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12球団比較!「コスト」で考察する2020年ドラフト〜指名傾向に変化はあったのか?〜

どうも、やまけん(Twitter:@yam_ak_en)です。
先日公開した今年の大学生ドラフト候補の選手へのインタビュー記事ですが、大変多くの方に読んでいただけたようで非常に嬉しく思います。改めまして、ご協力いただいた選手の皆様、読者の皆様、そしてサポートしてくださった皆様、本当にありがとうございました。まだ読まれていない方は↓から記事に飛べるので、是非お読みください!

さて、今回はタイトルにもあるように、昨年(2020年)のドラフトを「コスト」の側面で振り返りたいと思います。

昨年は新型コロナウイルスの影響により、NPBは3月下旬の開幕を6月に延期し、公式戦試合数が143試合から120試合に削減されました。それだけでなく、開幕当初は無観客での開催を余儀なくされ、有観客開催となってからも球場の収容人数の制限を強いられるなど、プロ野球チームにとって重要な資金源となるチケット収入等を満足に得られずに多くの球団が経営に苦しみました。12球団の経営状況についてはこちらの記事が大変参考になるかと思うので、興味がある方は是非ご参照ください。

こうした球団の厳しい経営状況に加え、アマチュア野球の全国大会や国際大会が軒並み中止となるなど、プロ入りを目指すアマチュア野球選手にとって大切なアピールの場が消えてしまったことから「ドラフトはどうなるのか」といった声も多くの野球ファン、または関係者から聞こえてきました。

当然ですが、ドラフト会議で選手を指名することによって、球団は指名選手と契約するための契約金(育成選手の場合は支度金)や年俸を支払う必要が生じます。1人でも多くの選手を指名すればそれだけコストもかかることになります。
実際にアメリカのメジャーリーグ(MLB)では各球団の収入の減少が見込まれることを理由に、昨年6月に開催されたドラフトでの指名数が従来の最大40巡までから最大5巡までと大幅に縮小されました。例年1200選手ほどがドラフト会議で指名される中、昨年はドラフト制度導入後最少とされる160選手の指名にとどまりました。

結果として日本(NPB)ではMLBのように指名数や契約金等が制限されることなく、昨年10月26日にドラフト会議を無事に行うことができましたが、厳しい経営状況下に曝されている各球団が昨年のドラフトでどのような指名に至ったのか、「コスト」の面で振り返りながら書いていきます。

※ヘッダー写真は12球団公式ホームページより引用
福岡ソフトバンク: https://www.softbankhawks.co.jp/news/detail/00003914.html
千葉ロッテ: https://www.marines.co.jp/news/detail/00006102.html
埼玉西武: https://www.seibulions.jp/news/detail/00004173.html
東北楽天: https://www.rakuteneagles.jp/news/detail/00003432.html
北海道日本ハム: https://www.fighters.co.jp/news/detail/00002998.html
オリックス: https://www.buffaloes.co.jp/team/newcomer/
読売: https://www.giants.jp/G/rookie2021/
中日: http://dragons.jp/teamdata/draft/2020/
阪神: https://hanshintigers.jp/entertainment/season/2020/vol_1.html
横浜DeNA: https://www.baystars.co.jp/news/2020/12/1207_02.php
広島東洋: https://www.carp.co.jp/news20/n-240.html
東京ヤクルト: https://www.yakult-swallows.co.jp/news/detail/25284

全体指名傾向〜過去5年平均と比較して〜

本項では、昨年のドラフト全体のデータを2019年以前の5年間の平均データと比較しながら見ていきたいと思います。
※支配下指名選手は高校生、大学生、社会人、独立リーグと各キャリアごとに分類して集計していますが、育成指名選手に関しては便宜上「育成」と一括りにさせていただくことをお許しください。また、平均指名人数やこの後出てくる平均コスト等の数値は小数点以下を四捨五入して整数の形で表示していますので、その点につきましてもご了承ください。

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・指名人数
まず支配下指名人数ですが、2015年から2019年の5年間で平均83名が指名されているのに対し、昨年は74名と例年よりも少ない指名人数となりました。しかし支配下指名人数に関しては近年減少傾向にあり、一昨年も支配下指名人数は昨年と同じ74名だったため、昨年が飛び抜けて少なかったという訳ではないと言えます。

支配下指名人数の内訳を5年平均と比較すると、高校生と独立リーグからの指名は微減、社会人は半減、大学生は微増という結果になりました。このような結果に至った要因として、高校生の甲子園大会(選抜:3月、選手権:8月)、社会人の日本選手権大会(7月)などのドラフト会議前の全国大会が中止となり、スカウトが選手の実力を測りきれなかったこと、一方で大学野球界は全日本大学野球選手権大会(6月)こそ開催できなかったものの、ドラフト前の秋季リーグ戦等が各地で開催できたことで高校生や社会人に比べ指名に踏み切りやすくなったことが考えられます。

それでも高校生の支配下指名数が微減に留まったのに対し社会人の指名数が大きく減ってしまった理由として、近年多くの球団が若手選手の育成に力を入れ始めており、以前よりも「即戦力」のニーズが球界全体で低下していることが考えられます。また以前よりも高校生のレベルが全体的に上がっており、高校から大学や社会人、独立リーグ等を経由せずに直接プロ入りを志望する選手が増えたことも関係しているのではないかと考えられます。
実際に高校生のプロ志望届提出者は2015年の78名から105名→106名→123名→139名と増加し、昨年は「プロ志望高校生合同練習会」が開催されたこともあり過去最多の215名がプロ志望届を提出しました(NPBドラフト対象者に限る)。

