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「UZRが良い選手=守備が上手い選手」と言えるのだろうか?

(ヘッダー写真:埼玉西武ライオンズ公式Twitter)

どうも、やまけんです。
現代野球では「セイバーメトリクス」と呼ばれる様々なデータを用いた分析手法により選手の価値が測られるようになりました。特に、選手の守備の価値を測ることができる「UZR」という指標を耳にしたことのあるプロ野球ファンの方は決して少なくはないのではないかと思います。

果たして皆さんは、このUZRという指標を正しく理解できているでしょうか?

UZRは選手の守備の価値を測る上で非常に便利な指標である一方、“完全な指標”とは言い切れず、真の「守備力」を測るのは難しいのではないか、と自分は思います。今回は、UZRだけでは測りきれない「守備が上手い選手」とは一体どんな選手なのか、考察していきます。

従来の守備評価の欠陥

UZRなどの守備指標が誕生する前は、一般的に「守備が上手い」と評価される選手には大きく2つのパターンに分けられたのではないかと思います。

ひとつはエラーが少なく、守備率の高い選手。エラーが少ないということは捕球や送球でミスを犯していないということになり、それだけ正確に打球を処理している証拠となります。

もうひとつはダイビングキャッチやジャンピングスローなど、一般的に「ファインプレー」と言われる派手なプレーでアウトを取る選手。このようなプレーは試合のダイジェストやスポーツニュース、更に「珍プレー好プレー」に代表される野球番組等で取り上げられる傾向にあるため、それらを見た野球ファンの多くが「守備が上手い」という印象を抱くことは至って不思議なことではありません。

ですが、これらによる評価にはいずれも欠陥があったのではないかと考えられます。

まず、エラー数や守備率をもとに評価する方法ですが、エラーはあくまでも公式記録員の判断でつけられる記録であり、基準が記録員に委ねられるという点において欠陥があると言わざるを得ません。
例えば、足の速い打者が放った力の弱い内野ゴロの処理をミスしてしまったとき、ある記録員はエラーと記録するかもしれませんが、別の記録員は打者の内野安打と記録するかもしれません。

エラーをしなければ守備率は下がらない」という点においても欠陥があると言えるでしょう。守備率やエラーを気にするあまり慎重な守備をしたとしても、結果的に内野安打等で相手の出塁や進塁を許してしまえば元も子もありません。

本来、守備で目指すべきはエラーをしないことではなくアウトを取ることであり、評価すべきもエラーをしないことよりもアウトを取ることであるはずです。
守備率は「その選手がどのくらいの確率で飛んできた打球をアウトにしてくれるか」という点で参考にすることはできますが、それだけで選手の守備力を測ることには落とし穴があると言えるでしょう。

次にファインプレーをもとに評価する方法ですが、あくまでも見ている人の「主観」に委ねられることが多く、何をもってファインプレーとするか、守備が上手いとするかという評価軸が人によって大きく異なる点に欠陥があると考えられます。

ある選手がダイビングキャッチやジャンピングスローなど、難しそうに打球を捌くことで「凄いプレー」に見えるかもしれないものの、別の選手は同じ打球を難なく処理してアウトにしているかもしれません。
同じ打球を処理しているのにも関わらず、前者のように派手なプレーでアウトを奪取した選手のみが「守備が上手い」と評価されるのは、まさに主観での評価による弊害であると言えるでしょう。

余談ですが、シーズンオフに表彰されるゴールデングラブ賞もNPBでは記者投票によって受賞者が選出されるため、記者の印象に残る派手なプレーをした選手が受賞しやすい傾向にあると考えられます。「ゴールデングラブ賞受賞者」という肩書きがついた選手にはより一層「守備が上手い」という印象が植え付けられるといっても過言ではありません(もちろん受賞者は本当に守備が上手い選手である場合がほとんどですが)。

