外に出ると、キビタキの囀りが聞こえて来ました。スダジイの枝の陰がお気に入りで、毎年子育てを家の周りでしています。キビタキに比べて警戒心があまりないのが、我が家にやってくるサンコウチョウです。サボテンのトゲが大好きで、飛び乗ってトゲを引き抜きぬいて、腐らせてしまうサボテン泣かせの鳥ですが、鳴き声に包まれて暮らす日々に、ささやかな豊かさを感じさせてくれます。

ヒメナベワリ

 鳥たちがやって来て子育てが始まると、森歩きにも熱が入り、毎日のようにゴソゴソと這いずり回る日が続きます。先日、落ち葉を踏みしめて歩いていると、先を歩いていた友人から「ルリ色のムヨウラン」という声が聞こえてきました。
指差す先を見つめると、瑠璃色のとても小さな植物が目に飛び込んで来ました。言葉にできないほど美しいその瑠璃色。その日は曇り空でしたが、雲の隙間から陽が差し込むと、そのムヨウランの瑠璃色が一層輝き、見入ってしまいました。

ルリ色のムヨウラン

 蕾の形からウスキムヨウランのようですが、一体何ムヨウランなのか。花軸の太さ、長さ、花期など考慮に入れると、ウスキムヨウランの色変わりということなのかなと思い、いつものように研究者に尋ねると、ウスキムヨウランの色変わりでいいと思いますとの返事をもらい、静岡でも見つかっていますので、名前がつくかもしれませんとのことでした。新たなムヨウランに出会えて、低地の照葉樹林の奥深さをさらに実感した日でもありました。そして、どのような名前になるのかがとても楽しみです。

キバナウスキムヨウラン

 屋久島ではウスキムヨウランの色変わりとしては、黄色い花色のキバナウスキムヨウランも時々見かけますが、このような菌従属栄養植物は、生息地が重機で壊されてしまったり、増水によって溢れ出た流水が自生地を襲い植物自体が流されてしまったり、シカに食べられたりとその数を減らし続けています。スギの植林地の多くが伐期を迎えているいま、重機の動く道としての路網の開設などが希少種の自生地崩壊や河川の増水にも繋がっていますので、スギ伐採の方法を吟味しなくてはいけないと思います。

シカに喰われたミドリムヨウラン
スギ伐採地

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山下大明/やました ひろあき
1955年鹿児島県生まれ。中央大学経済学部卒業。
小学生の頃から山歩きを楽しみ、大学卒業前後より屋久島の魅力にとりつかれる。
36歳で屋久島に移住。
文化出版局『銀花』の特集を多く手がけ、キヤノンカレンダーなど作成。
現在、低地照葉樹林を残すべく、「屋久島照葉樹林ネッワーク」のメンバーとなり、希少種調査などを行ないつつ、菌従属栄養植物の撮影を続けている。

写真集『樹よ。』『月の森』(野草社)、『水の果実』(NTT出版)、
写文集『森の中の小さなテント』(野草社)、水が流れている(文・山尾三省、野草社)、
写真絵本『水は。』(福音館書店)、『時間の森』(そうえん社)などがある。

日本写真家協会会員