一方で育成指名数に目を向けると、過去5年間の平均全体指名数が28名であったのに対して昨年は49名と大幅に増加し、育成ドラフト開始以来最多指名数を記録しました。理由としては、上述のように各球団が若手選手育成に力を入れ始めていること、全国大会の中止等の理由により実力の割に注目度が低い選手が多く、そのような選手を育成指名まで待って獲得した球団が多かったことなどが考えられます。また、社会人野球チームが企業の経営状況の悪化により採用中止や規模の縮小を余儀なくされたことで、「育成指名でもプロに行く」と決断した高校生や大学生が例年に比べて多かったのではないかと推測します。

結果として支配下指名と育成指名を合計した全体の指名人数は123名となり、過去5年間の平均111名を上回りました。本指名の人数こそ例年より少なくなったものの、全体の指名人数で言えば結果的に2015年以降で最も多くの選手がプロ野球界に入った年となりました。

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・コスト(契約金、年俸)
各球団が指名した全123選手が無事に契約を交わし、チームへの入団が決まりました。ここでは、選手に球団から支払われる契約金と年俸について見ていきます。

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この表では、2015年から2020年までのドラフト会議で指名され球団と契約を交わした選手の契約金(育成選手の場合は支度金)と年俸の平均額を算出し、それらを比較しています。表中にある平均新人コストは、[平均契約金(支度金)+平均年俸]で算出しており、新人選手1人と契約するのに必要な平均金額を表しています。

昨年の指名選手の契約金と年俸を過去5年平均と比較すると、契約金、年俸いずれも昨年の指名選手の平均額が過去5年平均を上回っていることがわかります。このため平均新人コストも支配下、育成ともに過去5年平均を上回っており、12球団平均で見れば選手1人にかかるコストは削減されていない(むしろ上昇している)と言えます。

カテゴリ別に見ると、大学生育成指名選手の平均コストが過去5年平均を上回っていることがわかります。大学生については、昨年19選手が上位(1位~3位)指名を受けましたが、これは田中正義(創価大→福岡ソフトバンク)投手や柳裕也(明治大→中日)投手、大山悠輔(白鴎大→阪神)選手らが揃い「大学生豊作年」と言われた2016年に並ぶ数となっています。
昨年は4球団競合となった早川隆久(早稲田大→東北楽天)投手や佐藤輝明(近畿大→阪神)選手らを筆頭に上位指名を有力視された大学生選手が揃っていましたが、それに加えてやはりドラフト会議前の秋季リーグ戦を開催できたことで高校生や社会人よりも比較的契約金や年俸が高くなる上位指名に踏み切りやすくなったのではないかと考察します。

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一方の育成選手に関しては、以前から比較的高い支度金や年俸を支払っていた福岡ソフトバンクホークス読売ジャイアンツが育成ドラフトで大量指名を行なったことが要因として考えられます。福岡ソフトバンクは8選手、読売は12選手を育成指名しましたが、支度金や年俸の水準は両球団とも以前と変わっていないため、この2球団が12球団全体の平均育成新人コストの上昇に大きく関与していると言えます。

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こちらの表では12球団全体での新人選手の総コストを算出しています。全体新人総コスト(支配下総コスト+育成総コスト)を比較すると、過去5年平均が49億9151万円だったのに対し、昨年は47億8170万円と、12球団全体で約2億円の総コストダウンが見られました。1球団あたりのコストに換算すると、過去5年平均が4億1596万円、昨年が3億9848万円となります。

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全体での指名数は2015年以降で最多となりましたが、支配下指名数が少なく、また比較的コスト負担が大きくなる傾向にある社会人選手の指名数が少なかったなどの理由から、結果として総コストは例年より抑えられています。しかし昨年同様に支配下指名数が少なかった2019年よりは総コストが微増するなど、昨年に限った極端なコストカットは見られませんでした。

・極端な指名数減少、コストカットが見られなかった理由の考察
各球団ともドラフトでの指名数や契約金・年俸等を極端に削らなかったのは、それだけNPBにおけるドラフト会議の重要性を認識しているからではないかと考えられます。NPBでは選手の移籍が少ないため、5年後、10年後といった将来のチーム構成を考える上でドラフト会議は欠かせないものとなります。近年はNPBでも徐々にトレードの件数が増えてきましたが、主力選手1人と若手有望株(プロスペクト)選手複数名のトレードが日常茶飯事的に行われているようなMLBと比較すると依然活性化されているとは言えませんし、NPBにおいては若手選手は特に移籍市場には出回りません。年に一度しか開催されないドラフト会議での指名が今後数年間から十数年間のチームを左右する可能性が大きいため、各球団とも大幅なドラフト指名の制限には踏み切らなかった、というより踏み切れなかったのではないかと考察します。

ここまで全体でのドラフト指名数やコストに関して見てきましたが、ここからは各球団ごとのドラフト指名を過去5年と比較しながら振り返っていきたいと思います。

【球団別傾向:オリックス】大社中心の指名でチームの基盤を固め、近年は高校生中心路線に転換

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