「UZR」という守備指標の登場

以前は「エラー」や「ファインプレー」など、個人の主観や曖昧な基準で選手の守備能力や価値が測られてきましたが、セイバーメトリクスの概念の普及以降、「どれだけアウトを稼いだか」「どれだけ得点を防いだか」という客観的なデータに基づき守備力を評価する様々な指標が作られました。今回取り上げるUZRもそのうちのひとつです。

UZRは「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」を表す守備指標です。
2001年にアメリカの統計学者ミッチェル・リクトマン氏によって提唱され、日本でも2009年からデータスタジアム社による算出が、2012年から合同会社DELTAによる算出がそれぞれ始まりました。

UZRの算出方法と構成要素

UZRは、

1. グラウンドを「ゾーン」に区分
2. それぞれのゾーンに発生した打球の種類(ゴロ、※ライナー、※フライ、バント)や速度(遅い、中間、速い)を記録(※内野へのフライ、ライナーは除外)
3. それぞれのゾーンに生じた打球がリーグ全体でどれだけアウトになったかを算出
4. 個別の野手のプレーを評価し「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」を計算する

という手順で算出されます。

ゾーン

上述のDELTA社では、この図のようにグラウンドをC〜Xの22方向と8段階の距離を用いてゾーン分けしており、それぞれのゾーンに発生した打球を記録してUZRを算出しています。

また、UZRは

RngR(守備範囲)
ErrR(失策)
DPR(内野手の併殺による貢献)
ARM(外野手の送球による貢献)

という4つの構成要素から成り立ちます。

【例】

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例えば、ショートの選手A,Bが上図のようなUZRを記録しているとします。
※守備イニング数は両選手とも同じであると仮定しています。

A選手はDPR、RngRともに0.0と平均的なショートの選手と変わらないものの、ErrRで4.0を記録しています。この場合、平均的なショートの選手よりも失策が少なく、それにより4点分の失点を防いだ価値があることが指標に表れています。
UZRは、RngR、ErrR、DPR(or ARM)の合計で算出されるため、A選手のUZRは4.0ということになります。

対するB選手ですが、ErrRでは-1.0を記録しており、平均的なショートの選手より失策が多く相手に1点分の得点を許していることになります。ですがB選手はRngRで5.0を記録しており、平均的なショートの選手より広い守備範囲で5点分の失点を防いだ価値があると指標上言うことができます。
結果的にUZRはA選手と同じ4.0ということになります。

UZRのメリット

UZRという指標の登場により、これまで主観でしか測れなかった守備力を客観的に評価できるようになったというのがメリットに挙げられるでしょう。

UZRは結果のみに基づいて算出されるため、個々の選手の印象やプレーの印象は一切排除された上で算出されます。打球が飛んだゾーンや強さ、それを処理できたかどうかによってのみ算出され、同じ性質の打球を処理して「源田だから+1.0点」「藤岡だから+0.1点」「ダイビングキャッチしたから+0.5点」などと選手やプレーによって加点具合(減点具合)が差別されることはありません

主観や印象で「守備が上手い」と思っていた選手が、実はUZRに目を向けると突出した数値を記録していなかったり、逆に「守備が下手」だと思っていた選手が実はUZR上では失点抑止に大きく貢献している…などと気づいた経験が皆さんの中にもあるのではないかと思います。

実際に、2012年にこのような事例があります。
当時サードで守備率.979(5エラー)を記録しゴールデングラブ賞を受賞したヤクルトの宮本慎也選手と、同じくサードで守備率.924(29エラー)を記録した広島の堂林翔太選手のUZRを比較した結果、年間で29エラーを記録した堂林選手のUZRが宮本選手を上回っていたのです。

鳥越:はい。ではこのUZRを使って12年の宮本と堂林の守備力を比べてみましょう。そうすると、宮本のUZRは「−0.3」、堂林のUZRは「3.8」なんです。

カネシゲ:わわっ、堂林のほうが指標は上ですね。これはどういうカラクリなんですか?

