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心不全による体液貯留と治療薬②

前回のnoteでは、
心不全の体液貯留が起こる機序・心不全に対する利尿薬の重要性についてお話しさせて頂きました。

今回は、
心不全による体液貯留に対する利尿薬による治療の基本方針と利尿薬の種類と使い分けについて話します。


フロセミドが選ばれる理由

ループ利尿薬は、
ヘンレループの上行脚のNa+/K+/2Cl−共輸送体を阻害し、血管へのナトリウムの再吸収を阻害します。
その結果、尿浸透圧が上昇して血管への水分の再吸収を抑えることによって利尿作用を発揮します。
利尿作用としては、一番強い部類なので第一選択として選ばれやすいです。
また、この薬剤は、腎血流量や糸球体濾過量に直接的な影響を与えないため、腎障害患者に対しても比較的使用しやすいことも理由として挙げられます。

ループ利尿薬の中で最も使われているのが短時間型のフロセミドであり、先発品のラシックスの名の通り作用時間が6時間と一番短いです。(last six=6時間続く)


急性期・慢性期の心不全に対する治療


そもそも、心不全の急性期・慢性期を分けるポイントとしては、生活上の体全体の
バランスが安定しているか否かとなります。

心不全の急性期では、急に息苦しさなどの症状が苦しくなり、緊急で入院を要する状態となります。
一方、慢性期の場合には、心機能低下はあるものの代償機構によって安定した状態であり日常生活が送れるレベルではありますが、感染症やストレス等をきっかけとして急性心不全に転期しやすい状態であります。

このような急性・慢性の心不全どちらにおいても、利尿薬は必要とされます。
急性心不全では、来院早期にフロセミドを投与した患者のいて院内死亡率が低かったとする研究が報告されています。

「ドア・トゥ・フロセミドタイム」と呼ばれる救急外来到着時からフロセミド 投与までの時間を60分以内とすることが理想とされています。
そのため、急速な効果の発現を期待して静注での投与が多いです。

その後、慢性期には内服に切り替えていきますが、フロセミド の経口でのバイオアベイラビリティが約50%と言われており、静注→内服へ切り替える際に用量は約2倍必要となることに注意が必要です。

なお、フロセミドの効果が不十分な時は、バイオアベイラビリティの高いアゾセミドやトラセミドが代替薬として使用されることもあります。


簡単に言うと、心不全急性期〜慢性期への移行に際しては

急性期にはすぐにフロセミド静注

⬇︎

慢性期では内服2倍用量


が基本方針となってきます。


ただ、心不全慢性期においてループ利尿薬を使用し続けていると、RAAS系の活性化・交感神経系の活性化等によって予後悪化の報告もされており、後述するカリウム保持性利尿薬や、サイアザイド系利尿薬をメインに使用した方が良いとされています。
(短時間作用型のフロセミドよりも長時間作用型でレニン分泌刺激の弱いアゾセミドの方が慢性期の安定した心不全には有効とされています。)

ループ利尿薬は心不全急性期でのコントロールに強いイメージを持っておくと良いですね。


カリウム保持性利尿薬


ループ利尿薬と共にスピロノラクトンを代表とした抗アルドステロン薬が併用されることが多いです。
ループ利尿薬はカリウム排泄作用もあるので低カリウム血症のリスクも考える必要があります。
利尿作用自体は強くありませんが、カリウム保持効果を期待した併用薬として使われています。

また、アルドステロンによるナトリウム貯留や臓器障害作用の抑制によって、降圧効果や心保護作用を有するため、降圧薬・慢性心不全治療薬として使用されることも多いですね。

サイアザイド系利尿薬


利尿薬抵抗性を認める場合に併用して使用されることが多いです。
ループ利尿薬に抵抗性を示す患者の一部は、尿細管でのNa再吸収増加が原因である事が多いため、遠位尿細管でのNa再吸収を阻害するサイアザイド系利尿薬が有用であるとされています。

利尿効果はさほど強くはないですが、強い降圧作用を有するとも言われています。
ただし、腎機能低下時の効果が乏しく、慢性腎不全患者では用いないという事が注意点です。

トルバプタン


トルバプタンは腎集合管においてH2Oのみを利尿させる点が特徴です。
これによって、血清Na値が低下しないため、血漿浸透圧を維持した状態での利尿が可能であり、血管内脱水を来たしにくいという利点があります。

特に、フロセミドと比較して血圧や腎機能への影響が少ないため、心不全の急性期より併用される事が多く、体重減少への効果も大きいです。


SGLT2阻害薬


こちらは利尿薬ではなく、元々糖尿病治療薬として開発されたものですが、近年の研究により心不全・慢性腎臓病への予後改善効果がある事が示されるようになっています。

心不全予後を改善する機序は未だ明らかとなっていませんが、利尿作用や血管機能への効果等様々な機序が複合的に寄与しているのではないかと言われています。

心不全の分類項目であるHFrEF(左室駆出率が低下した心不全)・HFpEF(左室駆出率が保持された心不全)両方において予後改善効果があり、現在注目を浴びている薬剤です。


以上が、
主な心不全患者の体液貯留に対する治療方針と治療薬分類となります。


参照:月刊薬事 2022年10月号 「身体・検査所見を体液評価に活かす 浮腫と脱水の薬物治療」



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