鳥越:失策だけで評価をすれば、宮本はプラス(3.0)で、堂林はマイナス(−6.0)です。しかし「守備範囲の広さ」をみると、圧倒的に堂林のほうが上なんです。宮本の「−4.7」に対して、堂林は「10.0」ですから。

カネシゲ:併殺の能力を含め、それらを総合すると、宮本のUZRは「−0.3」で、堂林が「3.8」と逆転してしまうんだ。それほどまでに守備範囲は大事なんですね。

鳥越:普通の野手が捕球できない球にも届くってことですから。それによってエラーはするかもしれないけど、二塁打や三塁打になってしまうのを防いだかもしれないわけです。

カネシゲ:なるほど。

(記事内より引用)

従来の考え方だと「年間で29個もエラーしている堂林がゴールデングラブ賞の宮本より守備で貢献しているわけがない」と思われても致し方ないかと思います。しかし、堂林選手がこの年記録した29個のエラーの中には、他の選手なら追いつかずにヒットや長打になっているような打球も含まれており、それを広い守備範囲で阻止していた可能性もあったと考えられます。
当時、スタジアムや野球中継で見た堂林選手のエラーの印象はよろしくなかったかもしれませんが、堂林選手も守備面で確実に貢献していたと指標上は言うことができます。

また、複数の項目から構成されるため「この選手は守備範囲(RngR)に強みを持っている」「この選手は失策(ErrR)に改善の余地がある」など、その選手の守備面の特徴が数字の面からわかることもメリットに挙げられるのではないかと思います。

UZRが“完全な指標”ではない理由

ここまで、UZRのメリットについて書いてきましたが、ここからはUZRが完全な指標とは言い切れない理由について書いていきたいと思います。

①相対評価であり、算出元の違いにより値に差が生じる

まず挙げられるのは、算出元の違いにより値に差が出る点です。例えば、現在日本では上述のデータスタジアム社合同会社DELTAによる算出が行われていますが、両者で値に差が生じています。

データスタジアム社の場合、両リーグ6球団の平均が0になるように調整されていますが、DELTA社の場合は12球団の平均が0になるように調整されています。
また、UZRを算出する過程で用いられる打球のゾーンや強さも、NPBが公式に発表しているものではなく、各社の記録により決められているので、この点に相違が生じて数値に差が生じている可能性は否めません。

UZRを参考・引用する場合は「データスタジアム社のUZR」なのか「DELTA社のUZR」なのか注意する必要があるでしょう。

また、上記のことからもわかるように、UZRはあくまでも相対評価であり、その選手の守備力の絶対値を表しているわけではないという点にも注意が必要です。「そのポジションを守る平均的な選手と比較して…」という前提を忘れないようにしましょう。

②守備イニングの少ない選手は測定が難しい

UZRは「守備により防いだ得点数」を表す指標であり、「本塁打」や「打点」などと同様に多くの試合に出場した選手の方が絶対値も大きくなります。
DELTA社では「1000イニングあたりのUZR」を示すUZR/1000や「1200イニングあたりのUZR」を示すUZR/1200などが算出されていますが、これらの数値はあくまでも参考記録と言わざるを得ません。 

1回から9回まで試合に出続けて打撃や走塁もこなす選手と、試合の終盤に守備固めで出場する選手とでは蓄積する疲労度や集中力に大きな差が生じますし、それが守備に与える影響も大きく異なります。

守備固めからの出場が多い選手が好守を連発しUZR/1000で好数値を記録していたとしても、その選手が実際に1000イニング守った時に同じパフォーマンスを発揮できる保証はありません。

③結果のみで評価され、プロセスが評価されない

UZRを測定する上で結果「のみ」に基づいて算出されるという点は、主観を排除して守備力を測定・評価するために必要な要素であると言えますが、「どのような過程でそのプレーに至ったか」というプロセスは数値では評価できないという点が最大の問題点なのではないかと自分は思います。

守備の際には、試合展開や点差、ランナーの有無、打者の打球傾向、投手の球種・球質やバッテリーの配球など考慮すべき要素がいくつもあります。その上で、
・どこにポジショニングするか
・どの塁でアウトを取るのか
・誰がどこにバックアップ、ベースカバーに入るか
・失点を阻止すべきか、またはアウトカウントを優先すべきか

などを各選手が理解すること、そしてチーム全体で確認・共有することが求められます。

守備とは「守り」に「備える」と書きます。
飛んできた打球を追いかけて、捕球し、送球することだけが守備ではなく、ポジショニング、打球が飛んでこなかった際の動き、そのためのプレー以前の状況確認や共有まで含めて、本当の意味での「守備」と言えるのではないでしょうか。

プロ野球選手の中には、稀に超人的な身体能力を活かしてアウトを奪う選手がいます。もちろん凄いことですし、アウトを取ることでUZR上はプラス評価されて数値は良化します。
ですが「その選手が最適なポジショニングをとっていたか」「打者やバッテリーなどの特徴を把握し、チームとして守備面の状況確認ができていたか」など、プロセスとして「守備」を完璧に行うことができたかどうかは結果と切り離して考え、評価する必要があるのではないでしょうか。

守備のプロセスに関してはUZRのように明確に数値化して評価できるものではないですが、

「あの打球に追いついたのは凄いが、打者の打球傾向を踏まえて正しいポジショニングをしていたらもっと楽にアウトを取れたかもしれない」
「深い位置からよく一塁まで投げたが、一塁ではなく二塁に投げていればより確実にアウトを取れていたかもしれない」
「ダイビングキャッチは凄いけど、点差や局面を考えたらリスクを負って無理に打球に飛び込む必要性は低かっただろう」

などとプロセスを振り返り、フィードバックすることによって、チームとしての「守備力」が向上するのではないかと自分は思います。

まとめ:「守備が上手い」の定義とは

ここまで、UZRについてメリットや問題点を挙げてきました。
UZRは選手の守備面での価値を測る上で非常に便利な指標である一方、見方や扱い方を間違えると落とし穴がある指標でもあり、細心の注意が必要であると言えます。

では、野球における「守備が上手い」という言葉の定義とは最終的にどうなるのでしょうか?

エラーをしないこと、ファインプレーができること、UZRの数値が良いこと…どれも完全な正解と呼ぶには物足りなさが残ります。

野球における「守備が上手い」という言葉の定義を、自分はこのように考えます。

①打球処理能力が高く、様々な打球をアウトにできること
②自分のポジション以外の打球・送球に対してもベースカバーやバックアップ等の動きが徹底できること
③打球が飛んでくる前の準備や確認に余念がなく「ミス」を最小限に留められること

そして、これらの要素を全て兼ね備えた選手こそ、真の意味で「守備が上手い選手」と評価されるのではないかと思います。

この中でも自分が重視するのがです。
①の打球処理能力を向上させるためには、練習を重ねて技術や身体能力、反応速度等を磨く必要があり、短期間で劇的に向上する(させる)のはプロでも容易ではないと思いますが、②と③に関してはプロ野球選手であれば意識次第で誰にでもできることだからです。
(以前アップした菅野剛士選手に関するnoteにも通ずる内容なので、リンクを貼っておきます)

テレビやインターネットの野球中継では打球の行き先にカメラが向くため、打球処理能力については中継の映像でも十分わかるかと思いますが、ベースカバーやバックアップの動き、ポジショニング、更にプレーの前の準備や確認等の動きは野球場で実際に観戦してみることでより鮮明にわかるようになるのではないかと思います。

今回、このnoteを読んでいただいた上で「守備が上手い選手を探したい」「贔屓チームで守備が上手いと言える選手は誰なの?」などと思った方は、是非球場に直接足を運び、試合の中での選手の守備時の動きに目を向けてみることで、本当に守備の上手い選手が誰なのかが見えてくるのではないかと思います。


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